東方幻想今日紀 百十一話  リユニオンカウンター?

「おはよー・・・あれ?」

寝起きで眠い目をこすりながら、広間に下りると、
怪訝そうな顔で新聞に目を通すネズミの女の子の姿があった。

あれ・・・命蓮寺って新聞取ってたっけ?


「・・・号外だと書いてあったから買ってきたはいいのだが・・・」

彼女は俺に気付くと、浮かない顔のまま新聞をこちらによこした。
新聞の見出しには、大きく「号外!半妖の教師は危険人物だった!?」とあった。


「っ・・・!?」

予想だにしない光景に息が詰まりそうだった。


「・・・ちょ、ちょっと貸してっ!」

俺は彼女から慌てて新聞を受け取り、中身を開いた。


紙面には、こうあった。



守矢神社のお祭りに行ったところ、
偶然寺子屋の教師なる方に会ったのでお話を聞いてみました。
尋ねてみて仰天です!
その方は、かつて人間だったのに次第に妖怪化しているというのです。
おまけに、半年ほど前に幻想郷にやってきた外来人だというから更に驚きです。
この発言の真偽は定かではありませんが、あまり好ましいことではありませんね。
半妖、それも外来人に教鞭を執らせるのはいささか不安が残ります!
おまけに、話を伺っても教え子の話は影もありません!これは興味深いですね!
でも、おもしろおかしな与太話を聞けるのも悪くないかもしれません。
数年後には彼の考えに染まった者が現れると考えるとそれだけで面白そうです!
みなさんも、彼に出会ったら発言の真偽を問いただしてみてはいかがでしょうか?


・・・以下、記事の本文。


「ひどい・・・。」

あの時、彼女に促されてインタビューをされること数時間。
彼女の質問にひたすら答える形を取っていた。

・・・てっきり、もっと肯定的に書かれるかと思っていた。
あの時気分が昂ぶっていたから、冷静な判断が付かなかったのかもしれない。

でも、記事内容は皮肉満載の中傷記事。
嘘は書かれていないのだが、解釈の仕方もひどい。


射命丸さん・・・。
何だか、信頼を裏切られたような気分だ・・・。

今気付いた。きっと乗せられただけ・・・なんだろうな。


「・・・まあ、どうせ烏天狗に言われるがままに記事の種にされたのだろう。
 心配するな。大体は真実味に欠ける部分だ。」


ナズーリンがふっと頬杖を突きながら息を付いた。

「・・・うん。ありがとう。」


幸いこの記事は、比較的明るめの装飾が入っている。
ゴシップの類だろうか・・・。


今日も、引き続き祭りはある。気持ちを切り替えていこう。
・・・そう思って新聞を閉じようとしたら、視界の隅にある見出しが映った。

「大量発生!?神秘の銀色の蛾」

・・・気になって目を通すと、
銀色の蛾が幻想郷の各地で大量発生しているとあった。
おまけにかなり大型で、体だけではなく鱗粉も銀色だという。
虫取りに励んではどうかという煽り文句も書かれていたが、
よく分からない銀色の蛾を捕まえるなんて、どうかしてると思う・・・けど。
正直自分自身かなり興味があった。

もし見かけたら、捕まえてみよう。


そういえば、銀色の蛾の大量発生の話・・・射命丸さんしてたな・・・。
あの時一緒に通り魔の話も・・・。

・・・そうだ、通り魔!


ナズーリン、みんなに赤い着物は気をつけるように言って!」
「えっ・・・?ああ、わかった・・・。」



・・・赤い着物を着ている人がどういう訳か通り魔に遭っているらしい。
赤い着物を着ていたのはぬえと丙さん。
恐らくあの人ごみの中で被害に会う確立なんて
ほぼ皆無だけど、警戒しておくに越したことはない。



