番外編  雪見そばのしみは頑固

※この小説はジウさん(yuutakatouさん)とのコラボです。
同じ題材で違う小説を作る形になっております。
テーマは「お祭り」です。
ジウさんも同じテーマで書く予定なので
そちらも興味があれば覗いてみてください。





雪祭り・・・・ですか?」
「そう、雪祭りだ。」

何を言っているんだこいつは。
雪祭りは日本の雪国の行事じゃないか。
日本を馬鹿にしているのか。いや、ここも日本らしいけど。

「・・・雪祭りって、あの・・?」
「・・・”あの”が何を指しているのか解らないが、それだ。」

「・・・要は雪祭り・・・って事・・?」
「要さなくても、雪祭り雪祭りだ。」

・・・・。

「ああもう!!ややこしいなっ!!」

「君が自分でややこしくしているんだろうっ!?
 頭の中で整理しろ!雪祭りが今日あるんだ!
 君は行くのか行かないのか?それを聞きたいだけだ!」

やばい。何故かナズーリンがご立腹だ。

「・・・寝る。」
「顔を洗って来い。寝起きで訊いた私が馬鹿だった。」


「はーい。・・・・ぐぅ・・・。」
そうは言っても・・・眠いもんは眠い・・・。

「・・・起・・・き・・・ろっ・・・!」
「いたたたたたたっ!!やめっ・・・!」

頬を思い切りつねり上げられた。痛い。
このネズミは頬をつねるのが好きだな!

そんな不毛なやり取りをすること数分。
しばらくして、俺は洗面器で顔を洗う事にした。

頬が少し痛むが、目が覚めた。
・・・さて、本題だ。

客間に戻ってナズーリンに話を聞く。

どうやらこの近くで大きなイベントで雪祭りがあるそうだ。
内容を訊いてみると、雪像を作ったりするのは勿論、
雪合戦の大会も行われる大きなものだった。
雪合戦はメインイベントらしく、大掛かりだ。

しかも、その雪合戦は力量の調整が行われるそうで、
中々フェアに出来るらしい。面白いな。

勿論二つ返事で行くことを決めた。




移動中・・。


・・うう、寒いなあ。珍しく大雪だし・・。
そんな中、ナズーリン達の話が耳に入った。

「しかし・・今年は優勝できるかな・・。」
「大丈夫でしょ。あんたは避けるの上手いんだし・・。
 私なんか作るのが早いだけだよ?」
「待ってください。作るのが早いのなら
 まだいいじゃないですか。
 私なんか雪の壁を作るだけですよ?」

