東方幻想今日紀 八十四話  五欲+aの巫女さんの神社で

「・・はっ・・?」




目を覚ますと木の板張りの天井が見えた。


・・俺は寝てたのか・・?


見慣れた命蓮寺の天井・・・にしては違和感を感じた。
まず部屋の雰囲気、匂いも違っている。

布団も違う。

不審に思って辺りを見回すと
障子張りの小さめの部屋だったことが確認できた。



・・ここは・・どこ?




俺の記憶ではこんな場所は存在しない。



・・・ただ、匂いだけはどこと無く・・・
嗅いだ事が無くも無いような・・気がする・。



・・・まさか、今までのは夢?

いや、むしろこれが夢か?



とりあえず・・生きてた・・・のか・・?



体がちゃんとあるか手で触って確かめる。

・・うん。腰の辺りに刀がしっかりと差さっている。



・・・でもおかしい。

貫かれたはずの両胸、腰と脇腹がもう塞がっている。
服の上から触るとほんのり痛んだ。

一体どうなっているんだよ・・・。


・・ここまで自然回復って・・・確実に一ヶ月は掛かるな・・。
まさか・・そんなに長い間寝てた・・とか・・・?


だとしたら丙さんは?


彼女は・・・もしかしたら・・
いや、もしかしなくても絶命しているだろう・・。


彼女はあの時あんな事を言っていた。



与えた攻撃が二倍になって跳ね返ってくる。
自分が傷つけば傷つく程殺傷能力と素早さが上がると。




そして、分身を含めて七つ鬼火の青年5人を一気に斬った。

もしそれが本当ならばあの満身創痍の状態で、最低でも
七つ鬼火の青年の致死ダメージの10倍の攻撃を一身に負ったのだ。

斬った直後、一見ダメージを負っていなかった様に見えた。
だけど、彼女は激しく吐血し、目が虚ろになっていた。


考えられるのは全部攻撃反射を内臓に集中させていたという事。


そんな状況で死なない訳が無い。


もう一つ、気になっていたことがあった。


もう大切なものを失いたくないと彼女は直前に言っていた。
あんなに拒んでいた帽子を自ら取った。


・・もしかしたら・・彼女は前にも似たようなことがあって
帽子を取らなかった為に大切な人が死んだ・・・とか?



・・・考えると胸がきゅっと締まり、涙が出てきた。


・・丙さん・・・。




「・・何泣いているんだ俺・・・。
 ・・・丙さんはまだ死んだと決まったわけじゃない・・。」



・・・今は状況を確認しよう。




「よっ・・・。」


涙を拭いてから、腰を上げて立ち上がったが、やっぱり痛くない。




布団を畳み、枕と一緒にまとめておいた。

早く助けてくれた人にお礼を言わないと・・。




部屋から出ようとして障子窓に近寄ったら
突如としてその戸はスッと音を立てて開いた。


「うわあっ!?」「きゃ!?」


思いがけず誰かと目が合って、心臓が止まりそうになった。
び・・・びっくりした・・。


「・・・って、あれ?霊夢・・・さん?」


視線の先には目を丸くした腋を露出した巫女さんがいた。


って事は・・・ここは博麗神社!?

