東方幻想今日紀 五十三話  洋館にて、結果オーライ

「・・んっ・・・。」

・・綺麗なタイル詰めの天井・・?
視界の先にはレースカーテン。さっきの門番さんの顔。
どこかで見たような紺の髪の少女。背中には翼。

どうやら俺は何故か豪華なベッドの上で寝かされていたようだ。

「気付きましたか?」
「・・あら、生きてたのね。」

俺はどこか見覚えのある部屋にいた。
赤い装飾が凝っていて・・おしゃれ・・・。

・・はっ、俺・・・生きてる!?
そして・・ここは?
確認しようとして上体を起こそうとすると激痛が奔った。
頭を触ってみると布の感触があった。包帯か。

「いたたっ・・・!」
「あ、まだ起き上がらないでください!
 少し・・寝たままで話してください。」

門番さんが心配しているような諭すような口調で言う。

「・・はい。」

門番さんの横にいるナイトキャップ子は誰だろう?
さっき俺を葬ろうとした子と似た服装なんだけど。


「ふふっ、彼ね。その果敢に立ち向かってきたのは。
 面白い奴ね。人間の癖に・・・美鈴に挑むなんて。」

それがただの雑魚と来たのだから笑えるわ、
とその子は言葉を切った。

恥ずかしくて何も言えない。
現に命を助けられて、動けない挙句、
本当の事を言われているのだから。

俺が俯いているとそのナイトキャップの子は更に続けた。

「・・そう、本来なら貴方は侵入者ね。紅茶にしてたわ。
 でも、そこまで必死にして私に会いたがるなんて・・・
 私も興味が湧いたわ。貴方を客として招待するわ。
 私の名前はレミリア・スカーレット。ここの主なの。
 さっき貴方が戦ったのは紅 美鈴。
 ようこそ、紅魔館へ。さあ、貴方も自己紹介してくれる?」

・・結果オーライだったのか・・・。
現にこうして紅魔館の主に会えた。
誰のおかげか?おそらくそれは・・・他でもない門番さんだ。

戦った相手に・・情けをかけるどころか助けてくれた。
その情けを利用した形になってしまった。
いや、利用しようとしていた。・・・焦っていたとはいえ。
自分が恥ずかしい。
そして、門番さんありがとう。後でたっぷりお礼がしたいです。


そして・・・もう一つ。

この子供が紅魔館の・・主!?

・・まだ子供じゃないか。

でも、なんとなくわかる気もする。
言葉の端々に気高さ、気品や威圧のようなものを感じる。

・・この子供は只者ではない。子供ではない気もする。
・・いや、レミリアさん・・か。

「・・ねえ、自己紹介してってば。」
「ああっ、はい、すみません!今します!」

レミリアさんが不満げな目でそれを訴えた。
またやってしまった。考えると回りがわからなくなる癖。

ここに来る前はそんなの無かったのに・・・。

「えー・・自分はリアって言います!
 ここに来て一ヶ月の外来人です。
 特技はどんなボケでも突っ込めるところです!」

・・よし、これでボケがくれば
すかさず俺が突っ込んで打ち解けられるはず・・

「ふうん。で、用事は?」

・・・まさかのスルー。
あれだな?これもボケなんですね!?
スルーする放っときボケという斬新なボケなんですね!?

突っ込む勇気も突っ込み方も知らないから
普通に答えることにしました。チキン?無理だよこんなの。
チキン南蛮でも無理だよ。・・何考えてるんだ俺。アホか。

さて・・・真剣になって頭を切り替えよう・・。
深呼吸をして、俺は言葉を継げた。

「チキン南ば・・いえ、実はここに来てから
 だんだんと妖怪になっているらしく・・。
 どうすれば治るのか・・・という事なのです。
 運命を変えていただきたいのです。・・その能力で。」

「チキ・・・何?」
「それは忘れてください。意味はありません。」

やばい。変なこと考えてるからこんな事になったんだ。
もう一度説明した。

「・・ふうん。無理ね。」
「・・どうしてですか?」

レミリアさんは無碍に突き放した。
彼女は嘆息してこう言った。

「運命なんて簡単に変えられるはずが無い。
 私の能力はそんなに単純じゃないの。
 それに原因がわからなければ治しようが無い。
 私は凄腕のお医者さんじゃないの。
 ・・で、他に用は?」

テンポ良く言われたその言葉。
彼女は淡々と答えた。
説得力があって・・・。
これ以上追求できない空気になった。

口をつぐむしかなかった。

・・でも、メインはこっちの用じゃない。

「・・俺の友人が・・不可解なことになっているのです。」
「・・不可解・・・?」

俺は命蓮さんの全てのいきさつを話した。あの刻印も。
そして、異形の怪物が出るという異変の事も。

しかし、彼女の反応は変わらなかった。

「それこそ私の知ったことじゃない。
 私にそんな事を言われても困るわ。」

レミリアさんは冷たく言い放つ。

「そんな・・・どうしても・・・
 何か解りそうな事は無いんですか・・?」

ここで・・何もわからないまま終わったら無駄になる。
命蓮さんも手遅れになるかもしれない。

そんなのは・・嫌だ・・・。

・・・涙が出そうだった。


そんな俺の様子から察したのか、
付け足すように彼女は言った。

今度は、少し優しい声調で。

「・・この下の階の図書館に知識の塊がいる。
 私の友人なの。そこで訊いてみれば何か解るかも知れない。」

「ほ、本当ですかっ!!?」
「うっ・・・早く行きなさい。
 満面の笑みを浮かべないで・・。ほら早く!」

やった・・・!!
もしかしたらその人に聞けば・・!!

「じゃあ、私が案内しますね!
 ・・あ、でも体・・・大丈夫ですか?」

美鈴さんが嬉しい提案した。
勿論・・・お言葉に甘えさせてもらう。
案内されついでにまずお礼を言いたいし。

「大丈夫です!元気ですよ!
 ほら・・・死にはしませんので・・・!!」

「何だかそれもおかしい気もしますが・・・
 じゃあ・・行きますよ、肩貸しますか?」

なんてやさしい人なんだ。・・でも、
肩貸してもらうと今度は失血死しそう・・・。

「大丈夫です!行けますよ!」
「は・・はあ・・・。」

空元気で返事し、ベッドから降りて案内を受けることにした。
・・・体中痛いなあ・・・・。

レミリアさんは後でその様子をほくそ笑みながら見ていた。


つづけ