東方幻想今日紀 七十話  また賑やかな日々が始まる

「んー・・・これなんかどうですか?」

「さあ・・・・?」

「さあ、じゃないですよ。しっかり考えて下さい。」




んー・・・。




「・・・・布団くらい自分で気に入った物を選んで下さいっ!!」


「む・・・わかりました。」


彼我さんは少しつまらなそうな顔をした。




あの日から一週間が経った。



今俺は彼女と布団を買いに行っている。




・・・何でそんな事をしてるかって?




彼女が聖さんと和解したので、命蓮寺に居つくことになったからだ。



早い話、彼女が命蓮寺に寝泊りすることになったのだ。

また人が増えた・・・という事になる。


そして何故か俺が一緒に行かされる事になった。



・・・で、彼女は青の布団を持って俺に似合うか尋ねている。


・・しかし、布団がその人に似合うかどうかわかる人なんて、
幻想郷はおろか、この世にほとんどいないのではないだろうか。




とりあえず、彼女は真面目だった。



それはなんとなくわかってはいた。


あんなに壮大な計画を一人で推し進めるには、
かなりまめでなければならない。

・・しかも、動機は恩返しだ。


そのために悪人を演じてみたりもした。


そんな彼我さんが、真面目じゃない訳が無い。





・・・ただ・・・。




「あのー、裏地は何色がいいですか?」




「知るかぁああっ!!」




布団の裏地が似合うかを聞く程・・・常識知らずだった。



勿論最初は服似合いますか?とかだった。
左目の包帯もまだいい。俺は薄紫が似合うと答えた。


髪飾りは可愛いウサギのを選んであげた。

どうしても悪人で腹黒なイメージを払拭できなかったからだ。
根は凄く真面目なのに。



風呂タオルも込み上げる何かを抑えながら
甘んじて一緒に選んであげた。



それはまだいい。まだいいんだ。



・・サラシの色を聞かれた時にはどんな羞恥プレイかと思った。








「いやあ、すみません、持ってもらっちゃって・・。」
「いえ・・・大丈夫です・・・。」

「おつかれさまです。」

お出迎えは寅丸さんだった。


・・・やっと無事に命蓮寺に着いた。



出来ればもう彼我さんと買い物に行きたくない。






「・・・ところでナズーリンは今何してるの?」
「おや?急にどうしました?」


「いや・・・朝から作業してたから・・」
「・・それなら自室でまだやってると思いますよ?」


寅丸さんとそんな会話を交わして、ナズーリンの部屋に行った。








ナズーリン!!」


思い切りふすまを開けると、
ナズーリンが何かを羽ペンで書いているのが目に付いた。


彼女は俺に気付くと、ふっと微笑んだ。




そして、ペンを置いて立ち上がり、手にロッドを持った。










「ちょっと待って待て待て!流石にそれは!」

「・・・仏の顔も三度までだ。」


「これで三回目でしょ、だからちょっと待って!!痛い!」



驚いた。
確かにまた部屋に入る合図を忘れてたけど、
まさか躊躇無くロッドを使って片方で押さえ、
もう片方で肩を絞めにかかって来るとは思わなかった。



「・・・誓うんだ。次は声を掛けると。」
「誓う誓う!だから離して!」


「・・・よし。」


溜飲が下がったようで、彼女はロッドを離した。



肩に相当食い込んでいたので結構痛い。


だんだん彼女は俺に容赦がなくなってきたように思う。
・・気のせいだと良いんだけど。




彼女はロッドを置いてから一息置いて尋ねた。


「・・で、今度はどうしたんだい?」




「・・・朝から何書いてるの?それ・・・。」

俺は机にある数十枚の同じ大きさの紙を指差した。




「ああ・・・これか・・。」

彼女はそう言うと、一枚取って俺に渡した。


「・・・え?」




文面は、宴会の招待状。





・・・なのだが、字が丸くて可愛かった。

彼女の普段の字は堅苦しい感じなのだが、
この招待状には普段の字の面影は無かった。

かわいらしいイラストが随所に入っており、
正に客寄せ、といった感じだ。


誰でも来て下さいね!と言う自分のイラストが笑顔で描いてある。

きっとこれを見て、敬語の可愛らしいネズミ耳の子を
想像した人は現物の違いに泣く事になるだろう。



かわいそうに。


下手すると食品偽装よりもタチが悪い。




訂正を求めたかったが、やめておいた。


ちなみに出し物多数とあるのは、まだ決まっていないからだろう。



・・・彼女は字を使い分けていたのか・・・恐ろしい。




そして、もう一つ驚いた事。


「・・・あれ?明後日?」




見間違いだろうか、宴会は明後日とあった。




「・・そうだが?」




彼女は涼しい顔で行った。


そうだが?じゃないよ。


何も知らされてないのに明後日何かやれとか困るんですが。



「えっ、じゃあどうするの?出し物は!?」

「今日の夜決めて、各自練習だ。」




呆れるほどに清々しい顔で言うナズーリン




まあいいや、大した事はやらなそうだし。

一応訊いて見よう。


「・・・誰が何をやるかは大体決まってるの?」
「・・・君は一人漫才で確定だぞ?」




「・・・え?」



「聞こえなかったのかい?君は一人漫才だ。」




「・・・うん・・・えっ?」

「一人・・漫才だ、君は。」



ちょっと待て。どうしてそうなったんだ。



「誰が決めたの?」

「主に私だが?」



悪びれる様子も無く言うナズーリンは一周して恐ろしかった。
殴っても・・・いいですかね・・?

彼女は恐らく、悪魔だろうか。



「そんなのできる訳・・・」


少し間を置き、彼女は笑顔で釘を刺した。









「・・・居候の、雑用の一つだ。」










訂正しよう!彼女は悪魔ではない!


鬼畜だ!








この後俺は、一人で客間に篭もって
ひたすらネタを考える羽目になったのは言うまでも無い。




つづけ