東方幻想今日紀 八十五話  ふしぎなくすり(の材料)

俺は一晩お世話になった博麗神社から離れ、
田舎の田園風景を眺めてながら歩いていた。


丙さんが生きている事もわかった。
自分も何とか無事だ。


今やることは一つ。


自分と丙さんに使った特効薬の材料を集めてくること。

丙さんの分は勿論、恩返しという形で俺の中で換算したい。



さて納期は明日まで。
・・・一応材料だけ確認しておこう。


正直尋常じゃないものばっかりな気もするけど・・。

だってあんな傷を一晩で治してしまうのだから。
精力剤とかがぽんぽこ入っていても不思議ではない。


仮に薬草とかばっかりでも
量が多かったら一日で集めるのは大変だ。


紙を目に近づけ、内容を確認した。





糸瓜(へちま)

甘草

福寿草

藜(あかざ)

蓼(たで)

玉露

桂枝(シナモン)

青梅


あれ?ここまでは健康茶のレベルだな・・。
特効薬のレベルじゃないような・・・。


薬というには余りにも無難だな・・・。



ここで集められるのもありそうだし・・・。

幻想郷といっても元の世界と自生している植物は
あまり変わらなかった。
決して今日中に集めるのも難しいことではない。


きっとこの先に決め手があるんだな・・。


気を取り直して続きを読んだ。



鈴蘭の根

朝鮮朝顔

馬酔木(あせび)

走野老(はしりどころ)

鳥兜(とりかぶと)

漆の樹液



うわ。かなり有毒なのが出てきたな・・。
これは・・・まあ、薬の範疇だろう。

現に朝鮮朝顔トリカブトは麻酔薬にも使われたし。
でもここまで来ると特効薬という感じがする。


しかし・・こんなの一日で集め切れるのか・・?


おっと・・裏面もあるな・・。

一応裏面にも材料が書いてあるかもしれない。
紙を裏返しにした。



妖精の羽
極楽蝶の尾
飛燕の嘴
妖獣の尾



(くしゃっ)



ここまで見て俺は黙って紙を畳んだ。



無理だ。



一瞬妖獣の尾とか見えた気がするけど・・・。
明らかに猟奇的な想像しか出来ない。

あれだろ妖獣の尾って・・ナズーリンや野狐のそれだろ・・?

無理無理無理絶対無理。

野狐は数本あるけどそういう問題じゃない。


そもそも飛燕とか飛んでいるツバメの事だ。
要はあれか・・?飛んでるのを殺したものだけ・・?

妖精の羽もかなり猟奇的だ。
極楽蝶に至っては聞いた事も無い。




・・・明日どころか永遠に無理な気がする・・。
収集難度はドラゴンボ○ルと大差ないんじゃないかな・・?


「・・・こんな時にナズーリンがいたらなあ・・。」
「私を呼んだかい?」


そうそう、こんな具合に・・・って、


「うわああぁあああ!!?いつの間にっ!?」


後ろを振り返ると腕を組んで足を軽く組んだネズ耳の少女がいた。
穴あきスカート、尻尾。全身グレーの服装にケープ。

組んだ腕には二本のダウジングロッドが刺さっていた。

な、何でここに・・!?


