鼠色のほろ苦いチョコレート 結

「あの、本当にやるんですか・・・?」

不安そうに震えた小さな声が、尻尾の方から響いた。

私の尻尾のバスケットの相棒、それにぞろぞろ付いてくる小ネズミたち。
まだ修業を積んでいないから、私の指示を聞くくらいしか能がないが、まあ、使える。

暗闇の中、ひたすら私は冷たく硬い地面を蹴っていた。

「当たり前だ。人間にここまでされて黙っているほど、私は気が長くない。
 この件に関しては、穏便に済ますつもりはないんだ。」

ご主人様が寝たのを確認したのち、すぐに実行に移す。

もちろん、あの人間を殺害するつもりはないが、それ相応の報いは受けてもらう。
ちょっとお灸を据えるだけだ。

「・・・毒笹子がちょうどいいな。」

「・・・それは、やりすぎでは・・・。
 そこまでするほどの事だったんですか?」

私が呟くと、尻尾の方でさらにか細い声が聞こえてきた。
彼がそう言うのも無理はない。

毒笹子。非常に「致死率の低い」毒キノコである。

しかし、これは悪魔のキノコとでも称すべきか、あまりにも残酷な毒を持っている。
ただただ、痛みに苦しむのである。
身体の末端に走る、焼けた鉄柱を押し付けるような痛みに、
数日から、数週間もだえ続けるのだ。たったそれだけの、悪魔のキノコである。

このキノコで死ぬとしたら、激痛による精神的な衰弱か、
それとも体力の消耗による死か、痛みに耐えかねての自殺くらいのものだろう。

いや、下手をすると自殺すらままならないかもしれない。



正直私も気が引けたが、私の感謝の気持ちに託けて、ご主人様が殺されかけたのだ。

これを、このように償ってもらう事に、どれほどの不合理性があるというのだろうか。


「あっちだ。」

暗闇の中で担いだロッドを振り、目的の場所に向かう。
そう、キノコの温床が、この近くにあるらしいのだ。


私は、妖怪なのだ。
人間一人の小さな死は、もういいのだ。

だが、苦しみというものは、私にとっては死よりも重いものに見えるのだ。
ご主人様の命を奪おうとした奴が、激痛にもだえ苦しむのだ。


そんな様子を思い浮かべながら、命蓮寺でご主人様と談笑しながら、お茶を飲むのだ。

キノコの群生しているところに辿り着くと、私はかがんで、雪洞の明かりをつける。


気持ちが弾むかと思えば、そんな事なかった。

・・・どうしても手が、伸びない。


頭によぎるのは、忘れもしない、私がまだ小さかったあの光景。

私は一度、目の前で、毒笹子の集団食中毒の光景を見た事があるのだ。
一言で言うのならば、阿鼻叫喚と言ったところだろうか。

迂闊にも一人でふらりと歩いていた私は、持て余した山賊に捕まってしまったのだ。
人質というよりは、完全に余興の種とされていたのだろう。

山賊の男どもは、私を中心の柱に縛り付けて、酒宴を始めたのだった。

いざ酒宴が終わりに近づき、皆の視線が徐々に私に向き始めたその瞬間だった。

一人が苦しみだしたのを皮切りに、全員がうめき声とともに、のた打ち回りだしたのだ。
尋常ではないほどの、痛みに全員が喘いでいた。額にはみな脂汗を浮かべていたのである。

次第に皆はしきりに水を求め出した。しかし、まともに歩けるものは誰一人いなかった。
這いずって外に出る者もいたし、床にひたすら頭を打ち付け、皮膚をこすりつける者もいた。
鍋をひっくり返して大火傷をする者や、中には自ら暖炉に飛び込んだ者までいた。

