東方幻想今日紀 五十五話  溢れる本への思い切った魔砲

さて、困った・・・。

今俺は紅魔館の図書館にいます。
その図書館のどこかの本棚が倒れています。
その本の中に探している人がいるのです。

そう、倒れた本棚を起こして、本を払いのけて・・・
あなたが助けてくれたんですか・・?
ええ、勿論です。
ありがとうございます・・あの、お名前は?
いいえ、名乗るほどの者ではありません的な・・・って違う!

刻印と異変について聞き出さなきゃいけないんだった。
邪念(雑念?)に駆られてる場合じゃない。

そう、倒れてる本棚を探せばミッションコンプリート。
・・でも、そんなに簡単ではない。


ここの図書館はかび臭く、べらぼうに広いんです。
しかもはしごが渡されて入るものの、三階層に亘って
本棚がある。しかもどの階層もめちゃくちゃ広く、
あまり明るくないのも合間って目視で本棚の終わりが解らない。
おまけに肩腰が痛くて、頭も大怪我してて体中ぼろぼろだ。

・・つまり、この中から倒れた本棚を探すには手間がかかる。
あまり長く動くわけにもいかない。

手がかりは、遠くで倒れる音がした、というのだから
かなり遠くで間違いないだろう。

方向はわからないそうだ。

先ほどあった司書さんみたいな
悪魔(?)の羽を付けた人も一緒に探してくれるそうだ。


・・よし、手分けをしよう。

「あの、俺は一階を探すのであなたは
 二階を探してくれませんか?」

「そうですね、わかりました。お願いしますね。」

突然の提案にもかかわらず彼女は特に面食らった様子も無く
その案を飲み込み、嫌な顔一つせず受け入れた。
そしてはしごを上って向こうへ走り出した。

・・頭いいなあ、この人・・しかもいい人だし。
仮にもさっきあったばっかりの他人なのに。
とりあえずここの人は優しい人が多い気がする。

・・あのメイドさんだって、
極力怪我を負わせずに追い返そうとしてたし。

美鈴さんは満身創痍の俺を助けてくれた。
門番という職務より見知らぬ他人の命を優先した。
そこに案内までしてくれた。
中々できることじゃない。

あのブロンドの子は・・・うん、まだ幼かっただけ。
命の危険と恐怖を最大まで感じたけどそうに違いない。

レミリアさんも・・幼いだけだ。
でもあの口調と尊大な雰囲気は
長く生きている者特有のものだったけど・・。


・・さ、さあ、気を取り直していこう!


俺は一階を探すことにしたので、気持ち早歩きで
右側の列に向かった。


歩くことしばし。

・・いくら歩いても似たような本がいっぱいある。
本棚の中身も同じものに見えてきた。
まさかこれだけの量の本を読んでいるのだろうか。

・・だとしたら恐ろし・・・あれ?

歩きながら本棚を流し見しているとある本棚が目に付いた。

・・この本棚は本が所々欠けている。
・・良く見るとこの本棚だけじゃない。
他の本棚を見てみるとそこも所々欠けていた。

・・これはどういうことだろう・・。

しばらく本が一部無い本棚が続いた。
・・そして正面を向いた瞬間、その訳がわかった。

・・俺の視線の先、
5mほど先に俺と同い年くらいの少女が本棚を見ていた。
典型的な魔法使いの様なモノクロ衣装に帽子。髪はブロンド。
・・またコスプレの人?多いなあ。

・・そして、何よりも目に付いたもの。

・・そう、彼女の横にはサンタの持つあれの如く
大きな袋があったのだ。中身は本だろう。

・・ここから読み取れることは一つ。
・・泥棒・・・か・・?

そのブロンドの子は本棚から目を離すと、向き直った。
そしてこちらと目が合った。


「おわ、誰だお前は?」
「あー、ただの人間です。」

そのブロンドの子は一瞬動揺したが、すぐ元の表情に戻った。

気になったことを聞いてみることにした。

「その袋の中の本は?」
「お、これか。パチュリーにただ借りてるだけだぜ。」

・・なるほど、パチュリーさんの友人か。
という事は、目の前の少女は
普通のコスプレイヤーか魔法使いか。


その少女は更に付け足した。

「・・借入期限は永遠だがな。」

撤回します。彼女は泥棒の類でした。


「・・泥棒、よくないと思いません?」
「いいんだよ、任意の上なんだから。」

そんな任意があるか。

しばしのにらみ合い。

窃盗犯VS不法侵入犯の視線での戦い。

・・しかし、その戦いは長くは続かなかった。

「・・お、そうだ、お前がパチュリーに用があるなら
 早くしとくといいぜ。」

「え?何でですか?」

「向こうで本に埋もれてたぞ。何か見てて面白いから
 放っといたけどな・・っておい?何処行くんだ!?」

俺は彼女が指差した方向に走り出していた。
頭がぐわんぐわんするが関係ない。


・・しばらく走っていくと、向こうに倒れた本棚と
大きな本の山があった。



・・あれか・・!



つづけ