東方幻想今日紀 三十一話  先生になるらしい

俺が命蓮寺に来て一ヶ月が経った。

帰る手がかりはまだ見つからず、
この一ヶ月間、命蓮寺の手伝いや掃除をしていた。

・・・幻想郷に、冬が来た。

厳寒の冬。雪や寒さを考えると、
前の場所の十二月の中旬くらいだろうか。
雪も次第に降るようになった。

この一ヶ月で、変わったこと。

ぬえさん以外とは、皆仲良くなってきた気がする。
肝心のぬえさんとはほとんど話さず、警戒されているみたいだ。
話を切り出してもすぐに終わりにされてしまう。

まあ、いいかな。むしろそれが普通かもしれないし。
そのうち打ち解けられる日が来るといいな。

そして、彼我さん。

あの短い期間に二回も見た生々しい夢は
不思議な事にこの一ヶ月の間
一度も見ることはなかった。だからあれから会っていない。

気になることが、一つ。

恐らく彼我さんの言動を考える限り、
彼女は俺の全ての行動を把握している。
なのに、どうして「退夢の剣」の存在を知って
なお何も干渉してこないのか。わからない。
脅威にならないから、だろうか。
それともどうすることも出来ないからだろうか。

そんな事も考えた、一ヶ月。


一ヶ月経って、思いもよらぬ話が飛び込んできた。


「・・先生って・・・できるかい?」
真顔で訊くナズーリン


「は?」
いきなり訊かれて面食らった。

俺が先生・・?どういう事だろう。

「あ、いや実は寺子屋の者に人が足りないと言われてな。
 もしかしたら君なら喜んでやってくれるかと思って・・。
 ちゃんと日当金が出るそうだ。どうだろうか?」


確かに、役には立ちたい。日当金が出るならなおさらだ。
少しでも恩返しできるチャンスだろう。


・・が。


・・俺に教師が務まるのだろうか。
仮にも高校第一学年の身だ。子供を教えるほど人生経験も無い。
子供の将来を俺が大きな影響を与えてはいけないと思う。


思案顔をしていると、それを察したように彼女は言った。

「大丈夫だ。大方自分に務まるか不安なんだろう?
 でも、君がするのはあくまでも手伝いだ。
 つまりは助教師、と言う訳だな。」

すげえ。どうしてわかったし。
でもそういう事ならぜひやってみたい。

「じゃあ、やりたい!」



時が経つ事数時間。
俺は寺子屋の場所を教えてもらって来ていた。


・・・さて。



「・・よっと。これでこの全員の冬休みの宿題が揃ったな。
 あなたはこれとこれとこれの答え合わせをよろしく。
 あと、こっちが答えだ。大変だろうが頼む。」

「・・・ええ。」

ドサッという音と共に山済みの大量のプリントが
俺の目の前に置かれました。
プリントの束が二つ。今日中に終わるかなあ。うふふふふ。

・・・先生は大変だなあ。

ちなみに頼んだ青髪の女性の先生は
向こうの机で五束を処理してました。
めちゃくちゃ鉛筆の速度が速いです。


仕方なく、俺は遅い筆を動かした。
これも恩返しの為だ。がんばろう。


つづけ