東方幻想今日紀 七十九話  Let us break on ! !(無礼講)

「・・・どうした?今日は呑まないのかい?」
「・・・うー・・。」


宴会二日目。もとい最終日。


お猪口を前にして俺は苦々しい顔を浮かべていた。


もう司会という堅苦しい役職は存在せず、
顔見知り、付き合いのある者のみで宴会を開いていた。


・・・今お猪口を前にして固まっている理由は二つ。


どうやら俺は弱い上に酒癖があまり良くないようで、
話を聞くと主に聖さんにセクハラを散々した挙句、
ぶっ倒れてしまいその聖さんに介抱して貰ったとの事だ。

そこまで至るのにたった徳利三本分位しか飲んでなかったそうだ。

勿論聖さんには土下座なりして謝ったが、
もう呑んでそういう事をしたくないなあ・・・。


「・・大丈夫、宴会という物は無礼講なんだ。
 だから、君が羽目を外してもそこは許されるんだぞ?」

「・・・。」


諭すように俺の目を見て言うナズーリン



「 ・・・それに、昨日普段と違った君が見れて、
 少し・・・嬉しかったんだが・・・な?」


・・・ずるい。ナズーリン
そんな顔でそんな事を言われたら・・呑むしか無いじゃん・・。


「・・・わかった。呑むよ。ありがと。」
「ああ。それでいいんだ。」


お猪口を手に取り口元で軽く傾けた。


喉を伝う暖かい粘性のある液。

「・・ふぅ・・。」

お猪口を台の上に軽く置くと、俺は軽く溜め息を吐いた。
周りは相も変わらず楽しそうに飲んでいる。


そんな時、背後から不意に声を掛けられた。



「お、やっぱそうだ。あの時の奴だ。」
「え?あんた知り合いだったの?」


激しく聞き覚えのある二つの声。
確認の為に振り返ると面識ある二人の少女がいた。


魔理沙さん!?霊夢さん!?どうしてここに!?」


そこにはにっと笑っているブロンドの子と
大きな赤いリボンとフリフリ紅白衣装の巫女さんがいた。

二人とも酔っているのか、少し赤ら顔だった。

「あんたこそどうして・・・って、ここの人だっけ。
 ・・・そういえば、あんたの名前を聞いてなかったわね。」

「あ、そういえば私も訊いてなかったぜ!おい、名乗れ。」


・・・どうやらまだ名乗っていなかったらしい。
というかその上で二人の名前を知っていたのだから
かなり俺は名乗りたがらないらしい。

「あ・・・言い忘れてました。リアって言います。」


「ふうん・・・リア・・・か。」

霊夢さんは軽く頷いていた。


「・・ところで、紅魔館の人達は?」
「あー、私達と一緒に飲んでるぞ?来るか?」

魔理沙さんが笑顔で即答する。


・・・どうしよう・・・ここで呑むのも楽しいんだよな・・。


ナズーリンに軽く視線を送ると、
彼女は呑みながら軽く顎をくいっと動かした。

どうやらOKとの事だ。


「一緒に呑みましょう!」
「おー、よし、付いて来い。」



二人の後に続いていった。



「・・・あら・・いたのね。」

広間の反対側、一番舞台から遠くの位置に
見覚えのある紺の髪の蝙蝠の翼の幼女と銀髪のメイドさんがいた。

紺の髪の子は俺を見つけると少しだけ眉を上げた。
ドアノブのカバーのような帽子は着けていなかった。
ワイングラスを片手に少し愉しそうにしていた。


「リミリアさん!」
「・・レミリアね。」

凄い形相で訂正された。
というかかなり睨まれた。


・・うん、うろ覚えで人の名前は呼ぶもんじゃないな。


・・そういえばさっきから何でこの人は
ワインを飲んでいるんだろう。

日本酒しか用意していなかったはずだけど・・・。


「・・・あのー、ワインはどうしたんですか?」
「・・・わい・・・何?」


あ。そっか、幻想郷にワインという言葉は無かったんだっけ。


「・・えーと、そのぶどう酒です。」
「・・・これ、血よ?」



「そっか・・・血かあ・・・・えっ、血!?」

レミリアさんは眉間にしわを寄せた。


「反応が鬱陶しいわね。血よ、私は吸血鬼なの。」


なるほど・・・翼は吸血鬼だからなのか・・。
妙に納得してしまった。


「へえ・・・あんた達知り合いだったのね・・。」
「意外とお前は顔が広いんだなあ・・。」


感心した様に言う霊夢さんと魔理沙さん。




その時スパーンと強くふすまを開け放す音と
同時に寅丸さんの声が広間中に響いた。



「大変ですっ!ここ一帯で大量の獣妖怪が村を襲撃しています!
 今すぐ戦える人は協力してください!追い払います!
 数も強さも尋常ではありません!お願いします!」



とても普通では無い程大きな寅丸さんの叫び声。

その迫力は広間を静寂で包むには十分すぎた。



「あ、ちょっとリア!?」




気が付くと俺は刀に手を掛け、広間から飛び出していた。






つづけ