東方幻想今日紀 三十四話  逆走事故

折れた足を彼我さんに治してもらい、
快調に帰り道を進んでいた。

何で治ったんだろうか、とかも思ったが
考えても仕方が無い。早く帰ることが先決だ。
彼我さんがすごい、と思うしかない。

しかも、地図を失くしたが、目印まで用意してもらった。
彼我さんまじいい人。

左と右の二つに分かれていたが、
直感を信じて右に行きました。

”はずれ”と書かれた旗が立っていました。


無言でその旗をへし折りました。


畜生寒いのに。余計な茶目っ気を見せ付けられました。
こっちは手が凍傷になりかけているというのに。


そして、元の来た道を戻って、歩いている所で。

雪も大分止んできて、傘がいらない位になった。
足の痛みも完全に消えていて、違和感も無かった。


しばらく歩いていると、林道から出られた。
寺子屋が見えてきた。

そう、俺は逆走していたのだ。

馬鹿な話ではあるが。
これで元の道に戻った。
あとはほんの二時間くらいで命蓮寺に戻れる。
あれから何時間くらい経っているのかはわからない。
少なくとも行灯の周り、足元と
時々村の方に点いている明かり以外は真っ暗だ。

今は村の方の明かりもほとんど消えているが。

でも、命は助かったんだ。彼我さんに感謝しなきゃ。
足も動く。道もわかる。

というか散々罵倒しても結局助けてくれる彼我さんは
実は新手のツンデレなんじゃないだろうか。

・・・いや、ないな・・・。
はずれとか用意してるし。

・・・にしても、足が簡単に治るなんて。
もう痛みはおろか、違和感すら感じない。
これは一体どういう事だろう。

いや、考えてもしょうがないか。
強いて言うなら不思議な力だ、うん。
科学の立ち入る所じゃない。

まあでも、次にあったときはお礼を言おう。
お礼も出来たらしたい。勿論一倍で。

余裕が出てきたところで、
さっきまでは頭に無かった事も考え始めた。

・・明日から、手伝いとはいえ、教師になる。
一体どんな子供たちがいるんだろう。

打ち解けられるかな。手を焼く子もいるのだろうか。
いや、いたって良い。その子とも分かり合えるさ。
俺の頑張り次第で。

そんな事も考えながらひたすら歩く。

不思議と雪は村の方には積もっていなかった。
だから歩きやすい。肌寒いけど。

そうこうしている内に、命蓮寺の門の前に着いた。

何だか懐かしい。半日ぶりくらいではあるけど。
やはり、ここまでの道のりが長かったからだろうか。

なんといっても、また窮地になったから。
死に触れる、という感じがしっくり来る。

・・・刀は相変わらず物も言わずに腰に刺さっている。
・・いつかこの刀を完璧に使いこなせるのだろうか。

・・いかんいかん。早く中に入って寝よう。
皆寝てるだろうから静かに入らなくては。

・・・正門からゆっくり入って玄関に回った。
・・・あれ。

広間に明かりが点いている。
誰かいるのだろうか。それとも消し忘れ?
俺を待ってくれている・・・わけ無いか。

控えめに見積もっても今は夜の三時くらいだ。
そんなことはありえない。

とりあえず命蓮寺に忍び込むように入る。

消し忘れならさっさと明かりを消して寝よう。
そう思いつつ、ふすまを開けた。

・・・思わず目を疑った。

「・・・遅いよ。・・馬鹿。」
そこには仏頂面のナズーリンが座っていた。
そして二人分の座布団とお茶。

ふと時計を見ると三時を回っていた。
「・・どうして・・?」
「・・・・・はあ。寒かっただろう、座るといい。
 ・・理由は・・言わないとわからないかい?」

そう言って、彼女はふっと表情を緩めた。
安堵の表情だ。

「・・・ありがとう・・・。」

・・・ふと目頭が熱くなっているのに気付いた。
すぐに泣きたい衝動を抑えて、座った。

お茶をゆっくり飲んだ。彼女も見計らったように飲み始めた。

何故かお茶は暖かくて、心からあったまるようだった。

ナズーリンは待ってくれていたんだ。
帰りを待ってくれる人がいる。何て幸せな事だろう。
それも、冷めた頃にお茶を淹れなおして。

ナズーリンが少し間を置いて、口を開いた。

「・・何があったのかは訊かない。早く寝てくれ。私も寝る。」

深いところは詮索しない。あの先生を思い出した。
そう、それが思いやりだからだ。

彼女が湯飲みを持って立ち上がった。
俺も合わせて湯飲みを持って立ち上がる。

「ありがとう・・・おやす・・っ!!?」
「リアっ!!?」
ガクッという音が左足からしたと思うと、
意図せずそのまま膝を着いて座り込んでしまった。

・・・足が動かない。

・・・最初は足が痺れているかと思ったが違う。
そんな事を思っていられた時はまだ良かった。

少しして、感覚が無くなる程の痛みが足に奔った。
痺れにも似た痛み。息をするのも辛い。
額には嫌な汗がたくさん浮かんでいた。

「おい!左足・・・!!」
ナズーリンの声が上ずっていた。顔も青ざめている。
何事かと思ってふと左足を見た。

「・・っ!!!?」

左足は、ほとんど足の形をしていなかった。


つづけ