鼻を覆う臭いも、惨憺たる物となっていった。

考えるだけで残酷で、身の毛のよだつようなあの光景は、もう二度と忘れない。
あの狂気の惨景は、いっそ見ているこちらが殺してほしくなるほどだった。

自分の身に危機が迫っていた事実なんて、地中の寝言のように忘れ去っていた。
それほどまでに、あの地獄絵図は私の心に、深く紋を刻んだのだった。

惨劇の終わりは、すぐにやってきた。

気でも狂ったのだろうか、誰かが火を放ったのだ。

ご主人様が、寸での所で助け出してくれなければ、私は今頃・・・



「どうしたんですか?手が震えてますよ?」

その声で、私は我に返った。

気が付くと、私は伸ばしかけていた手をがくがくと震えさせていたらしい。
振動が尻尾のバスケットの中まで、伝わってくるほどに。

・・・本当に彼女にお灸を据えるためだけに、このキノコの毒が必要なのだろうか。


「・・・もう少し、何か方法を一緒に探そう。これを使うのはまずい。」
「そうですね。それが一番ですよ。」

後ろの方で、微笑んだような、そんな表情を伴った柔らかい声がした。


「だが、仕返しくらいはさせてほしい。溜飲が下がらないんだ。」
「できるだけ、甚大な被害が出ないようなものが良いですよね。」

意見がまとまったところで、相棒をバスケットから下ろして、ネズミを集める。

「はい、どんな案がいいと思うか、無駄だと思うが、あるのなら言ってくれ。」

「はい!」

勢いよく手を挙げたネズミの一匹。

「なんだ。」

「火を放つのがいいとおもいます!」

「却下だ」

「岩石で村人を通れなくして、信仰を・・・」
「そこまで大掛かりで遠回りことはできないだろう。」

「おなかすいた!」
「そこに草がいっぱいあるぞ。たらふく食べてくれ。」

「ご飯まだですか・・・」
「・・・君たちは食欲しかないのか・・・」

ああ、私の監督が悪いのだろうか。
どうしてこうも私の部下たちは食欲旺盛なのだろうか。

頭を抱えたその瞬間。

・・・ん、食欲・・・?


