ナズーリンにお返しのクッキーを渡すまで 上

彼女は今日もいつもの数人の友人と談笑していた。
表情は決して豊かじゃないけれど、口元はよく動いた。
饒舌ではなかったけれど、返しが早くてよく切れる人であった。

近頃ぼんやりと、休み時間を何もせずにこうやって過ごしていた。
昼休みには、その数人の友人とどこかにいく。
きっとどこかで昼食を食べているのだろう。

僕は独りぼっちだったけれど、毎日が幸せだった。
同時に、毎日が辛くもあった。

乾いた息が、頬杖の先の冷たい机に落ちる。



「…また同じクラスだねっ」
受話器の向こうから、少しだけ弾んでいる朗らかな高い声。
幼馴染の丙(ひのえ)のよく知っている声だった。
「正に腐れ縁ってやつだね」
「そんな言い方はないよー、そこは喜ぶとこ!」
冷えた機械を挟んでこだまする明るい笑い声。

僕達は無事入試を切り抜けて、この春晴れて高校生になった。
今日した事は、教材や運動着などの購入。
そして、クラス編成の発表。
今回一緒になった彼女とはかれこれ小学校からの付き合いだった。
クラスこそ違う時もあったが、結局同じ学校になっている。

電話なのに、切るときに手を振ってしまっていた。
受話器を静かに置いた。
時計の針を見ると長い針短い針、真上にぴったりと重なっていた。
…随分と、話し込んでしまった。

なんだかんだで、色々助けられている。
彼女は芯の通った強い奴だ。
僕なんかよりも、ずっと。

制服を脱ぎ捨てて、もぞもぞと冷たいパジャマの袖に腕を通す。
身震い一つして、布団の中に入り込む。
いつもより高く見える天井に視線を当てていると、単調で。
意思に反して、くたびれた腕が布団に叩きつけられる。
目蓋が重くなって、落ちた。


まだ寝ぼけた頭で朝もやのかかったコンクリートを踏みしめる。
肩に食い込む鞄の紐が痛かった。
いつもよりも道が狭く感じた。
すれ違う人が置物に見えた。
身体が強張っていたのだ。
胸が嫌な高鳴りをしているのが、自分でもわかるほどに。

定期券を改札口に入れて、出口から素早く引き抜く。
時間には余裕があるはずなのに、早足は加速していく。
急きたてられるように階段を一段飛ばしで降りてホームに駆け込んだ。

時間より20分は早いのに、既にホームには電車が居座っていた。
一瞬身体が固まった。
発信の合図の音。

身震い一つ、駆けだして反射で身体、鞄を滑り込ませる。
「危ない危ない…」
頭をゆっくりと上げると、荒い息をしていたのがわかった。
肩の上下が静かになると、この電車が一本早いものと気付く。

ああ、ちょっと考えればわかったはずなのに。
もたれかかるように、頭上のベージュの三角に手を投げ出す。
とりあえず空いている座席を探して、一息つこう…

電車内を見回すと、黒いスーツや白いワイシャツ。
モノトーンな車内にぽつり、目を引く小さな紺色があった。

僕の服と同じ色調のブレザーにひざ丈の濃紺のスカート。
暗灰色の鼠のような耳。肩の辺りからちょろりと出る、細い…尾?
その小柄な少女は二人掛けの座席に両肩をすぼめて、
物憂げな瞳が反対側の座席の流れる景色を見つめていた。

その少女はどうやら、僕と同じ学校の生徒らしい事が見て取れた。
彼女も僕のように電車を間違えたのだろうか。
話しかける勇気はもとより、近づく気概さえわかなかった。

凝視していると、不意に目が合った。
澄んだ両の紅の目に、僕だけが映っているかのように。
蛇に睨まれたように、凍りついていた。
吊革を持つ手が、冷たくなった。
どれだけの時間、僕と少女は目を合わせていただろうか。
「つぎゃあ、※※※えきゃす」
電車の中に響き渡る鼻声が、僕の視線を正面に引きずり戻した。
下を向いて、重たい息が喉をついて出てくる。
結局そのまま吊革に体を預け、揺られるがままとなった。
頭の中には、さっきの真顔でいっぱいだった。

薄い口元は動く気配を見せなかったが、何かを訴えていた。
あの時、僕はにこやかに笑うべきだっただろうか。
向こうはどんなふうに思っているだろうか。
きっと、顔をそむけたのはまずかったろう。
そんな出口のない渦が頭の中を回りだした頃だった。

視界の上端に横切った看板の文字。
弾かれたように肩を痛める鞄を担ぎ直して、ドアの前に駆け込む。
外に出ると、熱かった顔が急に冷えた。

どうせ、さっききりの縁なのだから忘れてしまえばいい。
そんな結論がやっと出た。

少しだけ軽くなった足取りで改札機に定期券を入れて、
優しくそれを抜いた。

仰々しい装飾でできた門を抜けて、人の気配のない階段を駆け上がる。
僕の教室は、三階の一番端だった。
愚痴めいた事を呟きながら、教室の前の戸に貼ってある紙を見た。
自分の名前の位置を確認して、金属の長方形に手をかけて引いた。

