東方幻想今日紀 二十八話  見えない行間を読む

「じゃあ説明するけど・・・っと、その前に一つ確認。」
丙さんが話を止めた。何だろう。

「この文字は知ってる?漢字。」

どうやら凄く馬鹿にされたみたいだ。

あ、でも異世界の人だし、聞いて当然か。
「うんまあ、一応・・・。」

「じゃあさ、あんまり難しい内容じゃないから読んでみてよ。
 リア君だったら絶対に読めるから。読めないはずがないよ。」

何でプレッシャーをかけたし。

でもまあ一応、高校で漢文を習っていたから
難しくなければおおまかな意味位は取れる。
幸いにも漢文古文得意な人だし。

「わかった。読んでみるよ。」

最初の一行は我刀退夢也と書いてあった。
恐らくこれは、

「我、退夢の刀也(なり)とか・・・?」
「うん。そんな意味だと思う。」

丙さんが少し楽しそうにしていた。
・・・ん?退夢・・!?
退夢ってことは・・・
・・・これは、彼我さんじゃない気がする。
彼我さんは生々しい夢に出てきた。
恐らく、退夢の存在ではないはず。
いや、わからないけど。
でも直感的にそんな感じがする。

「彼我さんじゃ・・・ないね。」
「やっぱりリア君もそう思う?」
丙さんが口を合わせる。

「丙さんも同じ事を・・・?」
「うん、そっちの話を聞いている限りはそう思う。
 さ、早く続きを読んでみて。」

「あ、うん。」
丙さんが急かす。

二行目は・・・・。
刀扱在不・・・と書いてあった。

「刀を・・・扱うものは在ら不(ず)・・?」
「そう、そこなんだけど・・・・。」

丙さんがいぶかしげそうに言う。

「それがどうしたの?意味はあってる?」
「うん。あってると思うんだけどさ・・・。
 ・・刀を使えるものがいないっておかしくない?
 だって現にリア君が扱えているわけだし・・・。」

・・・あ。

そういえば変だ。現に俺は使えるけど他の人は
使いこなす事はおろか、鞘から抜くことも出来ない。

・・・一体これは・・・。

今考えてもしょうがないか。

気分を切り替えて三行目に目をやる。

三行目は死力基源也・・と書いてあった。

「・・・死力を振り絞れば力の基(源)になる・・とか?」
「うーん、ちょっと違う気がする。
 死の力を源にして、基(本体)が出来るという
 意味だと思うんだよね・・・・。違うかな?」

・・・死の力・・!?

・・そういえば。
俺はここに来たときに死んだ。
車に撥ねられたんだ。思い切り。

・・・そのはずだったけど。

気が付いたら何故かここにいた。

もしかしたら死んだはずの負荷が刀になった・・?
とは言っても、この刀が何かもわからない。
でもそう考えたとしたら少し納得がいく。

多分、俺は仮死か過死を経験している。
どちらかはわからないが、確実に死に触れている。

でも、幽霊であるムラサさんは引き抜けなかった。
これは・・どうしてだろう。

四行目・・・はかすれて読めない。
目を凝らして良く見てみる。

・・一文字だけ、かろうじて読み取れた。

・・・その文字は「還」だった。

・・・還る・・?
一体何が還るのだろうか。

俺が元の世界に「還る」・・?
俺が土に「還る」・・?
刀が「還る」・・?

・・・それとも、全てが・・・

・・いや、そんな訳が無い。
何考えてるんだ。俺が元の世界に「還る」に決まっている。

・・・きっと「還る」術はこの刀にある・・!
・・・そう自分に言い聞かせる。
そうでもしないと、あの悪夢を思い出す。


・・・全てが「還る」瞬間を目の当たりにした時・・・・


そう考えた途端、強い寒気がした。
肩が急に震えだす。
心臓が高鳴っているのがわかる。
・・動悸がする。

ああ、この感覚は・・・。

さっきまで聞こえなかった時計の音が聞こえる・・。

・・・その時計の音がだんだん遅くなっていく・・・。


「「リア君っ!?」」
丙さんと霖之助さんが驚いた声を上げた。


次に俺が目を覚ますのは、命蓮寺の客間の布団になる。
それは、数時間後の話。



つづけ