お前ら投げろ。

しかも寅丸さんに至っては雪の壁作るのかい。
話に聞くと個人戦らしい。よく壁作るまで避けきれるな。

とは言え、自分はさほど肩が良くない。
避けるのは多少自信があるけど・・・・。


そんな事を思いつつ移動すると、
会場になる広場が見えてきた。

ちなみにぬえと小傘と一輪さん、聖姉弟は雪合戦不参加。
先に行ってかまくら雪像などを作って楽しむんだそうだ。

観戦はするらしいけど。


兎にも角にも、自分も勿論エントリーする。
雪合戦は午前中に行われるそうだ。
午後には皆でかまくらとか作る。
鎌倉ではない。ここ重要。幕府開いちゃうよ。

そんな下らない事を一人で考えていたら
五人で雪像を作っている持ち場に着いた。
おお、やってるねえ。

「・・ほう、いい出来じゃないか・・・。」
「・・これ、三十分で作れるの・・?」
「うわ・・すご・・・。」


びっくりした。
そこには2m越えの雪だるまが出来上がっていた。
目はみかんの皮だった。中身は食べたのね。

周りには転がしたと思われる轍がたくさんある。

だが大雪なので雪が無くなる心配は無い。
今も降っている。寒い。

「へへーん、どうだ、お前には到底作れない代物だ。」

ぬえがまるで嘲る様に言う。
・・む。そんな事は無い。
でも俺はそんな挑発には引っかからない。軽く流した。

「まあでも、リア君はこういった作業は苦手そうですよね。」

命蓮さんまでそんな事を。失礼だなあ・・。
まあでもよく言われるし、流・・・

「そうですね。
 リアさんは何か面白い事件を起こしてくれそうですよね。」

一輪さんも何気なく酷い。
まあでも、この位ならよく言われ・・

「みんなやめてよ、リア君に悪気は無いんだよっ?」

「いや、待ってくれみんな。
 どうして俺がここまで言われなきゃならんのですか。」

畜生。小傘はかばってくれたと一瞬でも思った俺が馬鹿だった。

ナズーリン・・・そんな事・・無いよね?」
「・・・ああ。」

頼むから俺の目を見て言って下さい。
こうして気まずそうに目を晒されるのが一番へこむ。

流石の俺もしょげた。
そうか、そんな風に思われてたんだな・・。

・・空が・・白いぜ・・。
・・泣いてなんかいないさ。

一人たそがれていると、ムラサさんが話しかけてきた。

「・・大丈夫、リア君。もうすぐ雪合戦が始まるから・・」
「・・ムラサさん・・・・・。」

それで挽回すればいい、と言ってくれるのだろうか。
ああ、優しいなあ・・・・ムラサさん大好き。

ムラサさんは言葉を続ける。

「始まるから、楽しんで忘れよう?」

「・・・ですよねー。」

ムラサさんがちょっぴり嫌いになった。
何の解決にもなってないよ・・・。

まあいい、忘れよう。それも一理ある。

全員当てて生き残ればいいんだから。
そうしたらみんな見直してくれるし。間違いない。
よっし!頑張ろう!


「・・・そういえば・・何処に行けばいいの?」
会場がわからなきゃ参加が出来ない。

「・・んー、毎回場所が違うからなあ・・・。
 呼び掛けがされるまでは待機だと思う。
 ・・あ、ほら、丙が制御封書を持ってきたよ。」

「せ・・・制御封書・・!?」
何だその怖い響きは。封印・・・?

「あ、そんなリア君が思ってるような物じゃなくて、
 力を均等にする為の物だから。肌に貼るんだよ。」

びっくりした、そういうことか。
要はあのリストバンドの働きをするシールか。

納得していると、丙さんがこちらに話しかけてきた。
左手は握ってある。小さなシールらしい。

「・・ねえ、持って来たよ!はい、これリア君の。」
「あ、どうもです・・・。」

丙さんから受け取ったのは青いシール二枚。
小さい。1cm四方位だ。落したら見つからないな。
手の甲に貼る物らしいので着けてみた。
・・確かに少し腕力が下がった気がする。

ムラサさんを見てみると、
手には赤いシール一枚と青いシール二枚。
どうやら力量によってシールの種類が違うらしい。

寅丸さんはどうだろう。
彼女の手の甲には赤いシールが三枚貼られていた。

ナズーリンを見てみる。
彼女の手の甲には青いシールが三枚。
成る程、何か実力が解って面白いなあ。

・・・そして、迂闊に逆らえないなあ・・・
例えばムラサさんとか寅丸さんとか。

そして、丙さんの手の甲をチラッと見た。
その手には一瞬紫色のものが見えた。・・え。

・・・今度は凝視した。

その手の甲には紫色のシールが七枚、
そして黒いシールが一枚貼ってあった。

・・・何これどの位強い封印なの?
良く見たら黒いシールは赤い模様が入っていた。
他のシールは無地なのに。

「・・・リア君、どうしたの?・・あ、封書か。」
「・・・ええ、まあ・・・・。」

いやあ、世の中って広いなあ。(遠い目)

「・・そういえば丙、何処で行われるかは
 聞いて来たのかい?気になるんだが・・・。」
「ここ。今すぐ始まるって。」

「・・え?ここなのかい?」
「うん。ほら、人が集まってきたでしょ?」

本当だ。良く見たら人が集まりだしてきている。
さっき作ってあった雪だるまも掃けている。

「んじゃ、お前達は頑張れ。
 せいぜい無様な姿を見せるなよ。」
「はっ。私達がそんな真似をするわけが無いだろう。」

ぬえからの激励(?)が聞こえてきた。

少しすると、大きな声で係員さん(?)から
説明があった。良く聞かなきゃ。

「はいーみなさんこんにちーは!!」

ちょっと待て。誰だお前は。日本語をしゃべれ。
拡声器を使っている声だ。口調が胡散臭い。
まあいい、聞き逃すと不便だし、そこは飲み込もう。

「・・・本日は寒い中ありがとうございます。
 この雪合戦は当たったらその場で脱落で・・・」

口調を統一しなさい口調を。
だめだ、突っ込まずにはいられない・・・!!

その後もしばし、口調が胡散臭いのと
真面目なのが交互に入れ替わって説明が続けられた。
笑い出さないように頑張ったが・・・結果はお察し下さい。

説明が終わってからしばらくして、柵が回りに置かれた。
説明どおりに周りとの間隔を一定に空ける。

そして、両手を広げた範囲で雪に丸を書く。
自分を中心とした半径90cmほどの円が出来上がった。

最初はその中から出ずに雪玉を投げ合うそうだ。
成る程。狭い中で避け合い、投げ合うのか。

近くの相手を潰せば危険度は下がる。
しかし、相手もそれは同じだ。

いかに相手にやられずに当てるか。
それが勝負の分かれ目となる。

ルールはある程度事前に聞いていたので、
寅丸さん達とは距離を空けてある。

「では、始めてください!」

始めの合図が掛かった。
・・しかし、誰も雪玉を投げない。
・・最初の三十秒は雪玉で相手を攻撃してはいけないのだ。
つまり、その時間は雪玉を作る時間になる。

雪合戦も、ここまで来るとスポーツだな。
近くに当たったかどうかを見極める人もいるし。

何はともあれ、俺は一心不乱に雪玉を作った。
幸いぼたん雪だったから玉が作りやすい。

「投げ始めてください!」
少しするとそんな合図が掛かった。
自分は十二個作れた。この十二個をどう使うか。
補充している間は無防備になる。
そんな事になったら間違いなく避けきれない。

