東方幻想明日紀 序話

「あーん、深水はどうしてもっと手際良くできなかったの・・・。」

緑髪ボブの少女が、だるそうにぼやく。

「いいじゃん。結果としてあいつを止められたんだろ?」

少年は、涼しい顔で返す。

「そうだけどさー・・・こんなのって、ないよ・・・。」

「そう言うけどさ、犠牲なんて何事にも生じるもんだぞ。
 そもそも、お前と幻想郷は何も関係ない。
 今回の件だって、誰かがどうにかしただろ。
 どうしてそんなに首を突っ込みたがるんだよ?」

「いいじゃん、幻想郷が好きなんだから・・・。」

「お前なあ、これ以上あの世界に手を加えて色々おかしくなっても知らんぞ。
 第一、あんなのが一人いなくなったところで、幻想郷には影響ないだろ。
 そりゃ、博霊の巫女やその周りの連中ならそこまでする価値があるけど。」

「違う、返さなきゃいけなかったのに・・・。
 あの外来人、現代からの借り物だったじゃん。」

「囮を殺さないなんて無理だろ。諦めろ。
 お前は博霊の巫女が危険に遭う事を危惧して深水を作ったんだろ?」

「囮なんて言い方やめてよ。彼、何も悪くないもん・・・。
 それに最強頑張った人は報われなきゃいけないよ・・・」

「方向を間違えた頑張りは、一生報われないんだよ。
 砂漠でどれだけ魚を捜しても、見つからないんだよ。」

肺魚なら獲れるよっ!」
「そう言う問題じゃねえ。」

緑髪ボブの少女は大きくため息をついて、
少年に疑念のまなざしを向ける。


「君が器にリア君を選んでおいて、冷たいんだね・・・。」

「何とでも言え。これ以上の状況なんて作れないから。
 第一、無を使って有を消すという発想は犠牲しか生まない。
 お前はそういう意味を知ってて俺の案を飲んだんだろ。」

少年がきっぱりと言い放つと、少女はむくれた。

が、しばらく考え込むと、顔を上げて目を光らせた。


「・・・あ、そうだ。僕良い事思いついた。
 心が永久凍土の君なんかはぜったいに思いつかない良い方法が。」


「何だよ、言ってみろよ・・・。」
「未来を捻じ曲げちゃえばいいのだ。以上!」

「あ゛?」

「じゃあ、スポンジ脳の君にヒントだけ言っておくね!
 野球の『クイズ』って知ってるよね!!」


少女はそれだけ言い残すと、下界に向かって飛び降りた。


「絶対あいつ野球知らないだろ・・・スクイズだよ。
 結局リスクに頼るのかよ・・・極端な奴。」

後に残された少年は、苛立った様子で眉をひそめた。



つづけ