…目を疑っていた。
あの鼻声が、今度は頭の中でこだました。

喉まで出かけた声が、固唾になって引っ込む。
ドアの隙間から身体を滑らして、階段を丁寧に丁寧に下りた。

片膝に掌を押しつけ、階段の踊り場で頭を掻きむしっていた。
出来る事なら、打ち付けてもよかった。
「…あれ?どうしたのこんなところでっ」

跳ねた語尾が妙に頭に溶け入った。
顔を上げると、僕の顎のあたり、癖のある湾曲した幼馴染の前髪。
「別に、なんでもないよ」
差し出した手を払いのけるように、僕は上体を起こした。
少女の頭が、下に下がった。
もやもやした気持ちのまま、後ろを振り返って木の板を踏み抜いた。
それに案ずるように、後ろの足音は付いてきた。

「そういえば、入学式が先なんだって。荷物置いたら体育館にいこ」
後ろの方の声に押されるように、僕は歩を強く進めた。


すし詰めにされ、スーツの経を聴くだけの一時間が終わった。
教室に戻ると、すぐに先生と思しき人が入って遅い拍手。
僕たちの担任は、眉間のしわの深い初老の男性だった。
「そいじゃね、まあお互いを知ることから始めようか」
そんなコピーペーストのようなひたすら安易な言葉を投げ捨てて、
彼は僕たちに自己紹介を促した。
既に朝の出来事など頭の片隅に追いやられていた。

皆が皆、角ばった定型句を、好きな食べ物の緩衝材を添えて。
時折不良アピールするものもいたが、それは無かった事になった。
強張った雰囲気はさもありなん、僕の頬杖は深くなった。

ふいに、視界を横切る灰色の毛束。
教壇に上がる控えめな足音。
ナズーリンといいます。好きな食べ物はチーズです。
 三年間よろしくおねがいします」
教室に通った事務的と言い切っていい低い声。
思う所があって、僕はやおら机から肘を外した。
ネズミ耳の少女は小さく一礼して、また僕を通り過ぎる。
後ろの方で、椅子の足が床を擦る音が聞こえた。


「何だか、皆緊張してるんだね」
「だね」
横の席の丙がそっと耳打ちをしてきた。
僕は苦笑して、筆箱を取り出した。
新しい環境なんて、とかくそんなものだろう。
ざわざわした中に耳を澄ますと小さな会話があちこちで聞こえる。

見渡すと不良アピールをしていた奴の周りに、
既に元気そうな男子が数人集まって談笑を始めていた。
やっぱりというか、そういった奴は人とのかかわり方を心得ている。
僕だったら、取り返しのつかない事になっていただろう。

…視界の端から、それを真中に。
文庫サイズの本を片手に、肩を狭くして読む灰色の影を見出した。
僕は立ち上がって、彼女の傍に歩み寄った。

半径2mに入ると、少女は本から顔を上げた。
眉根一つ動かさず、僕の頭のはるか後ろの方を見つめていた。

初めて気がついた。
何を言おうか考えていなかった事だ。
ニ回も目が合いましたね?
そんな事を言ったら変な奴だと思われてしまう。
折角、中学生の経験を生かして無難に自己紹介を終わらせたのに。
それを台無しにしてしまっては意味がない。

じゃあ、何の本を読んでいるのか尋ねようか。
一瞬はそう思ったのだが、本の表紙には「こころ」とひらがな。
残念ながら平時漫画しか読まない僕に文学の話ははできそうもない。

額に、嫌な汗が染みだしてきた時だった。

「あ、ナズーリンさん、だっけ。漱石読むんだ〜」
ひょいと顔を傾けるようにして、丙がその少女の正面に立った。
ナズーリンと呼ばれた少女は面喰らっていた様子だった。
少しの間を置いて、無表情は机の正面に向いた。

「えっと…丙さんですよね」
「うんっ、そーだよ!覚えてくれたんだ!」

冷や汗が引いていた。
よく知る笑顔は生き生きとしていたように見えた。
緊張の面持ちは、僕だからこそ見出せるようなもので、
他の誰かにはまずわかったものではない。

少女の自然な饒舌は、ナズーリンさんとの話を弾ませていた。
鼠耳の少女は顔の糊が溶けたように、幾分表情が緩んでいた。
ふと丙が、小さく僕に目配せをした。

高校生になっても、彼女はやはり変わらなかった。
後でお礼を言わなくちゃな…。

そんな風にして、初日は事なきを得た。




校門の桜が散って、青々と萌えだしていた。
だんだんと僕にも、男子でよく話す人が出来るようになっていた。
既にある程度のグループが出来上がりはじめていたのだ。

名簿番号で、少し離れた人が隣になる。
一つのプラスマイナスは、前後になる。
人として相性がいいかどうかはさておき、話す機会はあった。
幸いにも、僕はその周りと馬が合った。隣には丙もいた。