そう思う間もなく、雪玉が飛んできた。
「あぶっ・・・!」

とっさに体を反らしてかわした。
・・今かすりそうになった・・・。危ない。

その近くの人は一心不乱に投げてきた。
俺を狙っている。しかし、その人は他の方向から
当てられてすぐに退場になった。
そうか。後や横からも来るんだった。忘れてた。

・・幸いまだ飛んできていないけど・・・。
ふと後ろを振り向いた。

「・・あれ?」

振り返るとほとんど人がいなかった。
・・少し遠くでナズーリンが見える。
ずっと投げる様子は無く避けに徹していた。

・・・やった。潰し合ってくれたみたいだ。
え、凄く幸運なんだけど・・。

間もなく、合図の声がまたした。

「参加者が十分の一になった為、
 移動可能範囲を全範囲とします!」

・・・は?十分の一?

・・と言う事は、運良く十人の内の一人に?
ここまで恐らく一分強。
そんな短い間に十分の九は脱落したのか。

この競技の恐ろしさを改めて思い知った。
俺の知ってる人を見回して確認する。
・・・寅丸さんのいた辺りは崩れた雪の壁があった。
本当に作ってたし・・。

ナズーリンは未だに生きている。ずっと避けてたのだろう。

丙さんの周りは殲滅していた。
恐らく一人で避けつつやってのけたのだろう。恐ろしい。

・・っと、じっとしていない方が良い。
近くから雪玉が飛んできた。軽くかわす。
走れる分俺が有利だ。
・・・しかし、そうもいかないらしく、速く走れない。
ああ、シールか・・・。もどかしい。

走りながら避け、適度に投げていると
丙さんが目に入った。

丙さんは避けながら片手で雪玉を素早く補充し、
もう片手で雪玉を砕いて3way弾にして放っていた。

・・・何してんのあの人!?離れ業じゃねえか・・。

どうりで周りの人がどんどんいなくなっていく訳だ。
・・っとあぶなっ!巻き添え食らうところだった。

もう気が付くと辺りは五、六人くらいしかいなかった。
・・え、早くない?

周りを見回す。ナズーリンは脱落していた。
避け切れなかったのだろう。

・・・あ、と言うことは・・・
丙さんを潰せば勝てるんじゃ・・?

丙さんはまだこちらを狙っていない。
じゃあ・・後に回り込めば、いや駄目だ。
丙さんは柵を背にしている!

・・あ。上に投げて放物線で当てれば・・・。
・・よし。気付かれない内に・・。
我ながら名案だ。

思い切り雪玉を斜め上に投げた。・・当たるか?

放物線を描いた雪玉は丙さんの頭上に来ていた。
・・これはっ・・あたるっ!

「うそっ・・・!!?

しかし、丙さんは雪玉を見ずに上に雪玉を投げて相殺した。
雪玉は上空で雪煙となった。

そして丙さんに狙われて当たりました。
まさかの両手で同時投げした6way弾を避けられるはずも無く。

結論。丙さんおかしい。

結果的に俺は三位だったそうだ。
ずっと狙われなかった運の良さの結果だろう。
表彰台に上がった俺を
ナズーリンが少し恨めしそうに見ていたのが気になるが。

無事一大イベントが終わり、ぬえさんたちが作ってる
かまくらの場所に行った。

「お、おつかれさん。三位だって?見直したよ。」

「「偶然だ。」」
ナズーリンとハモった。お前は言うな。
どんだけ悔しかったんだ。

・・かまくらは出来上がっており、
中に入った。
すごいな、かまくらって中は暖かいんだ・・。

命連さんが暖かい雪見そばを皆の分持ってきてくれた。
そばをすすると、疲れも取れてきたような気がした。

まるで、心からあったまるように。

・・何だかんだで、今日は楽しかったな。

偶然とはいえ、三位という結果も残せた。

ああ、本当に楽しかった。



・・・その後派手に雪見そばさえこぼさなければ。

昼食が無くなった上に大笑いされてしまった。
名誉挽回、ならず。ちくせう。


番外編 終わり