東方幻想今日紀 五十四話  本、本、本、知識の塊、本、本、本

「ここが大図書館です。では、
 私はこれで失礼しますね!門にいますので!」

大きな扉の前に案内されるなり、
美鈴さんはそそくさと戻ろうとした。

「あ、待ってください!」
「えっ?」

俺には・・言わなきゃいけないことがある。

呼び止められた美鈴さんは困惑していた。
何を言われるんだろうかと言いたげな目。

もちろん・・・心配されることはしない。

「今日はありがとうございました!」
大きく頭を下げて、一礼。
かなり大きな声だったようで、廊下に響いた。


「えっと・・どういたしまして?」

美鈴さんは困惑しながらお礼を受け取った。

・・やっぱりこの人は優しい。しかも自然体だ。
相手が敵でも、できるだけ傷付かないようにして追い返す。

平和主義者なのだろう。この人は。

しかも助けてもくれた。
手当てまでしてくれた。
これを一言で表すにはやっぱりこれしかない。


ありがとう。美鈴さん。


「・・あ、仕事の邪魔してすみません!
 では、訊いてきますね!」

「いえ、いいんですよ。そちらこそ頑張ってくださいね!」


美鈴さんは廊下の向こう、入り口の方に戻っていった。

・・これで胸の支えが少し取れた。
・・ただ、まだ事態は何も解決してはいない。
満身創痍に近い状態になっただけだ。


でも、ここの図書館にいる人に聞けば・・
もしかしたら何かわかるかもしれない。
知識の塊って言うくらいだし。

・・緊張の面持ちで扉に手をかけた。

大きな横引きの扉は重く、両手で開けることになった。

「おじゃましまーす・・・うっ。」

中に入るとカビの嫌なにおいが鼻に付いた。
うえ、きっつ・・・。


・・よし、少し慣れてきた。
深呼吸・・・は無理だけど少し周りを見回す。

・・本棚だ。大量の本、本、本。

それも尋常な量ではない。
本棚が並べられているのだが、向こう側が見えない。
全部で何万、何十万冊あるかわからない。

思わず最寄りの本棚から一冊取って目にしていた。

・・・しかし、タイトルらしき文字が読めない。
中を開けて読んでも同じ。見てもわからない。
見たことのない文字だ。
・・この本は一体・・・・?

「・・誰ですか?」
「うわ!?」

後からはっきりとした高い声。

・・振り返ると赤い長髪のお姉さんがいた。
白ワイシャツに黒のワンピースのツートーンの服装。
ポケットには眼鏡。
そして・・・何よりも大きな特徴は・・。

・・黒い悪魔の羽だった。
頭に小さいのが二つ付いている。

・・この人は・・悪魔?
レミリアさんが言ってた知識の塊だろうか。

・・だとしたら早く状況を説明して誤解を解かなきゃ!
泥棒だと思われたらえらいことだ。

「初めまして、リアって言います。
 この本が珍しいから手に取って見ちゃいました!
 あなたに用があるんです、聞いて欲しいんですが・・。」

・・ふう、一息で言い切った。

「え・・私に・・ですか?私でよければ・・・・」
「本当ですか!?ありがとうございます!」

やった!話がこうも上手くいくとは!
・・もしかしたら良い情報が聞けるかも・・!

俺は嬉しくなってこれまでのいきさつ、状況、調子に乗って
果ては美鈴さんとの死闘を面白おかしく話したりした。
そして、勿論用件の異変と刻印の話もした。

・・話し終えたときの彼女の顔は苦笑いだった。

「・・・えっと・・どうですか?」
「・・そうですねー・・・。
 こういう事はパチュリー様のほうが良くわかるのでは・・?」

「・・パチュリー?誰ですか?」
「ここの図書館の主で、体が弱くて、それでいて
 凄い知識量を持ち合わせているんですよ。
 動かない大図書館、と呼ばれているんです。」

・・・。

「・・・あ・・はあ・・・。」
「・・どうしましたか?目が泳いでいますよ?」


・・やばい。人違いか・・・・っ!!


「・・ごめんなさい、人違いでした。
 俺が用があるのはそのパチュリーさんです。」

「あはは、やっぱりそうなんですか。
 私に用があるなんておかしいなと・・・。」

彼女が苦笑いだったのはそういう訳だったのか。
・・いやあ、泣けてきますよ。

「えっと・・何処にいますか?
 そのパチュリーさんとやらは・・。」

「・・一緒に探しませんか?」

え?探す?何で?

「・・どういうことですか?」
「・・多分、遠くで本棚が倒れる音がしたので・・
 また本に埋もれてるんだと思います。」

屈託の無い笑顔で彼女は言う。

ちょくちょく本に埋もれるって・・・
どういう人なんだパチュリーさんって・・・。

「では、どこかに倒れている本棚があるので、
 一緒にそれを探しましょう。お願いしていいですか?」

「・・え、ええ・・・。」




・・という訳で、俺はその人のレスキュ−に回る羽目になった。




つづけ