魔法の森を抜け、帰路の田圃道に合流する。 後ろをつけてきた鶏(おそらく護衛のつもり)に軽く会釈をした。鶏も、小さく会釈をした。 「お疲れさまだ。気を付けてな」 「うん」この鶏喋れるんだ。今まで喋らなかったのはなぜだろう。 そんなことを気に留め…
幼馴染に謝辞と謝罪をしようとしたら、 つんのめって好意の告白をしてしまった。僕の金で買った彼女のてんぷらを食べる手が止まるほど、 それは彼女にとって衝撃的だったらしい。 身動きが取れなかった。 心にもない事を言ってしまったわけじゃない。 頭の中…
眼前の弱い光が、僕のまぶたをゆっくりと指で押し上げる。 飛び込んできたのは、ぼやけた濃淡のある古い木の色。 斜めに差し込んだ茜色の薄らいだ光が、背後の窓から僕の膝に降りていた。部屋を見回すと、小型の行燈が小さな木の机の上に置いてある。 その横…
帰り道にソナレノから色々調べてきたけど、と切り出された。 言いたい事だけ言って、道の半ばで姿を消した。 言っている内容もわざとまとめていない。 僕に考えさせるためかは知ったことではない。 彼女が何も考察をしないのなら僕が考えるしかない。鈴虫の…
どうにかして、巨大な翼を持つ少女との戦闘を回避できた。 溶岩に落ちるか、溶岩に落ちるか、彼女と戦うか。 考えてみれば三択だった。もちろん行先は全て死だったが。そんな危機から生還できたのも。僕の背中で深い息をしている、持病で倒れた少年、ペディ…
ひたすら体が持ち上げられる感覚に、いまだに慣れずにいた。 自分は落ちているのかどうかさえ疑問に思うほど、長い。だんだんと気温が上がり、下方が赤熱しているかのように、 薄赤くぼんやり発光しているのが分かった。視界が明るく、赤くなるにつれ不安は…
ここに所属して多少の時間が経っているが、やっと初仕事が舞い込んだ。 向こうに見える人影をこの外に追い返すこと。鼻息を荒くして、駆け抜けた。 浮かない顔をしたソナレノも横について、人影を目指していた。「どうしたんだよソナレノ、普段はもっと明る…
砂銀の住む国の地下、地霊殿のある地底。 そのはずれの方に、僕たちがよく行く呑み屋があった。僕は、滅多に呑んだりしないが。「そういえば、最初お前は僕を憎んでたよな」 砂銀が煽った杯を空中に止めて、こちらに振り向く。 「…師匠、忘れちゃったのか?…
昇格試験という名目で僕はマントを奪われた。 早くこの狛犬を倒して、僕の分身にも似たマントを取り返す。 昇格の事も頭の中に無いではないが、鳴りをひそめていた。目標まで数メートル、息が荒くなるのを感じた。 暗闇のなかで、巨大な狛犬のしなやかで頑強…
「空気がおいしいね〜。地下のくせに」 「それ、僕以外の前で言うなよ」少女は全く気にとめた風もなく、虫の声が響く夜道を楽しんでいた。 おとといの晩目の当たりにした、真っ赤な封筒。 場所と日時だけ指定されて呼び出されたのだ。もう、かなり歩いた。差…
「もしよかったら、ついてきて下さい」 僕の目をこじ開けた、幼い紺色の髪の少女は僕の手を軽く引いた。 この状況において、僕に拒否権はないと考えていいだろう。 「はいっ、ついてきます」 すぐに立って彼女のあとに続く事にした。そう、この幼女が通ると…
「さて」 アヤクと名乗ったがたいの良い犬のような青年はやおら正座を崩した。 威圧感のようなものは彼には無かったけれど、 初対面の人間に対して警戒してもしすぎるなんて事はありえない。「どういう用件で」 口が、乾いていたのを感じた。 「大した用事で…
狼少年、砂銀の家のそばに清潔感のある人の少ない定食屋があった。 喫茶の役割も兼ねたそこに、お昼時二人で食事をしていた。「なあ、ヒカリはどうしていつもじゃがいもは生で食うんだ。 茹でた方が柔らかくておいしいと思うんだけど」 考えてみれば、確かに…
草のにおいを強く感じた。 どうやら、さきほど雨が降ったらしい。静かな林だったけれど、妙な威圧感を覚える。 ここにいてはいけないような気さえする。風が、吹いた。「…動くな、さもなくば首を跳ねる」 明確な殺意の籠る女性の声に冷や汗を促された。背後…
「なあってば!なんで無視するんだよ!」 さきほどから、狼少年に付き纏われて困っている。 それも、数時間前に攻撃してきた奴がである。 介抱したとはいえ、あまり関わりを持ちたくないところだ。ただ、それ以上に。 「僕はお前に興味がない。だから、これ…