だから、黒板に描かれたいくつかのいびつな正方形。
そんな番号の描かれたマスを疎ましく思っていた。

僕が握りしめていた割り箸の数字は窓側、最高列を示した。
椅子を上げて、その上に教科書類を無造作に置いた。
心なしか、見た目より重たいもののように感じられた。

机同士のラッシュアワーの中。
停滞、微進を繰り返した末ようやく辿り着いた。
椅子を下ろして、腰を狭い椅子に収めた。

そして、いつものように肘で机と顎の間を突っ張らせた。

顔は正面を向いていたのだが、すぐに強い力に横に引っ張られた。

数週間前の鮮明な記憶が割り込んできたのだ。
あの憂を含んだ、小さな挙動ひとつが、視界の端に留まって。
視線は釘づけになり、秒経たぬうちに強い力で引き剥がされていた。

僕は明らかにぎこちなかった。
そして、あいにくそれを振り戻す術は手持ちに無かった。

ただ、挨拶すらせずに黙り込んでいた自分がいた。
考えてみれば、今真横に行儀よく座っているナズーリンさんとは、
談笑はおろか、一言の「はじめまして」すら交わしていなかった。

強張った、視線のぶつかり合いのみで終わっていた。
無理に正面を向いていても、頭の中では隣の席に全視線が注がれていた。

彼女と会話するきっかけを、全て摘んでしまったのだ。
僕はけしてあがる性質ではないし、むしろ話好きだった。
ただひたすら、おかしな事を考えていた。

そんな異常事態を前に、
ただ直前の記憶を頭の中でぐるぐると再生して、後悔して。

再生して、後悔して。

その一日は、途轍もなく途轍もなく長かった。
正面以外を向く事を許されなかった日が終わった。


その晩の事だった。
ベッドの上で、僕は力なくスマートフォンを手にしていた。
件名と書かれた横の小さな細い枠を、震える親指で触る、なぞる。

「大したことじゃないんだけど」
そんな使い古されたうわべのみの文字を躍らせて、次は大きな枠。

何度も何度も考えて、そして全文を消した。
何回かそれを繰り返して、幾度も目で短い文字列をなぞった。

声に出すと、きっと送れなくなってしまう。
それを恐れて送信ボタンを押すとスマートフォンを伏せた。

返信が来るまで漫画でも読もうと近くの背表紙に手を伸ばそうとしたときだった。

聞きなれた音楽が、背中の全ての毛を冷たい手で逆向きに撫でた。
振動の設定は、していなかったはずだった。
おそるおそる、スマートフォンを裏返す。

  そういえば隣になってたね(笑)
  私もまだよくわからないんだけど、
  自分の事はあまり話さない子かなっ。
  悪い子じゃないと思うよ!多分!
  あと笑顔がすごいかわいい。こんなの→(゜^*)

背骨が、石膏か何かで固められた。
仲よくしているように見える丙でさえよくわかっていないなんて。
異性で、しかも彼女よりは対人能力に劣る僕は言うまでもない。

賑やかした潤うお礼の文章に、満面の笑みの顔文字を添えて。
返信はいらないとの旨も文面に盛り込んだ。
今度は見直しすらせずに、真顔で送信ボタンに指を伸ばした。

ベッドの上で、メールの最後の一文の顔文字と、
あの整った仏頂面を重ね合わせようとした。

ちっともうまくいかなかった。
あの下がった口角が、横に引き締まった眼尻が。
僕にはほぐれる様子がまるで想像できなかった。

寝付く頃には、既に日付は変わっていた。




「最近、真面目になったわね」
朝の数学研究室に、高い弾んだ声。
小さく首を往復させて、僕は逃げるように部屋を出た。
クーラーの効いていない湿った空気は、体にじっとりと纏わりつく。

真面目にならざるを得なかったのだ。
僕はもともと授業態度は芳しくなかった。
けれど、それは隣に親しい友人がいればの話。

アジサイの季節になっても、依然彼女と一言も交わせないでいた。
むしろ、無意識に避けてすらいた。
話したい気持ちが無いと言ったら、そんな舌は必要ない。
日に日に、気持ちだけが大きくなっていくのがわかった。

