東方幻想今日紀 六十三話  刻印は突然に

日記の六日目は白紙になった。
その日は久々によく眠れたことを憶えている。


日記の続きである。


七日目 特に変化なし。聖さんの刻印にも変化は無かった。
寺子屋の生徒がよく眠れないと訴えてきた。
欠席も常に一人か二人はいる状況だった。

八日目 特に変化なし。 ぬえが最近よく眠れないらしい。
他の人はどうだろうかと皆に訊いたら
ムラサさんと寅丸さんが同様によく眠れないと言っていた。
あと近くで雪崩があったらしい。三人亡くなったとの事だ。


九日目 何の前触れも無く刻印が突然消えた。
すぐに聖さんの刻印を確認しに行くと
彼女の刻印も綺麗に消えていた。
同様にナズーリンの部屋に駆け込んだ。
慌てていたから何も言わずに部屋のふすまを開けたら
着替え中だったので、頭と鳩尾にいいものをもらって
腕を見せてもらう事にした。




「ねえ・・・反省してるけど・・そんなに強く殴る・・?」

まさか女の子の左ストレートでダウンするとは思っていなかった。
畳の匂いが俺の気持ちを落ち着かせる。

「馬鹿か君はっ!!前にも言ったじゃないか!
 着替え中だったらどうするんだと!それがこのざまか!」

憤慨するナズーリン

返す言葉もありません。
ただナズーリンさん、非常に大人でした・・・。
あえて何がとは言いません。
見た目とは裏腹にお召し物は大人でした・・・・。


「・・・で、何の用なんだい?そこまで急いでいるのは・・。」

「あ、うん。ちょっと腕まくってもらえるかな?右腕・・。」

恐らくあの場にいなかったのだから刻印の説明は知らないだろう。

「ああ・・刻印だな・・って事はまさか刻印が消えたのか!?」
「え、うん・・あれ?何で知ってるの?」

確かナズーリンはあの時席を外していたから
刻印の移動は知らないと思っていたのに。

「丙から全容は聞いた。要するに刻印が私の腕に移動しているか
 どうかを確かめるんだろう?・・・っと。」

そういって彼女は袖口のホック(?)を開けて腕をまくった。

その白っぽくて綺麗な腕に思わず見惚れてしまった。
・・・が、すぐにそんな感情は立ち消えになった。

「・・やはりな。」
「・・・『四』だね・・・。」

そう、彼女の腕にはやはり「四」の刻印があった。
勿論、字体も刀に打たれていたものと同じだ。

仮説は間違っていなかった・・と判断するのはまだ早いか。

とりあえず何人にこの刻印が移っているかを確認しよう。
四人なら次は八人ということがわかるから。

「ありがとっ!」
「あ、おいリアっ!?もう行くのか?」

俺は部屋の外に駆け出した。

とりあえず広間だ。
広間には大体誰かいるはずだから!






・・・誰もいなかった。チクショウ。
裁縫をしていた跡が見て取れるから多分さっきまで
寅丸さんか一輪さんか聖さんがここで作業していたのだろう。

みんな何処にいるんだろう。

今の時間は五時。
食事当番なら多分台所にいるはずだ。


今日の食事当番は・・・ムラサさんだ!
ムラサさんにはあるかな?


俺は軽い足取りで台所に向かった。



「・・え?うわっ、本当だ!!いつの間に!?」
「何で料理してて今まで気付かなかったの・・?」

ムラサさんにも刻印があった。
この時点で二人。

「じゃっ、そういうことで・・・うぐぅ!」
映画の主人公みたいにかっこよく立ち去ろうと・・・出来なかった。

派手に障子に肩をぶつけてすっ転んだからだ。
ゴッという痛々しい音がしたらしい。

「きゃあ!?リア君!?」
「・・・っつう・・・。」

他の人にも確認してみよう。
そして肩も痛いが頭から落ちた為首が痛い。



二時間くらい寺とその周辺を探し回って、全員に確認した。
また、後日寺子屋にも行って聞き込んだ。
さらに、紅魔館に寄ってパチュリーさん、美鈴さん、司書さんに
それぞれ確認を取った。

それがその結果。

聖さん     刻印なし。(消えた)
ナズーリン   刻印あり。
ムラサさん   刻印あり。
小傘      刻印あり。
命蓮さん    刻印なし。
ぬえ      刻印なし。
一輪さん    刻印なし。
寅丸さん    刻印あり。
丙さん     刻印なし。
彼我さん    確認できず。(会えない)
慧音先生    刻印なし。
美鈴さん    刻印なし。
パチュリーさん 刻印なし。
司書さん    刻印なし。 

寺子屋の生徒全員にも刻印は無かった。


こんな感じになった。
恐らくだが、一人から二人に移るのではないだろうか。


刻印のある小傘とナズーリンとムラサさんは
俺とよく関わっている。
ナズーリンと小傘には強い身体の接触があった。
思い出すと頭がボーっとしてくるから
これ以上考えるのはやめにしておくけど。

寅丸さんとはそこまで深く関わっていないが、
聖さんが良く関わっている。
彼女はムラサさんともよく関わっていた。
身体的な接触があっても不思議は無い。

一方、ぬえとは良く関わっているはずだが、刻印が無い。
彼女とは一応唐獅子の襲撃の際に
助け起こされてたはずだがあくまでもこちらに刻印が移る前だ。
多分効力は無いのだろう。

また、身体的接触のあった命連さんには無かった。
彼は俺とも聖さんとも密接に関わっているはずだが無かった。

つまり一度刻印が撃たれると次は移らないのだろう。

また、あくまでも立場上の敵対はしたが身体的接触のあった
美鈴さんには無かった。他も然り。



・・ふう。
この事を整理すると、 

刻印が移るのは一人から二人。数字はだんだん減る。
身体接触が大きく関係。友好関係もあるかもしれない。
一度刻印が現れた場合は移らない。(その次は不明)

・・これで恐らく六十四人がゼロになるであろう事はわかった。

今は四。
・・あとはこれがゼロになるまで待つだけ。

害の有無だけ判断しないと・・・。






それから一週間ほどが経った。



・・また刻印が移った。

今度は命蓮寺の残りの全員。

ぬえ、一輪さんと丙さん。
そして、他の人には刻印はなし。

やはり一度刻印が打たれると次は無いみたいだ。

残り五人は一体何処に・・・?

答えはすぐ見つかった。
よく来る参拝客のおじいさんにあった。
自分も時々見るし、顔くらいは覚えている。

恐らく、他の四人は命連寺の外の人妖だろう。


刻印日記はこれで終わりになる。
もう探索範囲が扇状に広がって確認のしようが無いからだ。

・・でも、何とかして追えないものか・・・。


それとなくナズーリンや寅丸さん、丙さんに訊いてみたりした。

しかし、これだという答えは見つからなかった。


自分でじっくり考えてみるが、いい案は浮かばない。
このままだと全容がわからずに自然消滅してしまう・・。

しかもゼロになるまではどんなに長く見積もっても二ヶ月。
それまでに足取りを掴まなくてはいけない。

しかしこの周辺の人の交友関係全てを把握するのは不可能だ。



とうとう一ヶ月が経ってしまった。


もう諦めかけていた。結局わからず終いなのか、と。
この刻印の存在は闇に消えたのか、と。

次に200とかの刻印が出たときに何も出来ないのだろうか・・。

しかし、意外なところに突破口があった。


いつもの様に寺子屋の生徒にプリントを配る。
狐耳の子にプリントを配るとき、
その小さな腕に目が釘付けになった。




何故ならその子の腕には「一」と刻印が打たれていたからだ。


つづけ