「・・・それだ!」

私がポンと手を打つと、ネズミたちは一気に静まりかえった。

「え、どうしました?」

「ふふっ、食糧倉庫を食い荒らせば、
 すぐに私だとわかる上に、あまり甚大な被害は出ない。」

そうすれば、金銭的な被害だけで済むはずだ。
おまけに、ネズミの食い跡なんてすぐにわかる。

だからこそ、このやり方がもっとも良いと確信したのだ。

「なるほど!隊長はやっぱり天才ですね!!」
「ふっ、褒めても何もでないぞ・・・?」

軽く相棒の顎を撫でると、彼は目を細めた。

「行くぞ皆の者!倉庫に着いたらできるだけ、汚く食い散らかすんだ!!
 久々のご馳走を、皆にたっぷりと味わわせてやるぞ・・・!」


私は高々と、雪洞とロッドを振り上げた。






「ふわ・・・ぁ」


暗い倉庫で、仕事が終わるのを待つ事しばし。
不意に小さなあくびが口から洩れてしまった。

「疲れているんですよ。僕がみんなに喝入れて、仕事を早めてきましょうか?」
「いい。皆腹が減っているんだ。きっとこれが最速だ。」

それにしても、さっきからなんとなく首が重たい。
それは、皆のおすそ分けを口にしてからである。

全量が今一つ把握できない。

量によっては、途中で切り上げた方がいいだろう。

「よっと・・・」

軽く立ち上がり、暗がりの一歩を踏み出した、その瞬間だった。



「い゛っ・・・!?」

鋭いびりっとした電気のようなものが、私の足を駆け抜けた。
次に感じたのが、くるぶしの辺りの異常な締め付け。

「隊長!?隊長っ!?」

そして、きりきりと痛む、足。


「っ・・・くそぉっ・・・。」


「動かないでください!足が千切れちゃいますよ!?」

「わかってる・・・!」

・・・すぐに、私は状況を理解した。

動くたびに、刃物のような金具の締め付けが強くなる。
力任せに外そうとすれば、自由になるのは、私のくるぶしから上だ。


「おい!みんなはこっそり命蓮寺へ戻れ!僕はここで残る!!
 いいか、絶対に見つかるようなへまをするなよ!」

血相を変えた私の相棒が大声で皆に指示を飛ばす。
皆は途端に食べるのをやめ、一目散に外へ這い出していった。



皆がいなくなると、倉庫はしばしの静寂に包まれた。



「私の指示も、こうやってちゃんと聞いてくれるとありがたいのだがな・・・」

誰にともなくつぶやいた言葉は、心弱い声だった。
こういう時は、やはり気持ちがふさがってしまうのだろうか。

どうも、私は周りが見えなくなる時がある。悪癖だ。

「・・・みんな、隊長には親しみを感じてるんですよ。」
「はは、そうだと嬉しいのだがな・・・。」

心に複数本張っていた緊張の糸が一気に切れてしまったのか、
私はとても不安になっていた。

相棒の何気ない暖かい言葉にも、心に来るものがあった。

「見つかるのも、時間の問題だろうな・・・。」
「大丈夫です。無事にみんなが辿りつけば、聖様を呼んでくるはずですから。」


本当は、ネズミたちが素早く命蓮寺に着くはずがない。
気が向いたら、どこかに言ってしまうのだ。

食べ物のにおいをかぎ付けたら、そちらに行ってしまう。

だから、相棒が行くべきだった。


だが、私は君の判断が間違っているだなんて、口が裂けても言えなかった。

「・・・ありがとう。」

「えへへ、どういたしまして。」

照れくさそうに笑う彼の表情が、胸に刺さる。
思わず漏れてしまいそうになったため息を、押さえたその瞬間だった。


「・・・まさか、また会うとは思いませんでしたね。」


乾いた音と一緒に開かれた扉。
入ってきた月明かり。

それが、全てを物語っていたのだ。


私の中で、何かが音を立てて崩れた。



「このっ・・・」
「動かないでください。足、切れてしまいますよ。」

「くっ・・・」

拳を振りかぶって、捕まっていない左足を踏み込んだ瞬間に、額を指で抑えつけられた。

ああ、もうだめだ。

目の前の顔を見るだけで、数時間前の、ご主人様の危機を思い出させられてしまう。
ご主人様のあの極まった顔と、目の前の無表情を交互に見比べると、虫唾が走る。

私がここで、くるぶしから下を捨てれば、復讐を完遂できるだろうか。

いや、できはしない。

おまけに、深手を負わせる事ができるかすら怪しい。
だが、私はここで捕まって、殺されてしまうのだとしたら。