湿った鈍い予鈴が鳴った。
鞄を担いで、教室の方向へ駆けだした。


それは、ある時突然やってきた。

小さな何かの声に似た漏れた息を聞き逃さなかった。
手が勝手に伸びていた。
僕の物じゃない白い小さな消しゴムを、空中で握りしめて。
横の机の上に、そっと置いた。

たった、それだけ。

その時の彼女の表情を忘れる事はきっと金輪際ないだろう。
面喰ったように一瞬だけ強張って、ほどけるようにふっと緩んだ。
「どうも」
口許、目じり、耳の表情に至るまで全部が優しかった。
いつぞやの顔文字が脳裏に浮かんで、ぴったりと目の前で溶けあう。
すぐに顔を正面に戻したけど、もう手遅れだった。

いたたまれなかった。
顔が熱くて、もう自分ではどうにもできなくなっていた。
先生の声が何も耳に入ってこない。

その後に数時間の授業があったはずだけど、洗いざらい忘れた。
さっきの出来事を、巻き戻しては再生ボタンを猿のように連打していた。

明日になっても、昨日はさっきだった。
いつもよりも早く目が覚めてしまった。

鞄は空だった。
靴も服も身にまとっていなかった。
ついでに、僕は羽根だった。
真っ暗な雲間から降りしきる雨を弾く羽根だった。

今日は一本早い電車に乗ろう。
一刻も早く学校に辿りつきたかった。
足元でビシャビシャ音を立てて、雨傘を後ろになびかせた。


いつものプロセスを経て、見慣れた電車に駆け込んだ。
この時間はあんまり人がいないから好きだった。

…そういえば、ナズーリンさんはいつもどこに乗っているのだろう。
彼女を入学式以来、電車で一度も見た事が無かった。
そもそも、彼女は普段電車なのだろうか。
あの日たまたま電車だっただけで、普段は自転車やバスかもしれない。

思考の半分、僕は電車から降りる事に削がなければならなかった。
傍から見れば、今にも自殺しそうに思えたかもしれない。

視界は鉄製の段、コンクリートのホーム。
僕はあまりにも考えごとに夢中になっていた。

「わっ…」
目の前の光景が僕の頭の中の出来事か、区別に困った。
立った一瞬で我に返れたのは、救いだった。
「大丈夫!?ごめん!」
灰色の長い尻尾をコンクリートに投げ出して座り込んだ少女は、
すぐに地面に手を付いて体を起こした。
「ああ、私こそすまないな。
 あまりにも自然に近付いてきたから避け損ねたんだ」
小さく皮肉さえ籠った、トーンの低い声。
彼女は紺色のスカートのお尻の部分を軽く払って、ぶっきらぼうに答えた。
その言葉とは裏腹に、細い眉には嫌悪の様子は無かった。
あの時見せた頬笑みの十倍希釈。そんな表情だった。

…考えてみると、これが初めて彼女と交わした言葉だった。
最初に会ってから、既に二カ月が経過していた。

人気のない雨の道、二つの黒傘。
朝練組は、一本早く。通学組は、一本遅く。
傘にぶつかる大小の雨のぱらぱらという音がよく聞こえた。

雨のせいか、不思議と気分は高揚しなかった。
焦燥に似た言い表せない感情もなかった。
あるのはただ、波風立たぬ静かな気持ちだった。
「丙さんから、よく君の話を聞いている」
大海原に、嵐がやってきた。
危うく傘を落とすところだった。
「ど…んな?」

僕の動きが愉快に映ったのだろう、少女は口に手を当てた。
「別に大した事は聞いていないよ。ただ、面白い人だと」
「ああ、うん」
丙に割と明瞭な敵意を覚えた。
面白くないと否定するのも、面白くなかった。
黙っているのも面白くない。
面白さを、強いられた。喉には何かを詰められていた。
どうすれば面白いかを考えるのは下手をすると哲学の領域に入る。
頭が真っ白になっていた。
「ところで、昨日はすごかったな」
不意打ちだったし、助け舟でもあった。
僕は何度も瞬きをした。
「ほら、消しゴム」
思いだして、また顔が熱くなった。
気がつくと二人で笑っていた。

僕だけじゃなかった。
お互いに、緊張していたんだ。
何かの取っ掛かりを掴むまで、やきもきしていた。
でも、案外あっけなかった。

学校につくと僕は数学の課題を出しに行くと嘘をついた。
気恥かしさが、罪悪感を越えていた。

教室から遠くの自動販売機で、アイスココアを買った。
一気に缶を手に、思い切り傾ける。
冷たい甘みが喉を伝って、缶が軽くなった。
そのままかごに投げると、小気味いい音と一緒に収まる。
普段なら、小さく拳を握っていた。

でも、今はそんな事は全部どうでもよかった。

軽い足取りで教室に向かった。
賑やかな教室、何事もなかったように男子のグループに割り込んだ。
「お前、なんかいい事あった?」
どうやら、あがる口角を抑えきれずにいたらしい。
「ココア自販で飲んできた。ところで何話してんの?」
当たり障りのない事を言って、僕はそのまま会話に参加した。