「結構遠いんだね」 二件目の休憩。 今度は屋台ではなく、ちゃんとした呑み屋である。 さすが地下と言ったところか、薄暗く穏やかな陽気だ。そして何よりも、呑み屋が多い。 物の値段や質が場所によってピンキリ。 若干の違いではあるけれども、それすら新鮮…
重たい灰一色の空模様の下。 草の香りが混ざる木の戸の前で、何度も知り合いの名を呼んだ。 「いないのか…?」 「そのようですね、見てきましょうか隊長」 尻尾にぶら下げている籠から、高い声。私の相棒の小鼠だ。 「いや、いい」 粗末な戸に手をかけると、…
前を歩む少女の足取りは、躊躇なく、軽やかだった。 手押し車のカラカラという音が小気味よかった。 あたかも足を引きずる怪我人に、 ついておいでと言ったことを忘れているかのようであった。そもそも、怪我を治そうかと言われてついてきたのだ。 ご飯を食…
のうのうと湯に浸かっている気分でもないので、 二人で湯船から上がって、着替えることにした。 男性用の脱衣所に、三人。「もうすぐ襲ってくるって、いつかはわかるのか」 「うーん、もうすぐかな」 彼女が何者か、本当にわからない。 服装が妙なのはそう驚…
人間が苦手だ。 別に信念をもって嫌っている訳じゃない。 むしろ好きか嫌いかで言えば好きだ。「おっちゃん、これでいいよね」 「おう、あとそこの大根もな」 こうやって、人の下で働くことに喜びを覚える体である。 人間が嫌いなはずがなかった。価値観だっ…
先生の通る声が、そのまま僕の耳から明後日の方向へ通り抜ける。 僕はまた小さな事で悔やんでいた。教科書を一斉に開く音がワンテンポ遅れる。「…」 横で、誰にもわからないくらい小さく身を乗り出した。 その姿は一瞬だけ視線をやって、僕の表情をうかがっ…
彼女は今日もいつもの数人の友人と談笑していた。 表情は決して豊かじゃないけれど、口元はよく動いた。 饒舌ではなかったけれど、返しが早くてよく切れる人であった。近頃ぼんやりと、休み時間を何もせずにこうやって過ごしていた。 昼休みには、その数人の…
意識が混濁していた。 足取りはふらふらとおぼつかなかった。ぼんやりしている視界に映る景色は、どうやら和室らしかった。 もぞもぞと布団から出て、多少の無理を冒して立ち上がる。 肩を木目のある壁に這わせた。 僕がどのような経緯でここにいるのかはわ…
ぼやけた視界に、赤、赤。 沢山の上に伸びる線と、輪郭のはっきりしない赤が視界を覆う。身体を起こすと、赤い柔らかいものが顔ではじけた。 手に取るとそれは彼岸花であることが分かった。 見渡せば、この辺り一帯全ての赤は彼岸花の色であった。 他には乾…
少しだけ気温が落ち着いてきた。 空気の蒸し暑さもなくなってきた。何よりも、木の種類が少しだけ変わっていた。 地面に落ちる葉も細く尖った物が増えている。勾配は依然として急だ。 空気は薄かったが、息が切れる様子はない。 気持ちが高ぶりつつあった。…
眼下の世界と言えば大げさだろう。 だが、視界の大部分は薄い緑だった。腿から下が重い。目を覚まして身体を起こした。 膝の上に薄緑の髪の少女がピンクの袖を流して上品に寝ていた。たったそれだけの話だ。桃色のワンピースではあるのだが、 脇腹から脇のや…
草を踏み分ける静かな足取りが、湿気の多い夜の林に降りる。 一人の少女が迷いなく歩を踏みしめる度に、 緑のスカートの裾が小さく揺れた。白い靴下の下方の靴は、小石を蹴り上げる。 背負った二本の大小の刀は月明かりに黒く映えていた。気温の高い林に似つ…
「…どうして、こうなっちゃったのかなあー」膝の上に載せた肘が、頬杖を作って少女の重い頭を支えていた。 悶々とした感情が、彼女の頭を包んでいた。少女は迷いに取りつかれていた。何十年も何百年も目を開かない、横たわった青い髪の少年の前で。 少年の口…
名前 深水 光(しみず ひかり) ヒカリ初登場 一話種族 人間→??? 年齢 15歳→108歳性別 男 身長 中→低 二つ名 ??? 能力 ??? 人間友好度 中 危険度 不明 戦闘能力 ???口調 基本的に丁寧だがやや粗暴な面あり 一人称 僕 二人称 お前 容姿特徴 やや長めの紺色の…
だんだんと自分の息が荒くなっていく。 比例して、憤りも募ってきた。ため息をついても、吐息は絶え間がない。 まだ冷え冷えとする湿気を含んだ空気は、不安を余計に駆り立てた。 今日も、見つからなかった。 地面を殴ったら、深くへこんだ。放っておけるも…