少しの間でいい、これを引きつけておいてくれないか。

そう伝えようと、私が相棒に視線を注いだその瞬間だった。


「・・・どうして、こんな事をしたんですか。」

呼吸すら殺したような、そんな緊迫した声で言う、月夜の照らす仏頂面。
思わず、全身に吐き気とむず痒さが駆け抜ける。


「・・・っは。な、何を言うのかと思えば、くだらないなぁ!」

私の表情は、力なく笑っていたように見えたのだろうか。

もう、声が震えきっていた。

罠を抜けたら、回り込まれて殺される。
そのままでいたら、殺される。

殺される。私はここで殺される。殺されてしまう。

殺される。殺される。殺される。殺される。
殺される、殺される殺される・・・殺される。

もう、ご主人様に会えなくなって。



二度と・・・

嫌だ、嫌だ・・・嫌だ。嫌だ。

まだ、死にたくない。

死にたくない。



・・・死にたく・・・ない・・・。




「う・・・くっ・・・」

「っ・・・!?」




もう、歯止めなんて何も効かなかった。

私の両の目蓋が、熱い衝動を受け止めきれずにいたのだ。
冷たかった頬が熱くて、怖くて、怖くて、怖くて。


頭がしびれて、視界がぼやける。



何もわからなくなった。






・・・あたたかい。



「わっ・・・?」
「えっ?」

感覚を頼りに、手を伸ばすと、柔らかい触感が手に残った。
驚いて眼を見開くと、目の前には、さっきの顔があった。

「あ・・・。」
「・・・ふん。」


その顔は、さっきよりは幾分かほぐれていた。
私が、言葉を発する直前までだが。

「・・・。」
「・・・。」

すぐに険しい顔つきに戻った彼女は、黙りこんでしまった。


沈黙の空間。
目だけを動かして、周囲を眺めると、見慣れぬ和室だった。

・・・私の相棒の姿が、横にあった。
小さく、寝息を立てていた。

私が眉を寄せた瞬間に、不意に頭上の彼女の口が動いた。

「あなたがだらしなく倒れた後、
 死に物狂いで飛びかかってきたので、気絶させておきました。」

私は、ふっとため息をついた。

・・・また、彼に借りを作ってしまった。


「・・・私は、ネズミが嫌いです。」


いきなり、何を言い出すのだろうか。
もう、恐怖は薄れていたが、怒りのようなものはまだ燻っていた。


「・・・そうか。」

「ええ。妖怪も嫌いです。」


「ふうん。」


視線を交わさずに始まった、静かな口喧嘩。


「・・・ネズミ妖怪なんて、最悪ですよね。」
「そうだな。」


冷静に考えてみると、あながち間違いではない。
少なくとも、私は最悪である。

私は、ゆっくりと起き上った。

彼女は身構えたが、私の目を見ると、すぐにその腕を解いた。


思えば、私はいままでどうだっただろうか。

普段ご主人様を盾にした上に、
私を信頼してくれているご主人様を、私は信頼していなかった。

ご主人様を信頼しない私は、この人間を信頼したばかりに、
ご主人様をこんな目に遭わせてしまった。

それでいて、ご主人様に、「ごめんなさい」を言えなかった。

この人間に、全て責任転嫁した。

責任転嫁の末、捕まって、命を助けられ、その相手と口論をする。


ああ、私はあの場で死ぬべきだったのだろう。

こうやってずるずると生きてきて、
どうして私は今まで恥を感じずにいたのだろうか。

誰かが、私を制裁するいい機会だったのではないのだろうか。

・・・なんて、な。


命が助かってから、こんな事を思うなんて・・・



「すまない・・・私は、最悪なんだ・・・。」

再び、胸が詰まってしまった。
今日の私は、一体全体どうしてしまったんだろうか。

毅然と偽善を盾に生きてきた私は、非常に非情な無力な奴だったんだ。


「・・・確かに、見る限りあなたは最悪です。
 でも私は、泣いて倒れたあなたを見て、少しだけ、印象が変わりました。」

「・・・」

伏せった顔を再び上げて、私は彼女をまじまじと見つめた。


「・・・で、さっきの繰り返しですが、なぜあんな事をしたんですか。」

彼女の顔は、あの時よりも緩んだ表情だった。

私は、小さく嘆息した。

「復讐のつもりだったんだ。」
「・・・まだ、あの時の事を根に持っているのですか?」

あの時のこと・・・か。

もう、彼女の中では完全に過去の出来事なのだろう。

「毒を盛り、後は忘れる。随分と君は楽しそうに生きているじゃないか。」