それからというもの、折に触れて最低限の会話をすること。
進行方向が一致した時のひとこと、
英語で向い合せになった時の読み合わせ。
小さな事だった。
隣の席になったら当たり前のことだったのに。
平均すると、せいぜい一日に一言二言交わすくらいで。

わざわざ話しかける事はしなかった。
できやしなかった。

家に帰って思いだしては、噛みしめて。
そして、恍惚の顔でため息をついた。
そんな日々を繰り返していた、ある日のことだった。

「じゃあ、教科書を出してください」

先生の号令。ほぼ無意識と言っていい反応で机の中をまさぐる。
一度首をひねって、今度は鞄。

…もう一度、机の中。
指先は紙束の側をなぞり、離れる。
冷や汗が、ぷつぷつと湧き上がってきた。
中は決して整理されているわけではないが、すぐにわかった。
目の前がぐるぐる回りだした。

不意に横で、小さく息を抜く音が聞こえた。
机を引きずる音を背景に、教科書の活字が視界に割り込む。
顔をあげると、その吸い込まれるような細めた瞳が諭して、咎めて。
そして、僕をどこかで赦していたような気さえした。

もしもここが教室じゃなかったら、
込み上げていたものを抑えられなかっただろう。
小さく頷くことすらままならず、
僕は穴を空けるように崩れた文字を見つめた。
よく見知った現代文の教科書が、読めなかった。

落ち着いた声だけが、いつもの四倍になって耳に入ってくる。
それ以外は、何も聞こえてこない。
授業が終わるまで、その息苦しいような空気は続いた。
休み時間のチャイムと一緒に、張り詰めた糸は切れた。

「ありがとう」
お礼の言葉と一緒に、胸の奥にふつふつと沸くものを反芻する。
少しだけ、頭がぼんやりとしていた。
ナズーリンさんは小さく息を抜いて、僕の机から彼女の机を離した。
頭のてっぺんからすっと熱が抜ける感覚を覚えた。

あえて彼女は何も言わなかったのだろう。
具合が悪いのかとでも言いたげだったのをよく覚えている。

それはもやもやとして、頭の中に残った。
もっと、笑顔でお礼を言えたらよかったのに。
今度そっちが忘れたら僕が貸すね、くらい気の利いた事が言えれば。

外に目をやると、鈍色の雲が山に圧し掛かっていた。

かれこれあの電車の日から機がある度に話してはいた。
けれども、どこか、もどかしかった。
一応平静を装ってはいたけれど、違和感を感じていた。



梅雨の終わりは、激しい雨になる事も多くて。
それは今年も例外じゃなかった。

外を見て、馬鹿な事をしたな、と思った。
昼休み、友達と野球まがいの事をしたら傘が根元から逝った。
まさか野球をしただけで折れるなんて。最近の傘は軟弱だ。

雨の音が不安を掻きたてていた。
若干の息苦しささえ覚えるほどに。

「帰らないの?」
思考は、後ろの高い声で中断させられた。
強靭な幼馴染の前髪は、梅雨の湿気程度じゃ崩れていなかった。
元気にカールしていた。

僕が猫背になった傘を見せると、少女は間抜けな声を出した。
「何したらこうなったの?」
丙は苦笑していた。
「ちょっとボール打ったらへし折れた」
「…随分とらしくないことするねっ」
返答に窮した。
確かに、らしくないと言えばそうかもしれない。
普段は物を粗末に扱うような事はしていない。
やっぱり、僕はどこかおかしいのかもしれない。

「一緒に傘、入る?」
「いや、いい」
嬉しい提案だけど、断らせてもらう。
自分でした事なのだから、雨に濡れて頭を冷やした方がいい。

風邪を引くだの色々気を揉んでくれたのだが、結局全部断った。
今思えば、つまらない固意地だった。
彼女の小さな朧姿が雨音にかき消されて、すぐの事。

今さら後悔が嵐のように襲ってきた。
雨脚は呼応するように強くなる。
関節ができた傘を手に、愕然とした。

これも、仕方ない。

…よし。
湿った空気を肺に取り入れて、昇降口から一歩を踏み出した。
覚悟を決めて一度足を踏み入れると、後は惰性だった。

靴下が濡れてきた頃、近くの屋根の下に退避した。
少し冷えた頭が、そうさせたのだ。
降りしきる雨はむっとする熱を洗い流していた。

この雨がいつ止むのかを西の空を見ながら考えていた。
僕は今、限りなく冷静だった。
だったはずなのに。

少し遠く、音がするかのように視線がかち合った。
近寄ってきた。

黒い、小さな傘がだんだんと大きくなっていく。
心臓が加速しだした。
小気味いい水音が近づいてくる。

少女は目を合わせて、何のためらいもなく歩み寄る。
「ほら」
それだけ言うと、彼女は小さく僕の方へ傘をずらした。
ありえないくらい強い力が、僕を引っ張って、
そのままその傘に引きずり込んだ。

