東方幻想今日紀 百二十一話  時すでにお寿司!

「・・・はい、これを飲めば大丈夫だよ。」

「・・・。」


俺は命蓮寺に戻った後、野孤にもらってきた薬を渡した。
小さな狐の女の子は顔を輝かせて受け取り、それを飲んだ。


「早くよくなるんだぞ・・・?」


俺はピンクのふわふわの髪をそっと撫でた。



・・・別に大したものじゃない。

中身はほとんど下剤だろうから。
でも、それが一番いいのだろう。



あとは・・・丙さんだけだ。


どういう訳か、布団で寝ていなかった。
それどころか、布団はたたまれてしまってある。



・・・よし、丙さんを探せ!
制限時間は無制限!探す場所も無制限!

見つかるか、見つからないかの真剣勝負だ!




・・・そう意気込んで、聞き込みを開始した。
しょうもなかった。


どうせ命蓮寺のどこかにいるのだろう。



ただ、薬を飲んでもらいたかったのと、
気をつけるように忠告したかっただけなのに。





「・・・ムラサさーん!」

「ん?どうしたのリアくん?」


台所に向かうと、珍しく割烹着のムラサさんは握り寿司を握っていた。

ムラサさんは俺に目をやると、手を止めて笑顔で振り返った。


「丙さんを知りませんかっ!?」

「あー、さっき妖怪の山へ出掛けたけど・・・。」




「妖怪の山ですか!分かりました!」



・・・妖怪の・・・やま?




やま・・・



「・・・えええええっ!?まだ治ってないのに・・・!!」


昨日満足に歩けなかった人が何であんな所へ単騎で・・・!
このままだと、天狗とかに殺されちゃうよ・・・!


「・・・でも行動も発言もまともだったけどなあ・・・。」

ムラサさんが顎に手を当てて考え込む。


「やっぱり具合悪いんですよそれ!胸とか触ったり、
 変な事言ったりしてませんでしたか!?」

「・・・うん、確かに今日はしなかったなあ・・・。」


・・・やっぱりだ!丙さんはまだ具合が悪いんだ・・・!
普段は色々な人に諸々のアレをしているけど、今日はしていない!


言動がまともな彼女は、健康なはずがない!



・・・なのに、一体どうして・・・


「ムラサさん、丙さんは・・・どうして妖怪の山に行ったんですか!?」


「えっ・・・いや、そこまでは聞いてなかったよ!
 かなり急いで出掛けていったから!何かまずいことでも・・・。」

俺の食らいつくような熱心な姿に気圧されたのだろう。
ムラサさんは、かなりたじろいでいた。


「・・・事情は後で話します!行くよ、深水っ!!」

『やれやれ・・・これは随分ときな臭いのう・・・』





俺はすぐ台所を後にして、命蓮寺の門を出た。
気持ち悪いほどの夕暮れに、黒い雲。

すでに、時は夕暮れだった。


目指すは妖怪の山。


彼女を連れ戻さないと!今ならまだ間に合う!






・・・そう意気込んでいた、そのときだった。



「・・・私も付いていくよっ!
 リア君が妖怪の山へ一人で行くなんて、私が許さないから!」


「・・・ムラサさん・・・。」


後ろを振り返ると、少し向こうに肩で息をしているムラサさんがいた。
割烹着を脱いで、腕まくりのセーラー服。

腰にはいくつかのミニチュアの錨がぶら下がっていた。


「・・・わかりました!一緒に行きましょうっ!!
 二人だと心強いですからっ!訳は走りながら話しますっ!!」




俺とムラサさんはあの黒い雲に向かって走り出した。
帰るときに見た、入道雲


上と下が伸びた、逆人口ピラミッドのような形の雲。
すでに成長しきって、かなとこ雲となっていた。

怖気立つような嫌な予感が、あの雲全体からびりびりと伝わってくる。



『・・・儂は人数に入っておらんのかのう・・・』




走ってるとなんか聞こえた。空耳だろう。







・・・そのときだった。



視界の向こうの黒い大きな雲から一筋の光が上下に走った。
しばしの間を置いて、爆音が耳を切り裂いた。


「「・・・!?」」



雷だった。


妖怪の山に、途轍もない落雷があったのだ。
それも、天辺のあたりだった。


二人ともその足を止め、一瞬の身のすくみを感じていた。




「あ・・・山火事・・・。」


足を止めて呆然としていた後、ムラサさんがふいとつぶやいた。



山の頂上に目を凝らすと、確かに黒煙が上がっていた。
よくよく見ると、ちろちろと赤い光が見える。





・・・あの山で、何が起こっているんだろうか・・・。




丙さん・・・無事でいて・・・お願いだよ・・・。










つづけ