東方幻想今日紀 七十三話  リアのち、ふかみなのみつ

今小傘は三人の大男に人質に取られている。

白い首筋には四本の白刃。




くそっ・・・・・。


俺のせいで・・・。




奴は金目当てなのだから・・・。




「・・話がわかるじゃねえか。
 だがよ、今はもう金はいらねえんだよ。」


男は差し出した財布を手で払った。


「・・!?」

黒い財布は弧を描いて地面に乾いた音を立て、落ちた。



「・・・おい、このガキに一人つけろ。一人で十分だ。」



その男の口からそんな言葉が出た瞬間、俺の首に太い手が回った。

「なっ・・・放せっ・・・!!」


凄まじい力で抑えられてしまった。
全く身動きが取れない。


「くっ・・・放せっ!!放せ・・むぐっ・・。」


くそっ・・・口を押さえられてしまった・・・。






そうこうしている内に男が小傘にゆっくりと近寄った。


そして、蛇が吐息をかけるかのように言い放った。


「・・・ほお、上玉だな・・一本蹈鞴の少女か。
 ・・おい、もう一人つけ。暴れ出したら三人じゃ無理だ。」




やめろ・・・これ以上彼女に触れるな・・・!!


これ以上、彼女に危害を加えるなっ・・・!!




そんな叫びも、顔も見えない後ろの男の手により阻まれてしまった。



もう一人が彼女の腰を抑え、
いよいよ彼女の目が恐怖で虚ろになってきた。


「リアくんを・・助けて・・・私はどうなってもいいから・・。」



か細い、か細い声だった。


心の底から搾り出したような、小さな声。



男は大声で告げた。



「そいつは出来ねえなあ。
 このガキを殺してお前は娼婦として生きてもらうんだよ。」



吐き気がするほどの下劣な台詞に胃液が上がってきた。


・・・同時に、自分への怒り、その男への怒りが絶頂に達した。









気が遠くなる。







何かが、俺の中で奔り抜けた。























次の瞬間、小傘の拘束が解け、
彼女を抑えている男は地に伏した。




「なっ・・・・!?」「え・・?」




向こうで、さっきまで俺を抑えていた男も倒れていた。


何が起こったのか、自分にもわからなかった。




「・・小傘、お主は命蓮寺へ戻っておれ。」
「・・えっ・・・・?」




「早くするのじゃっ!」


彼女は一瞬驚き、小さく頷くと、背を向けて一目散に飛んでいった。







・・記憶は、ここまで。








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「・・やれやれ、お主も本当にうつけだの・・。
 己に想いを寄せる女子一人も満足に守れぬとはな・・。」





「・・・・誰だ、お前は。」



「リア・・・じゃ。」

「嘘を吐け。」



蒼い刀を肩に担ぐように持った青年は、嘆息した。




「・・・深水光(ふかみなのみつ)とでも名乗っておこうかの。」

「・・ほお、いい名前だ。」


「・・・お褒めに預かるとは、光栄だのう。」



「・・ほざけ。・・・こいつらは殺したのか・・?」

「いや、気絶させただけじゃ。
 ここ暫くは目を覚ますことはあるまいて。
 ・・・さて、お主はどうしたいのじゃ?
 紅い花を此処に描いてやっても良いのじゃが・・。」


「・・・遠慮しておくぜ。」

「・・そうか。ならば早く儂の前から姿を消すのじゃ。」


「・・・けっ。」





男は倒れている他の男を残し、背を向けて立ち去っていった。









「・・・さて、儂も戻るとするか。
 ・・・今回は、特別じゃからな・・・?」






青年は刀を収めると、糸が切れたように地面に倒れこんだ。




つづけ