雨の音、水たまりを踏み分ける水の音。
それに混じって聞こえる小さなお互いの呼吸音。
ありがとうもごめんも言えなかった。
俯いてるだけじゃだめだという自己暗示だけが空回りしていた。
「いやー、傘壊しちゃって」
そう、明らかに空回りしたのだ。
口を押さえようとすら考えなかった。
せめて忘れたとでも言えばよかったと思うのは後の祭りだった。

「どうしたんだい?」
少しほぐれた顔でそんな事を訊いてくる。
その表情は僕に自白を強要していた。

死んだような気持ちで、僕はそっと後ろ手にしていた左手を差し出す。
掌にはやじろべえのように傘の真中がぶら下がる。
赤い視線は僕に向いていた。
「野球を、やった」
重たい口から、自分でも驚くほどのぎこちない声。
ああ、これできっと幻滅される。
いくらでも幻滅してほしい。どうせ僕はそういう奴なんだ。

「…楽しかったかい?」
次の言葉を入れる前に頭が真っ白になった。
雨音を全て払い飛ばす、いい笑顔だった。
沈黙の時間はそう長くはなかった。
「すごく、楽しかった!」
別人のように、跳ねた言葉が僕の口から押しだされた。

楽しかったかと尋ねられれば、本当はそうではなかったと思う。
でも、今は楽しかった。
「そうか」
上がった小さな口角は、堪らなかった。
体中に圧し掛かっていた湿気は、全て蒸発した。
「傘、僕が持つよ」
拾うように、彼女の華奢な色白の手から傘の柄を支えた。
小さく手が触れたのを感じた。




「…しかし、酷いタイミングがあったものだ」
軒下、びしょ濡れになって二人で雨宿りをしていた。
傘を持とうとしたら手が触れた。
何を思ったか、傘を落とした。
ほとんど同じタイミングでしとしと雨は土砂降りになった。
傘を拾い上げ水滴を落とす頃には、服が絞れるくらいになっていた。

「本当にごめん…」
「いいよ、どうせこの雨じゃ傘は役に立たないだろう」

緩んだ濡れた口許が、情操を激しく駆り立てていた。
気がつくと艶っぽい纏まった濃灰の髪の毛を食い入るように見ていた。
雨音さえよく聞こえなかった。
静かな時間が、そこには流れていた。

「おーい?」
目の前にぬっと現れた影。
よろけた弾みに、後ろの降りたシャッターに音を立ててぶつかった。その派手な金属音で我に返れた。
腰の辺りが冷たくなっていた事に気付いた時には遅かった。

「すまない!大丈夫か…?」
視線を上げると、影のかかった不安げなナズーリンさんの顔。
「大丈夫、ちょっと…」
驚いたと言おうとして、喉に出かかったその言葉を飲み込む。
「ちょっと、ぼんやりしてただけ」
すぐに立ち上がって、次の言葉をさえぎるように笑ってみせた。
顔に熱が籠ったのを感じていた。
「何にせよ、すまない」
顔を見れなかった。
これ以上無用な心配をかけるのは、耐えられない。

「ところで雨、少し収まったね」
「…そうだな」

彼女の口元が何かを言いたげにちょっと動いていた。
が、白い小さな手は傘の柄に手をかけ、スパンと傘の開く音。
僕の前に立って、振り向いて。
小さく目配せをした。

僕は思いだしたように傘に割り入った。
嘘のように雨は小雨になっていて。
今度は逃げたりしなかった。
一緒に駅につくと、案の定人はいなかった。
そして、外では再び轟音を立てて雨が降り出す。

駅の改札口前、上から吊られた大画面には、大雨警報の赤文字。
これほどまでに不安定な天気はなかなかない。
「これじゃ、電車来な…」
言いかけると、電車の往来を知らせる電子音が鳴り響いた。

立ち上がるのが遅れていた。
彼女の声を聞くまで、身体を動かそうとすらしていなかった。


駆け込んだ電車には、やはり人はほとんどいなかった。
紗がかかった窓、水滴がところどころに舞っている床。
そして、不自然なほどの効いた冷房。

お互いにびしょびしょだったので、座る事は避けた。
特に僕は転んだから言うまでもない。
彼女と一つ離れた吊革を持った。

電車の中の空調の音。
小さな揺れの軽快な音。
お互いの呼吸する音。
そして、外の世界と電車の中を分けるほどの雨音。

いざ沈黙が訪れると、落ち着かない気持ちに苛まれた。
嘘みたいだった。
以前は話すことすら想像が難しかったのに、
今こうして話せない事をむず痒く覚えている自分がいる。

