東方幻想今日紀 七十四話  シンスイ ヒカリ()


・・・青い空が見える。



・・寝ている所が固くて頭が痛い。

・・・俺はどうして地面の上で寝ているんだ・・?




体を起こして、状況を確認してみる。





・・・近くには屈強な男四人、
少し離れたところでもう一人が倒れていた。



あれ、何だこのおっさん共。




・・・・この状況は一体・・・。




ぼんやりとしながら辺りを見回していると
首に軽い痛みがした。


首を触ってみると、布目の様なざらざらとした感触があった。




「あっ・・・!!」



その瞬間、閃光が閃く様に脳裏に映像と音声が走り抜けた。




あの男に詰め寄ったこと。

小傘が取り押さえられ、人質に取られたこと。

自分の不注意のせいで彼女を巻き込んでしまったこと。

自身も捕まってしまったこと。

小傘の身の危険が迫り、そんな中でもずっと俺を案じていたこと。

そして、あの吐き気がする様なあの男の下種な台詞。


布目の痕は、押さえられたときに付いたものだろう。


・・・そして、最後に流れてきた物は、不可解なものだった。




「・・・えっ?」




それは、あんなにも強固だった拘束を
ほんの一瞬で振りほどき、刀を素早く取り出し、
そいつの脳天に鞘打ちを仕掛けた映像だった。

さらに小傘の元に駆け寄り、
四人の男を鞘打ち、手刀で刹那の内になぎ倒している。


そして、振り向きざまに爺言葉で小傘に帰るように言い放つ。


彼女は困惑しながらもそれを受け入れた。





・・・ここまでが一気に流れた。


しかし、これは俺じゃない。




・・・俺ではない、誰かだ。






「・・・まさか・・・!」




刀を取り出し、黒い柄に刻まれた刻印を見た。





そこには、五行目、六行目の漢字の羅列が追加されていた。





我銘「深水光」也
汝持主認仮






・・・・これは、間違いない。


「我が銘は『深水光』也(なり)・・?
 汝(なんじ)を持主として認める・・って事!?」



まさか・・・この刀に・・・認められた・・!?

これで・・晴れて、刀を真に扱えるという事に・・?




あ・・・よく見ると、「仮」の文字があった。

なんだよ、認め切った訳じゃないのか・・。





・・・でもこれで・・・少しは心を許されたのかな・・?




「・・・ねえ?」



・・刀に向かって言ってみるも、ウンともスンとも言わない。


刀に話しかけるなんて、傍から見ると危ない人だ。




でも、これでわかった。



多分・・・憶測に過ぎないけど、
きっと刀が憑依して、俺に力を貸してくれたんじゃないだろうか。
そうじゃなくても、小傘を結果として守ってくれたのではないだろうか。


そう考えると、自然に笑顔がこぼれてくる。


「ありがとう、シンスイ・・・ヒカリ・・?」




名前が読めないから今ひとつ自信ない。
第一こんな読み辛い名前なのは良くないと思う。











さて・・・俺がやることは二つ。




帰って、小傘に危険な目に遭わせた事を謝る事。



・・・そして一人漫才のネタを考える事だった。








「・・・・ネズミ・・・ど畜生・・・。」








帰路は非常に足取りが重く、長かった。












つづけ









※刀の刻印については二十七話、二十八話参照。