東方幻想今日紀 四十八話  背中にガラス片が刺さったところで痛くないよね

「ただいまー。」
「お疲れ様です。どうでした?」

青い頭巾がチャームポイントの一輪さんが
広間でお茶を飲んでいた。

一輪さんにもすべて伝えてある。彼我さん以外のことだが。
彼女とは既に打ち解けており、タメ口で話せる仲だ。
彼女は敬語の方が落ち着くらしいが。寅丸さんと一緒だ。

「・・・怪我もらってきた。」
「・・・そうですか、それは何よりです。
 さあ怪我したところを見せて下さい。」

そう言って一輪さんは救急箱を棚から取り出した。

「背中を・・ちょっと・・・・。」
「え・・・うわ、何してるんですか!」

背中に回りこんだ一輪さんが仰天していた。
まあ、大き目の破片だししょうがない。
・・でも、やっぱりあまり痛くない。
以前よりも随分と痛みに鈍感になった気がする。

・・妖怪化・・しているから・・・?
でも肉体は人間のままらしいから
自覚無しに死ぬことに注意してほしい、との事だった。

・・・って、うっ・・。

「・・あー、やっぱりひどい出血ですね・・。」
「それはガラス片抜いたからだと思う・・・。」

一輪さんがおもむろに背中のガラス片を抜いて
布で拭いている。これ普通だったら叫ぶほど痛いはずだけど。


「・・ところで、命蓮さんはどうですか?」
「・・ええ、さっき目を覚ましましたよ。」
「本当っ!?」

それは大変だ!早く様子を見に行こう!
朝出たときはずっと目が閉じっぱなしだったから
ずっと気がかりだったんだ。

「あ、まだ動いちゃ駄目ですってば!止血してません!」
「・・はーい・・。」

一輪さんに止められた。

・・仕方ないのでおとなしく止血させてもらった。
別にたいした事はないし、急ぐことでもないし・・。

「・・命蓮は元気です・・・が、気になることがあるのです。」
「よかった・・・ん?気になることって?」

俺が訊くと一輪さんは手を動かしつつ溜め息をついた。

「・・咬まれた腕、どういう訳か刻印が付いていました。
 そして、漢数字で六と打たれています。・・・不思議です。」

刻印・・数字・・?
俺が首をかしげていると一輪さんは手を止めた。

「・・はい、終わりました。行ってあげて見てください。
 その目で確認した方が口で言うより良いでしょう。」

「ありがとう一輪さんっ!!」

俺はすぐに立ち上がり、広間を後にした。





「命蓮さんっ!!」

「はいぃっ!!」

思い切り客間の扉を開け放したら目の前に命蓮さんがいた。
・・そして物凄くびっくりされた。
・・やばい、悪いことしたなあ・・・・。

彼は起きて本を読んでいた。「風土紀」と記された本をだ。

「よかったあ・・・元気で・・」
「あはは、心配掛けて申し訳ありません。」

命蓮さんが照れ笑いをした。
・・あ、そうだ、腕。

「腕・・・見せてください。」
「・・はい。」

俺の言葉を受けて、命蓮さんは腕をまくった。

「!!」

・・そこには紛れも無い、黒い刻印で「六」とあった。


・・そこまではいい。聞いた通りだ。
問題は・・・


「え?どうしたんですか?そんな怖い顔をして・・。
 ・・?その刀をどうするつもりですか・・・・?」

・・・やっぱりだ。
字体がこの刀に押されている刻印と同じなんだ。
道理でどこかで見たことがあると思った。

・・だが、やはり解らない。
元々その刀の刻印もわからないのだから当たり前だが。

それにしても、この「六」とは何だろうか。
・・・一日ごとに数字が減っていく・・とか?
そしてその数字が〇になった時・・何かが起こるのだろうか。

・・まるで時限爆弾か何かのように。

そう考えると執拗に唐獅子が一人を狙っていたのも頷ける。
全体に影響を及ぼすのなら一人でいいのだ。

あくまでも推測の域を出ないが。


・・・何か・・大きな事が起ころうとしているような・・・
そんな嫌な予感がする。

・・気のせいかな。


「・・リアさん!?」
「・・・あ、はい。」

ちょっと命蓮さんが疲れた顔をしていた。
・・・ああ、またやってしまった。
きっと何度も呼んでいたのだろう。

「考えすぎは良くないですよ・・?僕は大丈夫です。
 きっとこの数字にも・・意味は無いでしょうし・・。」
「・・あはは、そうですよね・・・。」

考えすぎてもしょうがない・・よね。
現に何もわからなければ何も出来ない訳だし。
それに数字だって減るとは限らない。無関係かも。

もしかしたら唐獅子がプレゼントした
おしゃれなのかもしれないし(無理矢理)。


そんな、くだらない冗談を頭に浮かべたその時。





「ねえー、だれかいるー?」


カラカラという音と共に
玄関から高めのぶっきらぼうな印象の声がした。

・・お客さんか、誰だろう。


「・・・ちょっと出てきますね。お客なので。」
「はい。いってらっしゃい。」


そんな言葉を残して、俺はいそいそと客間の引き戸を開けた。





客間を出て廊下から玄関の方に目をやると、
そこには紅白衣装の巫女さんがいた。


・・・何の用だろう・・・。


・・俺は玄関で腕を組んで周りを見回してる
その巫女さんに歩みを進めた。



つづけ