2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

東方幻想明日紀 十話 まっくら闇の中で吐いた嘘

(起きて、起きてよ。)かすかに響く小さな声が、胸を震わせる。 薄く目を開けると、薄明かりの苔に照らされる洞窟が目に入る。たった、一人だった。「…そな?」確かに、そなの声だった。 周りに誰もいないからではない。そなの声のような気がしたのだ。 こ…

東方幻想今日紀 九話 僕は人妖、どっちつかずのコウモリ

お世話になった人里の青年、紫詠さんに、 僕が泥棒をしているところを見られた。蛇に睨まれたようにその場から逃げだせもせずに、 僕の脚は地面に固定されていた。青年の瞳には疑惑は含まれていなかった。 僕を地面に強かに留めているのは罪悪感と、良心の呵…

東方幻想明日紀 八話 慣れは身を溶かす微温湯

刺すような日差しが、僕たちを照らす。 冷え切った眼差しは、土まみれの少女だけに注がれていた。 貫くような嫌な気配に、向けられていない僕まで凍りつくようだった。 「獲物…か。弱者ほど手段は選ばないものだが… さすがに土に生き埋めすることはないと思…

東方幻想明日紀 七話 獰猛な白兎と九尾の狐

「おはよおー、もうお腹平気ー?」重い目蓋を上げると、視界には木の棒に刺さった焼き魚。 良い匂いが、鼻をつんと突いた。「…うん、平気。」僕はその棒を受け取ると、その魚のお腹にかぶりつく。 噛んで、思い切り呑み込むと芳醇な魚の香りと歯ごたえと。そ…

東方幻想明日紀 六話 人に背かず、妖として僕は生きる

小さな小さな足音が、僕の目をはっきりとこじ開ける。 寝ぼけた意識を一瞬で吹き飛ばす、些細な足音。「人里にいくの。」 身体を起こして、深淵の洞窟の出口に向かって言う。「ヒカリも行くー?」ぴのすけの、楽しい狩りの時間だった。 もちろん僕は楽しくな…