東方幻想今日紀 四十二話  温泉行こうよ

「ひどいよリア君・・・わたしを忘れるなんて・・。」
「ご、ごめん・・・。」

小傘を呼んできて事情を包み隠さず話した。
そしたら脹れながらも付いて来てくれた。
ちなみに命蓮さんとは面識が無い様で、
命蓮さんの話をしても誰?としか返ってこなかった。

そういえば小傘は最近来たんだっけ。
俺が来る一年前くらいに。忘れてた。

忘れすぎだよ俺。小傘涙目だよきっと。わかんないけど。

案の定小傘は軽く肩を怒らせながら歩いていた。やばい。

「次から気をつけるから許して・・。」
「やだ。そんなんじゃ許さない。」

困った。かなりお怒りの様子だ。
というか小傘がここまで怒ってるのも珍しい。
よっぽど忘れられたのがショックだったのかな・・。

あ、そういえば小傘は忘れられて・・
そのことがトラウマになったんだ。
彼女は捨てられた、と言っていたが状況を鑑みるにきっと
忘れられていたんじゃないかと思う。

・・という事は・・・俺、最低だな・・・。
ああ、忘れられる事が一番嫌いな彼女にそれをしてしまった。
どうやって償おう・・・・。

「ねえ、小傘っ・・・」
「・・ひとつ、約束してくれたら許してあげる。」

「え?許してくれるの?」
な、何を頼まれるんだろう。何もするな?
いや、彼我さんじゃあるまいし。

「・・次からは何かあったら必ずなっちゃんよりも先に
 わたしを呼んでほしいの。それが約束。」

・・?え?

「そんなのでいいの?」
「そんなのって言わないでよ・・・。」
「あ、ごめん了解!先に呼ぶね!」
「うん。」

俺が約束するとやっと小傘は腑に落ちた表情をした。
でも何でナズーリン?あ、まあそりゃナズを先に呼んで
忘れたからね。仕方ないか。

溜飲が下がったようで、小傘は晴れ晴れとした表情で
こちらに付いて来た。良かった。

そして広間に着き、中に入ると。

皆座っていた。やばい。割と真剣な感じだ。
命蓮さんも座布団を出して座っていた。

あわてて二人とも座布団を出して卓袱台を囲み座る。

・・ん?寅丸さんがいないな・・

そんな事を考えていると
聖さんが命蓮さんに言った。
しんと静まり返った広間で良く通るやさしめの声。

「命蓮。お帰りなさい。さあ、
 あなたがここに来た経緯を皆に話しなさい。」

あれ、話しなさい、って随分と・・。
ああ、弟にはこういう口調なのかな?
ちょっと意外かも。

「・・・実は、わからないのです・・・。」
「・・わからない?」
「ええ、気が付いたら・・・先程この近くにいまして、
 姉さんの存在を近区を歩いていた方に尋ねたら、
 近くにいると聞き、急いでここに来たのです。」

「・・・ふうむ・・・封印かもしれませんね。」
「封印?」
 
聖さんと命蓮さんで次々に会話が進んでいく。

「ええ、封印です。あなたが死んだ後、私は封印されました。
 不運な事故が重なった結果です。しかし、ここの方によって
 私は封印から解かれました。
 そのときの状況にそっくりなのです。
 つまり、あなたは一度蘇生されてから封印された・・・と。
 何者かの手によって・・。」

命蓮さんはずっと黙って聞いている。他の皆もだ。

聖さんはある結論を出した。なるほど。
そう考えれば・・全て合点が・・行くのか?わからん。

聖さんは再び続ける。
「でも、そんな事はどうでもいいのです。
 あなたが生き返った、それだけでいいのです。
 私は、今までの中で一番幸せを感じています。
 ・・・お帰りなさい、命蓮。」

聖さんと命蓮さんの顔が綻んだ。

「・・ただいま、姉さん。
 ・・でも、僕を偲んで付けた寺の名前なのに・・・。
 本人がいたら不味くないですか?」
「ふふふっ、ぞれなら改名する?」

「遠慮しときまーす。」

二人で笑いあっていた。凄く楽しそうだ。
空気も緩んでいるので、気になっていたことを
ムラサさんに訊くことにした。

「ねえ、寅丸さんはどうしたんですか?」
「寝込んでるよ。」
え?寅丸さんが?

「具合でも悪いんですか?」
「いや、疲れてるみたい。もうすぐ来るって言ってた。」

そっか。普段から動き回ってるし、
色々忙しいからなあ。疲れが一気に出たのだろうか。

そのとき、聖さんがぱんと手を叩いて言った。

「さあ、皆さんで温泉に行きましょう!準備してください!」

あ。忘れていた。
あれ、という事は命蓮さんも一緒?
知っている人(さっき会ったばかりだけど)が一緒で良かった。
風呂場で一人とか辛いもの。

支度をするべく、俺はいそいそと客間に向かった。


つづけ