東方幻想今日紀 四十九話  断られると燃える

「・・あ、あんたここの人でしょ?」
「ええ、そうですけど・・・。」

その玄関にいる紅白衣装の巫女さん(?)に近寄ると
彼女はやはりぶっきらぼうな口調で訊いて来た。

良く見ると巫女(?)衣装なのに腋を出している。
しかもフリルだらけだ。
・・何というか・・・マニアックな・・・格好ですな・・。

そういうのは好きじゃないから食指は動かないけどね。

・・しかし、コスプレだということは良く解った。
ああ、現代的な人がこの世界にもいるとは。
何だか感動的だ。


「一つ訊きたい事があるんだけどいい?」
「えーと、名乗ってもらっていいですか?
 何者かわからないとどうも・・・。」

俺がそう言うと彼女は軽く眉を動かした。

「・・自分から名乗るのが礼儀でしょ?」

「いきなり上がり込んできて敬語も使わない人に
 礼儀云々を言われる筋合いは無いです。」

「「・・・」」(睨み合い)

コスプレの人(断定)と沈黙が続く。
空気が険悪だ。あれ、なんでこんな事に?


少しすると、巫女服の人が嘆息して、

「・・博麗 霊夢。博麗の巫女よ。」
「・・博・・・え?今なんて?」

俺が聞き返すと彼女は少し苛立った口調で返した。

「博麗の巫女!耳でも遠いの?はるばる来たの!」
「・・・え、博麗の巫女・・さん・・ですか!?」

「・・そう、何よ、目を丸くして・・・
 そんなのただの肩書きじゃない。こっちは用があるの。」

博麗の巫女・・。
そう、噂には聞いていた。
ここの人や、ここに来る前にも話は聞いた。
この幻想郷には異変を解決する専門家がいる。
魑魅魍魎をももろともしない強さ。
数々の異変を残らず解決してきた百戦錬磨の戦鬼。

それが、博麗神社の現在の巫女だと聞いた。
その名も博麗霊夢

・・そして、怒らせると死なざるを得ないと聞いていた人だ。
あれ・・・俺はもしかしてその人に喧嘩売ってた?


・・・また命の危険が来ています。しにとうないです。

「俺はまだ命が惜しいです・・・見逃してください・・・。」

「は?何訳の解らないことを言ってるのよ。
 こっちは聞きたいことがあるだけなんだけど・・。」


そうだ。そう言っていたな。用件は何だろう。
もしかしたら用件を聞いたら死なずに済むかもしれない。

「・・え、ええ・・上がってください・・・。」
「・・はあ・・大丈夫あんた?足震えてるけど・・。」

「・・用件さえ聞けば満足なんですよね・・・ふふふっ。」
「うわ・・気持ち悪・・・どうしたの急に・・?」


恐怖でおかしくなりながら広間に案内する。

広間には誰もいなかったのでお茶を用意することにした。
急須を持つ手が震える。畜生・・・とまれ恐怖っ・・!!

やっとの思いでお茶を注いだら
後から巫女さんが声を掛けてきた。

「ねえ、何を勘違いしてるのか知らないけど、
 私はあんたに危害を加える気なんか無いからね?」
「・・え?」

「・・えじゃない。そのお茶を持って早く座って。」
「・・え、ええ・・。」

・・もしかしたら怖い人ではないのかも知れない。
ちょっと図々しいけど。


お茶を持って巫女さんの前に置く。
巫女さんは座布団を自分で出して座っていた。
二枚重ねで。ちょっと・・・図々しいよなあ・・。
俺も自分の分を出して向かい合うように座った。


「・・で、話があるんだけど・・・。」

巫女さんがお茶を飲みながら切り出した。

「・・なんですか?話って・・・。」
こちらも軽くお茶をすすりながら聞く。

「・・ねえ、この辺に異様な怪物が出たりはしなかった?
 最近、どうやらそんなのが出てきてるらしくて・・・
 それを原因を突き止めて欲しいって
 連日神社に依頼してくる人がうるさくって・・・。
 ・・・はあ、冗談じゃないわ。」

巫女さんが半ば愚痴のようにまくし立てた。
・・異形の化け物・・・・あ。

「・・唐獅子って・・・それに含まれますか?」
「えっ、そんなのが出たの・・?どんなの?大きさは?」

問い詰められた俺は唐獅子が旅館の中で襲ってきたこと、
俺は満身創痍になり、命蓮さんは腕に怪我をし、
そしてその腕には不可解な数字の刻印が
刻まれていたことなど、すべての事を話した。

巫女さんはそれを訊くと少し眉根を寄せた。

「・・はあ、面倒くさいなあ・・・。
 ここでもそんなのあるって事がわかったし・・・
 今回ばかりは私の勘もさえないし・・ああ、やだなあ・・。」

彼女にも色々ストレスがあるようだ。
異変解決の使命を背負っているのだからしょうがない・・のか?

・・さっきまでぶっきらぼうな印象だったり
恐怖の対象だったりしたが、今は違う。

俺は気が付くと少しでも助けになってあげられないか
頭の中で手段を模索していた。


「何か・・手伝えることはありませんか?」
「は?いや、いいわよ。一人でやる。」

巫女さんは一瞬目を丸くしたが、すぐに戻った。

「一人より二人の方が効率がいいでしょう?」
「邪魔が増えたら効率が悪くなるに決まってるじゃない。」

すげなく却下された。畜生。

少しして、巫女さんが空の湯飲みを差し出してきた。

「ありがと。お茶おいしかったわ。じゃあ私はこれで帰る。」
「あ、はい・・」


彼女は俺に湯飲みを渡すとそそくさと玄関から出て行った。
忙しいのか、長居したくなかったのか。
前者であって欲しいものだ。


・・さて、湯飲みを洗うか。


俺はぼんやりしながら台所で湯飲みを洗いながら
さっきの内容を反芻していた。

・・そう、異形の怪物が現れる現象は
巫女さんが言うには各地で起きているとの事。



本人が言っていた、彼我さんの仕業だろうか。

・・・そうだとしたら、何のために?
あの数字も・・彼女の仕業なのか?

もしかしたら妖怪化も・・・。

・・だとしたら、何とかしてくれるように言うだけだ。


それに、まだ時間はある。
焦る必要は何も無いんだ。

そう自分に言い聞かせて、
俺は洗い終わった湯飲みを戸棚にそっと戻した。


つづけ