皮肉たっぷりに、そう悪態を吐いてやると、いよいよ彼女の顔が歪んだ。


「・・・さっきから、あなたは何を言っているんですか?」
「・・・え?」

だが、怒りの表情の中に、大きな疑問符が混ざっていた。
確実に、理解に苦しんでいる。


・・・はっとした。

頭の中に、ひとつの考えがよぎる。

ずっとずっと忘れていた・・・いや、そう言うと語弊がある。
考えなかった、ある可能性が。

脳裏を、矢のように突き抜けていく。



「・・・君は、毒を盛った。」

「・・・いい加減にしてください。殺しますよ。」


・・・やはり、そうだ。
経緯を全て話してしまおう。


何かが、食い違っているのだから。



「・・・君がもらった材料でチョコレートを作った。
 それをご主人様に食べさせたら、数時間後、風呂場で瀕死の状態になっていた。」

「え・・・?」

あっという間に、彼女の目の形は円になった。
間違いない。

ここで、私は確信した。


彼女は・・・恐らく悪意はなかったのだ。


「・・・もしかして、あなたのご主人様は犬の妖怪なんですか?」

状況を察したのか、彼女は私にこんな的外れな質問をしてきたのである。

だが、ご主人様が虎の妖怪とここで言うのならば、
ご主人様の毘沙門天としての尊厳に傷がつくかもしれない。

「仮に犬だったら、どうなるんだ。」
「・・・言った通りになります。」


・・・虎と猫は近縁である。
恐らく、猫と犬も近縁なのだろう。


・・・だとしたのならば。


「・・・なるほど、それで勘違いして毒を盛ったと仕返しに来たんですね。
 それにしたって、やる事が小さいですよ・・・。」

「笑うのなら、笑ってくれ・・・。」


・・・もう、穴があったら入りたかった。
私は、勘違いでここまでしたのだ。


これを、馬鹿と言わずに何と言えばいいのだろうか。


顔が真っ赤になって、再び熱くなっていた。


「あの、おでこ、出してもらっていいですか。」

「・・・?ああ。」

不意に彼女がそんな事を言い出したので、私は黙って前髪の束を上に上げた。


「うっ」

そのまま、ピシッと軽く、指で額を弾かれた。



「・・・ばーか。」

彼女は、苦笑いだった。


「はは・・・。」

私は、力なく、笑みを返した。





東の空は、既に薄靄がかかっていた。

私は肩に相棒を乗せて、石段を踏みしめるように降りていた。



最後の一段を降りようとした、その時だった。


「ごめんなさい、お役に立てなくて・・・。」

小さく、申し訳なさそうな声が肩で響いた。

私は、はたと足を止めた。


「・・・いや。君はよく頑張ったよ。」

かけるいい言葉が、手持ちの中にない。

手の中にはなかったが、尻尾のバスケットには、それがある。


「命蓮寺に着いたら、ご褒美を君にやろう。」
「・・・ほんとうですかっ!!?」

「ははっ、まったく、君は現金だなあ・・・。」


帰ったら、彼の気のすむまで、チョコレートを食べさせてやるんだ。

それが、私にできる彼への、感謝の気持ちを伝える術なのだから。




・・・だが、気がかりがまだ私にはあった。

ご主人様は、私の事をどう思うのだろうか。

どうせご主人様の事だ。


「私を疑ったり・・・しないのだろうな・・・」


とても身勝手な言い方をすると、今の彼女の優しさは、暴力だった。
変に私が何を言っても、小賢しいだけだ。


・・・言いたい事、全部言って。

それだけだ。




私は、無言で命蓮寺の戸を開けた。

「・・・!!ナズーリン!!」

早朝だというのに、ご主人様は起きていた。
やはり、彼女が私を待っていてくれたのだ。


こんな、私なんかを。

私は、幸せ者だ。



「おかえりなさい・・・おかえりなさい・・・」
「・・・はぅ。」

彼女は私を温かく包みこんで、私は、こうして笑っていられるんだから。



私が玄関で、そのままの体勢で全てを話しても、彼女は話さなかった。

最後に私は一番言いたかった、この事を口にした。


「・・・これからも・・・私のご主人様で、いてほしい。」

「私こそ、あなたがそばにいるだけで幸せですから・・・。」


目を細めると、自然に涙が頬を伝った。
私の顎を伝った涙は、ご主人様の服に落ちた。




この安堵は、幸せによく似ていた。







鼠色のほろ苦いチョコレート 完