東方幻想今日紀 四十七話  突撃!遠方の紅魔館

妖怪になりかけている。
シャクナゲさんにそう告げられた。

その言葉は、もう帰れない恐れがある事を意味していた。

あまりにも衝撃的で残酷な言葉に、
最初は頭が付いていかなかった。


落ち着きを取り戻した後、どうしてそう判断したか尋ねた。

死ぬ程の体の損傷があっても痛みが無く、
しかも飛んだり跳ねたりできる。
だが、痛みを司る頭頂葉は無事。
運動能力を司る前頭葉は完全に破壊されている。

・・・これを、妖怪化する初期段階として
脳が変化していると考えると全て矛盾は無いとの事だ。

事実、自分も深く納得した。
もちろん、完全に変化するのは大分先らしい。
しかし、脳が完全に変化したら
元いた所の記憶が無くなる恐れもある。
環境に適応した際に要らない情報は捨てる。その作業だ。


・・・じゃあ、どうするか。


この残酷な運命を変えるにはどうすればいいのか。


ショックで錯乱していたのか、子供らしい安直な考えで
運命そのものを変えられないかと考えた。


翌日、駄目もとで慧音先生に訊いてみた。寺子屋は休みだ。

しかし、彼女の口から返ってきた言葉は予想外なものだった。


・・紅魔館の主はその能力を有している、と。



という訳で、今俺は紅魔館に来ています。
外装は名の通り紅い洋館。不穏な空気がする。

正門から入ろうとしたけど、
門を開けてくれる人が寝ていたから裏庭から失礼しました。



うわあ・・庭広いなあ・・・。
・・・ん?待てよ。これって家宅侵入なのでは・・?

場合が場合だからあれだけど良く考えたら
・・・うん、住居侵入だよな・・・。

いやでも幻想郷に警察は無いし、
後で謝るか、しらばっくれればいい。


・・一刻を争うわけだし、いいよね。
・・・今考えると門開ける人起こせばよかったかも。

そんな事を考えつつ、ゆっくりと窓を開けた。

・・よし、誰もいない。
・・いや違う!誰か探そう!コソドロじゃ無いんだし!


しかし広い部屋だ・・誰かいないかな・・。

ヒュヒュッ カカッ

「うわわ・・わわわっ!!?」

壁伝いに歩いていると死角からナイフが二本飛んできた。
そのナイフは短い音を立てて両側の頬を掠めて壁に刺さった。
・・・映画で良く見る光景だ。・・・・あ、危ない・・。

身動きできない。頬からは一筋の血が滴った。

「・・・あらあら、白昼堂々忍び込むなんて、
 いい度胸じゃない?・・・コソドロさん。」

やばい。・・・・殺される・・・。
額から冷や汗が出てきた。

そこにいたのは、銀髪のメイドさん
髪を三つ編みにしている。
・・恐らくナイフを投げた張本人だ。
見た目とは裏腹に危なっかしい。

「さて・・・早急に出て行ってもらおうかしら。」

そう言った瞬間、銀髪のメイドさんの手からナイフが出てきた。
「!!?」

あのナイフは何処から出した・・!?
まるで取り出す動作が無かった。
・・・まさか。

やっぱりだ。顔の左右に刺さっていたナイフが消えていた。
・・・瞬間的に物を動かせる・・・とか・・?

「ほら、ぼやっとしていない。さっさと立ち去る。
 ・・・・今度は当てるわよ・・・?」(ヒュッ)(カッ)

そう言いながらメイドさんは視界の外にある
絵画のおじさんの心臓の部分にナイフを的確に当てた。


・・・ここは危険だ。そうとしか考えられなかった。
完全に用件なんか頭から消えていた。


・・・その時だ。扉を開ける音が前でしたのは。


「ねえ、咲夜、この人誰?」

中に入ってきたのは薄いブロンドの髪の背の小さい女の子。
まだ子供で、ナイトキャップ
背中には七色のクリスタルが付いた羽。
・・・その神秘的な羽に目が釘付けになった。

「・・お客様です。妹様、あとで遊んであげますから
 今は部屋からお引取りください。」

さっきとはうって変わってお客だと言った。・・え?
・・ひどい接待があったもんだ。

「いや、さっき殺そうとしてたじゃないですか・・・。」
「っ・・・・。」

メイドさんがこっちを軽く睨む。え?俺何かした?

「・・・咲夜、この人お客さんだよね?
 ・・だったら、私がこの人と遊んでもいい?」

「いけません、妹様。お嬢様と遊んでて下さい。」

・・何だか雲行きが怪しい。
あれ、メイドさんは追い出さなくていいの?

「・・いいもん、私が勝手に遊ぶから・・。」
ブロンドの子はそう言って、両手を大きく開いた。

「妹様っ・・!?・・やぁーっ!!」
「ちょっ・・待っ・・!?」

その瞬間、メイドさんに思い切り襟首を掴まれて投げられた。
モロに体ごとガラス窓に直撃、そのまま外に放り出された。

派手にガラスが割れる音が印象深かった。


ガラスの破片が背中に一枚刺さった。
鋭い痛みが背中に奔る。・・いてて・・・。


うつ伏せになりながらさっきいた室内を見た。
・・・想像していなかった光景に戦慄した。

・・そう、俺がさっきいた場所は床ごと消えていたのだ。
そして、メイドさんがブロンドの子を叱っていた。

・・あの短い時間に、何があったのか。


・・ただ一つ解ったのは、
俺はあのメイドさんに命を助けられたということだ。
・・それも、一か八かで。


・・来るにしても出直したほうがいい事を悟った。

幸い、刺さったガラス片は小さかったので、
大した事にはならなそうだ。


おぼつかない足で、俺は紅魔館を後にした。






つづけ