「どこの駅で降りるの?」
あまりにも唐突過ぎた。
小さな身体を小震いさせて、僕の方を向いて。
「私は五つ先で降りる、――」

彼女が、初めて僕の名前を呼んでくれた事。
他愛のない話を、膨らませられた事。
僕が降りる駅まであっという間だった事。

そして、またあしたを、目を見て交わせた事。

それが、電車から降りた時に熱気とは裏腹に虚無感を覚えた。
振り返る事はしなかった。

電車の音が雨に混ざって、消えていった。

いつもだったら、小躍りしながら帰っていたかもしれない。
でも、今日は違っていた。
心に穴が開いたように、苦しかった。

僕の名前を、そっと繰り返す。
果てしなく今日が伸びていく。
明日は、終業式で授業がなかった。




空白の夏が過ぎた、ある秋口だった。

西日が射しこむ、残暑の残る教室。
初老の男は教室に入ってくるなり、チョークに手を伸ばす。
その素早い手つきからは、形の崩れた四角形が作られていく。
全身の毛が上に引き上げられるような感覚に襲われる。

「ちょっとね、みんなも今の席に飽きてきたろう…」
低い声は、あまりにも酷な事を言った。
続けざまの言葉はすべて耳に入らなかった。


…でも、もう一度、隣になる可能性もあるかもしれない。
それだけが、僕を椅子に縛り付ける唯一の力だった。

回ってきたくじを引き終え、黒板の下の方に自分の名前を書く。

雑踏の中に混ざって、際立った足音が近づいてくる。

横に目をやると、彼女は黒板の前で背伸びをしていた。
おもむろに自分の名前を書いた。
可愛らしい、丸みを帯びた気の小さそうな字が、
弱く握られたチョークの先から次々と。

元の席に戻って椅子を移動した。
その過程は棒になったように無感覚なものだった。
痛みも何も感じてはいなかった。


「また、いっしょだねーっ!」
横でにこにこしてるよく知った顔に無性に嫌悪を覚えた。
喜ぶべきだったのかもしれない。
数か月前なら、きっと僕も同じような笑顔を浮かべていたのだろう。

ただ、僕を見るとその無造作な笑顔は消えた。
少し顔色をうかがうと、今度は不自然なほど口角を上げた。
「なんだよ…」
考えても分からなかったけれど、善からぬ事を考えている顔だった。
問い正す気にもなれない。
そのまま、丙はご機嫌で前を向いて帰りの準備を始めた。

僕の気持ちも知らないで。
遠くの、前の方の席に視線をやる。

二つの影が、目に強く焼きついた。

声までは聞こえないけれど、言葉を交わしているのはわかった。
それがとても親しげに映った。
仲のいい、いい友人だった。

いい友人だった。
入学して数日で打ち解けた友人と言える存在だった。
今はとても大きく、恐ろしいもののように見えた。

僕と彼を比べるなんて事はしたくない。
僕は僕、彼は彼だ。

危うくしゃくりあげそうになっていた。
自分自身が見えなくなっていて、それがどうしようもなかった。
嘘をつかないと、自分で自分を守ることすらできなかった。


鈴虫の声を通り抜けて、重い鞄を持ち、駅への路を辿っていた。
「よっ、珍しく元気ないじゃん」

僕はあまりにもものを考え込んでいたらしい。
目の前の爽やかな歯を見ると、胸に杭を打たれたような痛みが走る。

数奇だった。
何で、今出くわしたのか。
昨日だったら、僕はもっと優しかったのに。善くいられたのに。

いつもなら冗談の一つや二つを、彼に返して笑っていたはずだった。
いや、しようとは努めた。
わかりやすいほどの、露わになった嫉妬の念がそれをさせなかった。
ただ、目の前の大きな存在に、絶句していた。
「ぜんぜん」

