東方幻想今日紀 五十話  とんぼ返り

湯飲みを戸棚に戻した後、客間へ戻った。

客間にはやはり命蓮さんがいて、
さっきとは違う本を読んでいた。
どうやら純文学のようだ。

一瞬でも官能小説とかだったら面白いな、
とか思っていた自分が恥ずかしい。そういえば高僧だったね。


「おかえりなさい。誰でした?」
「ええ、博麗の巫女さんです。」

そう告げると命蓮さんは感慨深そうな顔をした。

「・・・ふむ、その巫女の名前は知ってますか?」
「ええ、霊夢・・・というそうです。確か。」

「何代目なんでしょうね・・・一体・・。
 恐らく・・・僕が前に生きていた頃より
 30代は後でしょうね・・・。」

どこか遠い目をして言う命蓮さんの目はとても物悲しげだった。
1000余年の失った月日を噛みしめているのだろうか・・。


「どんな用件でしたか?その巫女は・・・。」

「・・ええ、何でも最近この辺りに今までいなかった
 異形の怪物が出るそうで・・。
 唐獅子もそのうちの一つみたいなのです。」

「・・・あれもそうだったんですか・・。
 どうにかして原因でも探れればいいんですけれどね・・。」


命蓮さんはいぶかしげそうな表情のまま崩さない。

「・・大丈夫です。必ず・・俺が何とかします。
 その腕の刻印も、その異変も俺が解決します。」

「え・・・?」

命蓮さんが軽く唖然としていた。
自分でもびっくりした。 
何も根拠も無いのに自信に溢れた声で、
まるで何かの展望があるかのようにその言葉を告げたのだから。



操られたかのように。



急いで撤回しようと思った。・・でも。


・・でも、そんな気持ちも勿論ある。

何とかしたい。いや、何とかする。
ただ待つのではなく、自分から行動を起こす。
この世界で何が出来るのか。
何かが出来るからここに来たのだとしたら。
俺はそれをして元の世界に戻ればいい。

妖怪になる前に。

・・少し遅れて、先の発言と思考が一致した。
撤回の必要は無い。決意したのだから。

情報を集めて、できることをして笑顔で帰ろう。
家族や友人と再会するんだ。
この世界での思い出を持ち帰る。




「・・リアさん・・。」




・・・さて。
今やれることは・・・。


「情報を集めに行ってきます!!」
「え?ちょっとリアさんっ!?」


命蓮さんの呼び止める声がしたような気がするけど関係ない。
いまは自分の信じることをするのみだ!

俺は客間を飛び出した。





・・というわけでっ!
またやって参りました紅魔館!

いやあまだ傷口が完治してないんですよ・・・。

・・しかし、さっきは門を開ける人を無視して
裏口から不法侵入したのがいけなかったんだ!

考えてみると馬鹿馬鹿しいね!
門を開ける人を起こせば良かったんだよ!!


・・・さて、ほとぼりの冷めやらぬまま、門の前に着きました。

いましたいました。門の前で立ったまま寝ています。
中国服で背丈が高くて、赤髪ロングで胸の大きい人だ。

・・ところで、何で立ったまま寝れるんだろうか。
・・早く話しかけて開けてもらおう。


「すみませーん・・!」

俺が話しかけるとその中華服の人はすぐに目を開けた。


「・・?何か用でしょうか?」

怪訝そうな顔をしている。寝起きだからだろうか。


「門を開けてくれませんか?」
「はあ、お嬢様に用ですか?」

・・誰?お嬢様・・?

「・・会いたいのは紅魔館の主なんです。」
「・・帰ってくれませんか?あなたは通せません。」

あれ、話がかみ合っていないぞ?


「え・・・あなたは門を開けてくれる人なんじゃないですか?」
「そんなわけ無いじゃないですか。私は門番です。」

その赤髪の女性はきっぱりと次々に間を持たずに返してくる。

あ、門番だったのね。
てっきり博物館的な場所の受付みたいな人かと思ってたよ。


「・・どうしたら、通してくれますか?」
「・・・私が、門番ということを考えて下さい。」

淡々とした問答は、ここで終わりとなる。


・・そう、俺は数時間後にこの事を振り返り、思ったのだ。




ーーーああ、急ぎ過ぎていて判断能力が無かったとーーー


何故なら、笑顔で次に発した言葉が、これだったからだ。


「・・じゃあ、あなたを倒せば通してもらえますね?」


門番は笑みを浮かべた。



つづけ