東方幻想今日紀 七十一話  さびしがりやの傘

「丙さーん、なにやりますー?」



ナズーリンの部屋を出たあと、
丙さんが廊下を歩いていたので捕まえて訊いてみた。



勿論、意地悪な質問のつもりだった。


どうせここで「え?」ってなって、「実は・・」で事情を話す。
そんでもって一緒に漫才をやらないか訊く。


恐らく丙さんはその事はまだ知らされていない。


完璧だ。これで一人漫才は脱却だ。

丙さんには悪いけど、恨むならナズーリンを恨んで欲しい。



「腹話術だけど?」




しかし、そんな淡い期待はもろくも崩れ去った。




「ふっふっふ、リア君甘いね。
 私をはめようなんて一年早い!」


一年経てばいけるのかい。
いや、無理だよ。


丙さんは一本指をピンと立て、得意満面でこう言った。


「私くらいになると表情から思考がほぼ完璧に読み取れるんだよ?
 ・・そして、そこから一瞬でやる事を決めた。
 じゃあ、練習頑張ってねリア君。」


彼女はそう言って、
背伸びしながら頭をポンポンと叩いて、廊下を去った。



・・ううう・・・やっぱりただ者じゃないよ・・・。
完全に後手に回ってしまった・・。
やっぱ敵わないなあ。



ぼんやりとした気持ちで廊下を歩く。



やることは一人漫才なのだ。漫談ではない。

つまり、一人二役

ボケも突っ込みも全部一人でやるのだ。


そして、人形使うのは逃げになるそうだ。(ナズーリン



ああ、ネタを考えないと・・・。







そんなこんなで、結局ネタが決まらず、夜になった。

皆が食事をし終わり食休みに入ってる時、
ナズーリンが例の招待状を皆に渡した。



「・・・えっ、明後日ですか!?」
「ああ、一番都合のいい日がそのくらいしか無いからな。」



ここで一つのことに気が付いた。

明日この招待状を渡すということは、
急に来なくてはいけなくなってしまうことを意味している。


要は明日宴会があるから来てね、といった文になる。

一応、確認だけ取っておこう。


「ねえ、宴会は明後日なのに明日配って大丈夫?」

「ああ、遠方の者にはもう配ってある。
 だから、この近くのものに明日配る予定だ。」


なるほど。確かに気軽に参加できる宴会なら、
近くの場合明日だと言われても普通に出て行ける。


「・・・さて、出し物多数とここに書いてあるが・・・
 皆、何かやるものを決めてくれないか?
 宴会芸、特技、演劇など何でも結構だ。」


皆が少し考え込む。


勿論、俺は一人漫才だから考える余地が無い。


わー出し物考えなくていいから気楽だなあ(棒


少しすると決まったのか、明るい顔の人がちらほら。


ナズーリンがその様子を見てまた切り出した。

「まあ、明後日までに出来ることを考えておいてくれ。
 一応、皆が酔っている状態だろうから、失敗しても構わない。
 具体的には酒宴の余興だと思ってくれ。」


そんな感じで話は終わった。






話が終わって、広間を出た。


客間に戻り、明後日何のネタをするか考える。

・・何がいいかな・・。
皆酒に酔ってるだろうし、固まって無くても何とかなりそうだけど・・。


そんな事を考えていたらふすまの外から声がした。


「・・ねえ、リア君、入ってもいい・・?」

控えめな、少し萎縮した声。

この声は小傘だ。


客間のふすまを開け、彼女を中に入れた。


座布団を引っ張り出してきて、彼女を座らせた。

すぐに彼女は本題を切り出した。

「リア君、一緒に明日、招待状出しに行かない・・?」
「え?小傘の仕事なの?」

「うん、そうなの・・・どうかな?」


・・まあ、明日は寺子屋も休みだし、行って来ようか。


「わかった、一緒に行こう。」

「ほんとうっ!?」


彼女は光が点るように笑顔になった。
うっ・・・凄くかわいい。


こんな顔されたら寺子屋あっても行ったかも・・。

それに、必要とされてると思うとこっちも嬉しくなってしまった。


そんな栓もない事を考えながら、その後歓談して今日は終えた。




最後に小傘と将棋をやったのだが、飛車角銀桂香落ちで勝った。

正直、弱いなんてもんじゃなかった。

こちらは主力駒二枚に対してあちらは大駒二枚主力八枚だ。

最初は普通にやっていたのだが、あまりにもあっさり負けるので、
だんだん駒を落としていったのだが、
金以外全落ちでやっと勝負になった。

・・・一種類ずつ落としていったのだが、ここまで落ちるのに五戦。

つまり、それだけの数連敗、惨敗した訳だ。

でも、小傘は楽しそうだった。

勝負にあまりこだわっている感じではなく、
将棋をしている事を楽しんでいた様だった。

・・・でも、彼女は将棋はそこまで
好きじゃないようなことを言っていたような・・。

じゃあ、気を使ってたんだろうか。
楽しそうな演技をしていたんだろうか?

だとしたら後で謝っておこう。

誘ったら二つ返事だったとはいえ、嫌だったかも知れないからだ。



そんな事も考えて、明かりを消して寝た。







・・・もうこれで、客間に一人で寝るのも慣れてきた。







つづけ