今日もお祭りはある。
あの時忘れていたのだが、別に屋台を片付ける必要はなく、
材料の処理と掃除で済んだのだ。よってお咎めなし。


・・・でも、今日は一応寺子屋で授業をする日だ。
みんなとは夜に合流する予定でいる。




・・・さて。


「じゃあ行ってくるね、ナズーリン。」
「ああ、もう二度と戻って来るんじゃないぞー?」



新聞を軽く丸めてかごにシュート。
彼女とこんなやり取りが出来るようになったのも、ごく最近のことだ。






・・・いつか彼女に言おうと思う。




いつか・・・




「はいはい。元の世界に行ってきますー。」




そんな冗談か本気かわからない事を、笑いながら言って、
小かばんを持って命蓮寺の玄関を出た。










「先生?起きて、もう授業だよ!」
「んっ・・・ああ、ごめん・・・。」


生徒の一人に揺り起こされて、俺は眠い目をこすりながら
壁に寄りかかっていた背筋を伸ばした。


「先生・・・最近休み時間、寝てばっかりだね・・・大丈夫?」


不安そうに尋ねてくるその男の子は、俺の袖を掴んでいた。


「ああ・・・寝不足でね。大丈夫だよ。」

嘘だった。


最近、不可解なことがいっぱいある。
いくら寝ても疲れが取れないのはもちろんだが、眠いのだ。
おまけに、かなり怒りっぽくなったような気もする。

やんちゃした生徒に雷を落としてしまうことすらあった。

小さなことでは歯の噛み合わせが悪くなってきた。
犬歯が無駄に伸びてきたのだ。
髪の毛がほとんど伸びなくなった。
体がだるくなる頻度が増えた。


まるで、自分が自分じゃなくなっていくみたいだ・・・。
そんなの、怖くて仕方が無いのだが、考えても仕方が無い。

結論は全て妖怪化に行き着くのだけど、確認する方法も無い。




「・・・さあ、今日は花を皆で見に行こうっ!」

少し大きくなった気がする手を軽くパンと叩いて、俺は窓の外を指差した。






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「お、やってるやってる。ただいまー。」

俺は額に手を当てながら、屋台裏に足を踏み入れた。
もう空はすっかり真っ暗になっていた。

「リアくんおかえりっ!!」
「おかえりなさい、リアさん。」
「おかえり、リア。」


屋台ではせわしない腕を止めて、
聖さんと小傘とぬえが笑顔で挨拶してくれた。


小傘がふと、笑顔をもっと崩して走り寄ってきた。


「・・・ねえねえっ、ひのちゃん昔の友達に会えたって!」

「えっ・・・!本当!?」


・・・そっか、丙さん、会えたんだ・・・。


死んだ、とか違う世界だ、とかそんな野暮なことはありえない。
きっと、逢えたんだ。


あんなに涙を流した丙さん。
あの綺麗な涙は全部無駄じゃなかった。




気が付くと、ため息が口から漏れていた。



そのとき。


「・・・秋兄っ!ここであったが百年目!」
「十一時間目。何の用かな、コハ。」


感動の窓を蹴破って今帰ってきたのであろう小春が不意に話しかけてきた。
どついたろうかと思ったけど、事を荒立てずに返す。俺って大人。


そんな事を考えていると小春が続けた。



「なあ!一緒に民の濁流に揉まれようぜ!」
「はいはい。」


どうやら祭りにいっしょに行こうとの事らしい。
こいつの発言は翻訳する必要があるから困る。




小春の手小さな手に引かれ、苦笑いでついていく俺。
彼女のこぼれそうな笑顔は、自分が笑ってる姿を思い出させた。



もう、不安なんて無いし・・・。
こいつと思いっきり楽しんでこよう。








「漆黒の宙の下でっ!!集う衆愚の中でっ!!俺達は今っ!!」
「ちょっと黙れ、恥ずかしい。」

あれから数分、小春が買ってあげたクレープをほおばりながらの一言。
はしゃぐのは結構だけど、正直一緒に居てかなり恥ずかしい。


「・・・あれ・・・あそこに何があるんだ?」
「え?」


不意に小春が指差した場所には人だかりが出来ていた。
聞こえてくる声は、歓声ではなく、半分ほどが悲鳴。




「・・・小春っ、行こう。」
「・・・おう。」



・・・何だか胸騒ぎがする。



俺は彼女の手を強く引っ張った。





つづけ