・・・もしかしたら倒れているところを偶然発見して
ここまで運び込んでくれたのかもしれない。


「え・・・えええっ!!?ちょっと鈴仙!!?
 もう立ってるわよ!?歩いてるけど!?」


そしてその巫女さんは障子の外に思い切り叫んでいた。


「そんなに大声上げないでよ・・聞こえてるから・・
 当たり前でしょ?とっておきの特効薬なんだから・・。」



「へえ・・あんな陳腐そうな薬が良く効くのね・・。」
「あのー・・・そろそろ怒るよ・・?」


少しして障子を更に開けて、もう一人が入ってきた。

「!?」



その鈴仙と呼ばれた人は長い銀色の髪、
ウサ耳にブレザーの格好だった。
小さめの薬箱を重たげに持っていた。

・・・ってちょっと待て。

何という格好をしてるんだこの子は・・・。


現代的というか・・・幻想郷にもこの格好があったのか・・。
腋露出巫女とウサ耳ブレザー。


傍から見るとこの状況はどう考えてもコスプレ喫茶


・・・そんな言葉を飲み込んで俺は気になる事を訊いた。


「あの・・・丙さんは・・・?
 ・・どのくらい俺は寝ていたんですか・・・?」


「質問は一つ一つしてよ・・・。」
「あ、すみません。」


まあいいわ、と一言言って霊夢さんは話し始めた。


「あのわけのわからない獣達を倒した後の帰り道、
 あんたが昨日倒れてたところを
 通りかかったら見つけたの。」



「えっ・・昨日!?」

一日でこの傷が・・・全快?



「そうよ。まあ最後まで聞いて。
 そんで死にそうだったから無視しようと思ったけど
 偶然近くにこいつがいてね。薬をわけてもらったのよ。」

・・なるほど・・手段はどうあれ、霊夢さんは特効薬を使ったのか・・。
だから一日で回復した・・のか?

それにしても皮膚貫通四箇所を一晩とかありえない薬だ・・。
一体何が入っているのだろうか・・?

って事は・・・。

「あの・・・丙さんは無事ですか!?」

「ああー・・あの時近寄って薬を渡したらまだ息があってね。
 何も言わずに薬だけ持ってって凄い速さで飛んでいったわ。
 あんな状態で何で動けるのかわからなかったんだけど・・。」



「・・そ、そうですか・・・よかった・・。」



あの傷で動けるのは正直意味がわからなかったが、
無事ならそれでいい。丙さんはその薬を飲んでどこかで生きている。

・・・安堵の溜息が思わず口から漏れた。



そんな事を考えていると鈴仙さんが口を開いた。


「そんなことより・・・もらったと言えば聞こえはいいけど
 あなたが勝手に脅してぶん取ったんでしょうが・・・。」


鈴仙さんが力なく薄目を開けてつぶやくように文句をつける。

それを聞くと霊夢さんは煩わしそうにぴしゃりと言い放った。


「あの時そこにいたあんたが悪いのよ。」


多分生きてきた中で一番酷い言い掛かりを聞いた気がする。


「あーもー、それはいいけど、あの薬、納期明日なのよ?
 お師匠様に怒られちゃうよぉおお・・。ううー・・。」

鈴仙さんは頭を抱えて唸った。

勿論やることは一つ。



「・・鈴仙さん、材料が揃えば作れますよね?」
 

「へ?ええ・・作れますけど・・?まさか材料を・・?」

鈴仙さんが面食らったように言う。



「勿論です。助けて貰ったんですからそれくらいはしないと。
 ・・・あと、霊夢さん、ありがとうございます。」


「あ・・、うん、もう行くの・・?」
「ええ。お世話になりました。」

俺は霊夢さんと鈴仙さんを交互に見て胸をぽんと叩いて言った。


少しの間を置いて、鈴仙さんはぱっと表情を明るくして近寄ってきた。
そして、星が煌くような笑顔で紙を手渡してきた。

「それは良かったです!じゃあ、これ、材料ですよっ!
 全部集めて必ず明日までに永遠亭に持ってきてください!」


急に態度が豹変したのでびっくりした。
え・・・さっきまでしおれてなかった・・?


「あの・・・永遠亭ってどこですか・・・?」
「迷いの竹林の近くに案内する人がいますから!
 とにかくお願いしますねっ♪」

「・・は、はい・・。」




その後、俺は首をかしげつつ、刀と材料の紙切れを手に博麗神社を出た。

霊夢さん、ありがとう。
丙さん、ありがとう。
鈴仙さん、明らかに巻き込まれてたけどありがとう。
深水、多分ありがとう。


俺は元気です。紙を見るまででしたが。



つづけ