東方幻想今日紀 五十六話  思い切って撃ってみようぜ

あの泥棒のもとを離れ、俺は本の山に駆け寄っていた。

・・・そう、パチュリーさんがいるという本の山。
倒れた本棚の下に大量の本。
不規則に本が積み重なっている。その山の高さは2mはある。

・・本当にこんなところに人が入っているのか・・?
だとしたら重みと窒息で死んでいてもおかしくない。

・・どうしよう、死体が出てきたら・・・。


いやいや、そしたらあの司書さんに報告すれば良い。

とりあえず生存確認のために呼んでみるか・・・。
俺は大きく深呼吸した。

パチュリーさーん!」

そして、本の山に向かって大きめの声で呼びかけた。

・・本の山に耳を当て良く耳を澄ます。
・・何も聞こえない。

うう、やだなあ。
しょうがない、聞こえないだけかもしれないし。

この量の本をどけるのか・・・日が暮れそうだな・・・。
正直、体中痛いし吐き気もする。

何かいい方法は無いだろうか?

「・・おいっ、聞いてるのかっ!?」
「はいぃ!?」

後から不意に聞いたことのある大きな声がした。

・・振り返るとさっきの泥棒さんがいた。

「あ、泥棒さん。すみません、聞いて無くて・・。」
「お前なあ・・・私には魔理沙っていう
 ちゃんとした名前がきちんとあるんだ。そう呼んでくれ。」

そうだった。
人を簡単に泥棒呼ばわりするなんて良くない事だ。

「あ、はい・・・すみません、魔理沙さん・・。」
「わかりゃいいんだ。・・で、これをどけたいんだろう?」

魔理沙さんはにっと笑って本の山を指差した。
・・・なんで解ったんだろう?不思議だ。

「これは私の宝物だぜ。よく見とけよ・・。」

間髪入れずに魔理沙さんは
小さい八角形のお守りのようなものを取り出した。

・・って、まさか・・・・八卦炉?

もしかして焼き尽くす気じゃないだろうか。

・・冷や汗が流れ落ちる。

そして魔理沙さんは大きく叫んだ。

「いくぜ!『魔砲』マスタースパーク!!!」

その瞬間、すさまじい発射音とともに、光のレーザーが
まるで本の山を掠めるようにして射出された。

・・こいつ・・・・!!

「このっ・・・!!」
「うわっ・・・おい!何をするんだお前は!」
「こっちのセリフだ!!なんて・・・なんて酷い事を!」

俺は思わず彼女に飛び掛り、取り押さえていた。
レーザーは止まっていた。


・・・許さない。目の前のこいつが許せない。
彼女を押さえつけている手が震えた。
涙で視界がにじむ。

「さあ言え!!どうして・・こんなっ・・・!!」

言葉に詰まって最後まで言えなかった。
しゃくりあげた勢いにかき消されたのだ。

一方、押さえつけられていた彼女は
何とも不思議そうな顔をしていた。

・・・こいつは罪悪感も無い・・・極悪人なのかっ・・!!

「おいおい、何をそんなに怒っているんだ?
 私は助けてやったんだぜ?」

平然と言い放ったその言葉は、俺の怒りを更に増長させた。

「助けてやった!!?何をだ!楽にしてやったとでも!!?」

「おいおい・・・何を誤解してるか知らんが、
 まず手を離せ。そして後ろを見ろ。」

奴は尚も落ち着き払っている。

「嫌だ!手を離してたまるか!」
「あーもう、うるせえなあ!
 おいパチュリー、こいつに何とか言ってやれ!
 私がお前を殺したと勘違いしてるんだ多分!」

・・え?死んで・・いない?


彼女の言葉を聞いて我に帰った。
まさか・・・・・。

後ろを即座に振り返った。

「・・!!」

そこには、紫色のローブを着た紫髪の人がいた。
頭にはナイトキャップ、月を模した飾り。
そしてむすっとした顔をしている。

そして、はっきりとこう告げた。

「・・・魔理沙。あんた馬鹿でしょ。あと本返して。」
「これだけあるからいいじゃんか。それより何で馬鹿なんだ?」

「・・本をどけるのがめんどくさいから撃ったんでしょ?」
「お前あれいちいちどけていたら時間掛かっていただろ。」

魔理沙さんとそのナイトキャップの子が
口論(?)をしていた。


思わずその中に割り込んでしまった。

「あなたがパチュリーさんですか!?」
「ええ、そうよ。私がパチュリー・ノーレッジ
 この大図書館の主。」

表情を崩さずパチュリーさんが言い放つ。
・・そうか、この人がパチュリーさんか・・・。

・・って事は、魔理沙さんはあれで助けたって事・・・!!?

俺は何て事をしてしまったんだ!!

魔理沙さん、ごめんなさい!!
 俺、何てお詫びしたら良いか・・・!!」

俺は魔理沙さんに向き直って全力で頭を下げた。
・・最低だな・・俺。

あろう事か助けた人を殺したと疑うなんて・・!!

しかし、魔理沙さんの反応は思いがけないものだった。

「あー、そんなに素直に謝られちゃ怒る気にもなれないぜ。
 ・・それに疑われて当然のことをしたからな。いいんだよ。
 お前が気に病むことじゃないぜ。」

頭をかいて少し照れくさそうに言う魔理沙さん。

「・・え、許してくれるんですか・・!?」
「そう言ってんだろ。じゃあ、私は失礼するぜ。
 あ、報酬はこの本な。じゃないと割に合わないぜ。」

言葉の後半は俺の後ろに向けて言っていた。


「・・・あ、ありがとうございます!」
「ま、いいって事よ。」

彼女は激しい音と一緒に窓ガラスを破って窓から出て行った。
かっこいいなあ・・・修理費はここの人持ちだろうけど・・。
なんて男らしいんだろう。

・・女の子にその感想もどうかと思うけど。


「・・ねえ、そういえばあんた誰?目的は?」

後ろから随分と疲れたような小さい声がした。
あ、パチュリーさんか・・。
・・良かった、生きていて。
いい情報も聞けるかもしれない。

すぐに彼女に向き直り、笑顔でこう言った。


「・・・あなたに用があるんです。」



つづけ