東方幻想今日紀 三十六話 夢中の高利貸し

この感じ。

深い眠りから覚醒、だけどぼんやりしている。
周りの風景もぼんやりとしている。

この感じで間違い無い。

「・・・出てきてください。聞きたいことがあります。」

俺がそう問いかけると、呼応するように後から声がした。

「・・・こんばんは。あれ、どうなされました?」
「・・白々しいですね。あなたが呼んだのでは?」

そう、彼我さんだ。彼我さんが俺に何らかの用があるのか、
それとも暇つぶしか。とにかく、夢の中に入り込んできたのだ。

「・・やれやれ。そちらの用件から聞きます。
 私の用件は後でいいですよ。さあ、どうぞ。」

「用件があること、知っているんですね?
 ・・じゃあ、一つ聞きたい事があるんですが・・」
「嫌です。」
「どうして・・っておい。」

さっき聞くと言ったろうに。

「はいはい、嘘です嘘です続けてください。」
軽く苦笑して手を軽く振って続きを促す彼我さん。

・・むう。何だか話の腰を折られたような。
まあ良いや。続けよう。

「・・・あの時、俺の足に何をしたんですか?」

一番気になっていたことだ。

あの時、完全に違和感も痛みも消えていた。
でも命蓮寺についてしばらくしたら麻酔が切れるように
突然痛みが奔り出し、足も粉砕骨折していた。

つまり、治すどころかあの時点で悪化していた。
普通に折れていたが、複雑骨折になっていた。


彼我さんがクスリと笑って、意味深な表情で言った。

「・・・気付きませんか?・・私が何をしたか・・・。
 随分と考えているようですが、無駄では無いんですか?」

む。無駄とか言われた。

「・・・しばらく痛みを取った代わりに悪化させた・・?」
「・・・はあ、まあ大体合ってるというか・・・。」

少し間をおいて、彼我さんが言った。

「あなたに怪我をしていない、という夢を上書きしたのです。
 そして、命蓮寺で夢が覚めた。そういう事です。
 悪化しているのは実際に治した訳では無いからです。
 そうすれば歩くことによって悪化しますが、あの似非妖怪が
 治してくれると思ったので。たとえ治してくれなくても、
 あのまま凍死するよりましでしょう。それに・・・」

「・・それに、あなたに死んでもらっては困るのです。」

彼我さんが一旦切ってつぶやく様に言った。
それって・・・まさか。

「・・もしかして彼我さん、心配してくれて・・」
「勘違いも甚だしいですね。一周して滑稽に思えます。」

ですよねー。というか彼我さん辛辣。
もう少し・・・きつくない言葉遣いを・・して欲しかったよ。

まあいいや。訊きたい事はこれでわかった。
後彼我さんはデレが無い。収穫は以上です。

彼我さんが軽く咳払いをして、続けた。

「単純に、あなたが使えると思っただけです。
 あなたにそんな情はほとんど抱いていません。
 ・・さて、用件は先程の事を訊くものでしたよね?
 今度はこちらからお願いしてもいいですか?」

「・・何ですか?」

「そうですね・・・。あなたに貸しが五十ありますよね?」
「二ですよ。」
「二十五倍で五十です。」

畜生。やっぱり駄目か・・・。
というかあれ本気だったのか・・。

「・・一つだけ、あなたにして欲しい事があるのです。
 そうですね、借り五十で良いです。つまり差し引き0ですね。」

五十!?・・一体何を頼むつもりなんだろうか・・・。
はっきり言って五十は尋常ではない。
よっぽど大きな事か頼みづらい事なのだろうか。

「・・何をすれば良いんですか・・?」

「・・私はこれからしたい事があるのです。
 話はここからです。簡単な事です。
 ・・・そう、これから私が関与しているで
 あろう事が起こります。
 それに対して、あなたはただ何もしないで下さい。
 つまり、解決しようと動かないで下さい。
 一言で平たく言うのなら、
 私のこれからする事の邪魔をしないで下さい。
 望みはたったそれだけです。いいですか?」

「え?そんなんで良いんですか?五十ですよ?」

いくらなんでもただ黙ってるだけで五十?
やはり彼我さんは・・・やさしい?
というか、ほとんどチャラにしてくれた様なものじゃないか。

「ええ、それだけ、たったそれだけで良いのです。」

彼我さんが黒い笑みを浮かべる。
・・少し背筋に寒いものが走ったが、気のせいだろう。

つづけ