「たった今だ。・・・やはり、生きていたか。
 丙と一緒なら彼女が何とかすると思ったよ。」

少しだけ彼女は気の抜けたような声をしていた。
安堵の表情を浮かべていた。
恐らくかなり探し回って疲れたのだろう。

「・・ああ、ありがとう。俺は無事だよ・・・!」


・・・俺なんかの為に・・ずっと・・。


微笑み返すと、彼女も軽く溜息を吐いて俺をまじまじと眺めた。
尻尾が左右に軽く揺れていた。


「・・見ればわかる。」


彼女は口を尖らせながらも目は笑っていた。


・・あれ?ナズーリンって人は
捜せないような事を前に言っていた気が・・。


「・・人って捜せたの?」

彼女はそれを訊くと軽く馬鹿にしたような顔で返した。

「・・そんな訳無いだろう。
 ・・だから君の刀を捜したん・・おや?どうして顔を背けるんだい?」

「いや・・・何でもないよ。」


とりあえず俺は邪念まみれだという事がわかった。
今すぐ刀で腹を切りたいと思いました。

何故かナズーリンの言葉が下ネタに聞こえた。


「・・そ、それはいいけどさ、命蓮寺の人は無事?」


・・一番聞きたいことでもあるのだが、今となっては
話題をそらすための手段としか思えなくなってしまった。


「・・・一応・・誰も死んではいないのだが・・。」


そんな俺の感情とは裏腹に、ナズーリンは曇った表情をして頬を掻いた。
どう見ても何か言い辛い事がある様子だった。


「・・・何か・・・あった?」

「・・いや・・・それが・・・獣に怪我をさせられた者・・
 ・・全員にあの刻印が打ち込まれているんだ・・・。
 ムラサとご主人、ぬえ・・・そして聖・・・。」


「っ・・・!!」


怪我・・・って事はまさか・・・!?
あの獣は・・・前に戦って命連さんに刻印を植え付けた唐獅子と
同じ集団か・・・・?


という事は自分にも・・・!?
俺は慌てて自分の右腕を捲った。




そこには漢数字で「二十八」と表情も無い文字が打たれていた。




・・・おかしい事だが、すんなりと受け入れられた。
もしかしたらあまりのショックでおかしくなっているのかもしれない。


二十八。


この数字の意味、それは最低二億の人妖が消滅する事。


ナズーリンを横目で見ると完全に表情が引き攣っており、
思考停止していた。口も軽くぱくついている。


でも、これでやることがはっきりと見えた。


最近刻印について解った事は二つ。

刻印は植え付けられた瞬間に次に移る人が決まっている。
刻印の数字が減り、移動するのは一週間前後。


だからこの場で自殺しても
横のナズーリンに「二十七」が移るから無駄。

つまり、二十八週間後、半年以内に元凶を断つ。
この異変を解決する。


・・・これしか無かった。


イムリミットは・・・あと半年・・・。


・・・これからどうするか・・。
どうやって元凶を断つか・・・。


元凶を断つには情報を集めるしかない。

・・でも、恐らくあのパチュリーさんでも知らない。
刻印の事を知らないのだから。

・・・手がかりに・・・なる物・・。



・・・あ!



「ねえ・・ナズーリン・・。」
「・・・え・・?」



横で固まってるナズーリンに訊いて見る。
ナズーリンは恐る恐るこちらの顔に視線を上げた。


「・・いつまで固まってるのさ?」


「・・そ・・そういう君は・・どうして
 そんなに平然としていられるんだい?二億だぞ・・?
 もしかしたら・・幻想郷中のほとんどの人妖が
 いなくなるかも知れないじゃないか・・・。」

ナズーリンが打ち震えながらゆっくりと言う。


確かにそうかもしれない。
この状況で普通に頭が回るのは正直おかしいことだ。


・・・でも、こういう時こそ冷静にならなくちゃいけない。
だから、むしろこっちの方がより解決に近付ける。


「大丈夫。何とかできるかもしれないよ?」
「・・・え・・?本当・・かい・・?」


自信満々に言う俺を見て、少しだけ彼女は落ち着きを取り戻した。
表情も少しだけ緩み、緊張感も減った。



俺は笑顔で彼女にこう告げた。




「あのさ・・・これから薬を作るんだ。
 一緒に材料を探すのを手伝ってくれない・・?」





彼女は戸惑いながらも頷いた。




・・そう、元凶を断つ以外にそれを食い止める方法があるんだ。
それができれば、時間稼ぎにはなるはずだ。


そんな事を考えて、俺達は一度命蓮寺に戻ることにした。



つづけ