2013-12-01から1ヶ月間の記事一覧
「玉子丼ひとつお願いします!」 通る低めの声が厨房に響き渡る。いつもの光景だった。 何も変わらない時間が、紫詠さんのお店でゆったりと流れていた。 「…私たちも、お昼にしよっか」ぴのすけが何も変わらない笑顔で僕にそう持ちかけた。あの事件から百余…
春にも似た柔らかい日差しの中で。 僕は大鍋をゆっくりとかきまぜていた。「…ぴのすけ、怪我しないでよ」 少女は緩い風に腰マントをたなびかせ、笑顔で頷く。 その手に握られた包丁が、トン、トンと小気味良い音を立てていた。広場に人が徐々に集まりだして…
歩いている実感は無かった。 それどころか、立っている地面さえもないような気がして。ただ目の前が白かった。 ひたすら、だだっ広い白だった。帰路を僕とぴのすけと紫詠さんの三人で歩いていると、 引きずりこまれるようにこの世界にきていた。この場所の正…
先の見えない林道の暗闇の中で、手探りで彼女の手を捜す。 水の激しく流れる音が遠くでした。 …川の水が戻ったのだ。 沙代ちゃんの身体は、水で出来ていたのだ。 彼女が未練を晴らしたところ、あの雪もどきが全て水に戻った。村は、水不足から救われた。 明…