やっとの思いで、それだけを。
もしも僕が彼だったら、僕の心を透かしていたのなら。
ありったけ僕を安心させていただろう。それは杞憂だと。

些細なことだった。
たかが、席が隣になっただけで。
僕は本当に小さい人間だった。同時に屑だった。
それだけで友人と思った人を、一瞬でも憎めるなんて。

「…何か、あったのか?」

だめだった。

胸の熱さをこれ以上溜めておく場所なんて、
もう僕のどこにも残っていなかった。

声にならない声で、白状した。
タガが外れたら洗いざらい、全部。言わなくていい事まで。
その間彼は何も言わなかった。笑ったりもしなかった。

ただただ真剣な表情で、僕の吐露する言葉を、受け入れていった。
情けないという気持ちよりも先に、彼に感謝を覚えた。

ナズーリンさんって、きっといい人なんだな」

使い物にならない目を擦って、彼の顔をまじまじと見た。
彼は器用な奴だけど、作為のない性格だった。
今も、きっとそうなのだろう。

いい友人を持ったと思った。

「そういうことなら協力するよ」
この言葉を、真顔で彼が発するまで。
何度も繰り返して、それでも首をかしげざるを得なかった。

「…え?」
鈴虫の声が、うるさかった。

「俺がナズーリンさんに、お前のよさを吹きこむ」
開ききった口を閉じるまでに、時間がかかった。
彼はこういう事にはめっぽう暗いようだった。

説得するまで、少しの時間を要した。



少しは溜飲が降りた。
きっと彼女の席の隣は、彼でよかったんだろうと。

これでよかった、何度も自分に言い聞かせた。
何度も、何度も。

二学期は長い。
彼は僕と違って、心の底から明るくて、まっすぐだ。
夕食後、布団を頭から被りながら、そんな事をひたすらに考えていた。

…少し遠くで、着信音が鳴っていた。
布団から出て、スマートフォンを取る。

知らない番号が表示されていた。
画面に触れて、耳に当てた。
「もしもし」
僕は平静に無機質に答えた。

「――ああ、もしもし」
心臓が止まりそうになった。
向こうから聞こえてくる声は、低くて、抑え目で。
ひたすら落ちていっているような気分だった。

「その、いきなりかけてすまなかったな」
「大丈夫…どうしたの?」
声が上ずっていた。手の震えが止まらない。
状況が何一つ飲み込めなかった。
「すごく落ち込んでいるから一声かけてやってくれと」

頭が忙しかった。
どこから手をつけたらいいのかわからなかった。
丙が仕掛けた事なんだということは、すぐに理解できた。
怒ればいいのか、感謝すればいいのか。
それも声の振幅を大きくしていたのだ。

「あ、ありがとう」
これだけ言うので精一杯だった。
相手に聞きとれたのかすらわからなかった。
小さな笑い声が聞こえて、布団に顔をうずめたくなった。

下の階のテレビの音が、よく聞こえる。
お父さんの大きな笑い声が、壁を数枚越しに通ってきた。

「…その、席…離れてしまったな」
湿った声が何の前触れもなく、耳元で囁いた。
体を一瞬震わせて、もう一度頭の中でそれを繰り返す。

氷の塊を喉に通したように、急に沸き立った気持ちが鎮まる。
忘れていた事が、徐々に頭をもたげた。
「そうだね…でもさ、ラッキーだよ」
「え…?」
口の中を整えて、小さく息を吸った。
ナズーリンさんの隣になった奴、僕の友達なんだけどさ、
 彼、すっごくいい奴なんだよ。すごく――」

話した事は限りなく事実だった。
でも、それは僕ではない誰かが喋っているような感覚で。
嘘を吐くのに似たむず痒さも、同時に感じていた。

既に出会って半年が経っていて。
今日の事以外の、彼の善い事を話した。
友達に、友達を紹介するようなつもりで。

半年から今までで、今が一番饒舌でいられた。

「それじゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ…」

饒舌なままに別れを言って、画面に親指を添えた。

友達が紹介した友達と仲良くなって、僕は一人になるのだろう。
そんな経験を、今まで何度もしてきた。

また明日を、言わなかった。

どういう訳か、泣いていたみたいだった。

変に冷静だった。
冷静だったのに、涙が止まらなかった。
スマートフォンを握ったまま離せないでいた。
涙だけが、頬を伝って布団に染み込んでいく。
何も恨んだりはしていなかった。

その夜はそのままの格好で、朝になった。



幸いにも、その翌日も翌々日も彼女と話す機会はなかった。
彼女が僕に近寄っていくこともなかったし、
僕も彼女に近づく事は無かった。

だけど、ある日気づいた。
ほぼ無意識で、その影を視線が勝手に追っている事。

クラスのグループからも孤立して、ぼんやりとした日々を過ごして。
丙は取り立てて心配するような事は無かった。
きっとわかっていたのだけれど、干渉を避けたのだろう。

取り返しのつかない事をしたと言えば、身勝手だろうか。
かなりの時間差で、そんな事が頭によぎりだした。

僕は独りぼっちだったけれど、毎日が幸せだった。
同時に、毎日が辛くもあった。



そんな死んだような日にちを織り込んだ、ある十一月の頭。

いつもの電車に乗り込むと、丸い大きな耳のシルエットが見えた。
小さな冊子を片手に、けれど視線は本の背面に食い入っていた。
温かそうな、黒の飾り気のない毛糸のマフラーを巻いて。

視線を戻して、鞄を開けた。
忘れるかのように普段あまり見ない英単語帳を取り出して。
何往復もしたけれど、今日は随分とおぼえが悪かった。

電車が遅く感じだして、単語帳を閉じた。
視線を上げると、顔が固まった。
「あっ…」

ナズーリンさんと、目が合っていた。
目の乾きを感じて瞬きをしても、それは変わらなかった。

「単語帳、一緒に見てもいいだろうか」

機械のように、僕は四回に分けて頷いた。


つづけ