東方幻想今日紀 二十七話  いざ行かん古道具屋

寝起きの悪い俺が、珍しく鳥の鳴き声で目が覚めた。

・・・けたたましい鳥の鳴き声で。

眠い目をこすって、訊く。

「・・・なにしてるの・・。」
「・・・え、雄鶏。」

何故か立派なニワトリを抱えた丙さんが
俺の布団の前でしゃがみこんでいた。

もう突っ込みどころが多すぎて無理だ。

寝てたら急に耳元で「こっけくぉっこおぉお!!」
とか大音量で聞こえたし。鼓膜破れるかと思った。

「・・・ニワトリで起こすって・・・どうだろう。」
「いや、こんな大きい声で鳴くとは思って無くて・・。」

ニワトリって、抱えて鳴かすものじゃないだろ。
何処から持ってきたんだよ・・。そんな立派な雄鶏。

「じゃあ、着替えて行こうか?」
「あ、うん、すぐ着替えるね。
 ちょっとあっち向いててくれる?」

「いや、出て行くね。そっちの方が安心でしょ?」
「それもそうだね。お願いしていい?」
「はいはーい。じゃあ、着替えたら
 ご飯食べて門の前に来てね。待ってるからね。」

「あっ・・・待っ・・。」
丙さんが客間から出て行った。


・・・ニワトリを置いて。

置いて行くなちくしょうめ。
歩きながらこっこっこと鳴いてるし。
畳みついばんでるし。ちょっ・・・畳が荒れる・・。

俺鳥触れないんだけど・・・・。

しょうがないからそのままのたのたと着替えた。

うう。寒いなあ。服が冷えてて余計寒い。
着替えてるとニワトリがばさばさと飛んだ。

ちょっ・・・!!飛ぶなし・・・!!
ニワトリが柱に頭をぶつけて止まった。
というか、落ちた。

何でここのニワトリは飛べるんだろう・・・。

まあいいか。
とりあえず着替えて広間に行くことにした。

ニワトリが気がかりだが鳥が触れないから
気にしないことにしたい。心配しても無駄だ。

・・でも客間の畳全部ついばまれたらどうしよう。


そんな事を考えながら広間のふすまを開ける。

卓袱台の上にはご飯と玉子焼きが用意されていた。
まだ誰も起きていない様で、時間帯も早かった。

仕方ないので一人で食べることにした。
そういえば・・・。
一人で食べるご飯は久しぶりだ。
シャクナゲさんかここの皆で食べてたからなあ・・。

玉子焼きを口に運ぶ。
焼き加減にムラがあって、
ちょっと形が悪かったけどおいしかった。
ここ最近絶品に近いものばかり食べてたから少しほっとした。

恐らく・・・丙さんが作ったんだろうな。
・・これはこれでいいよね。

ご飯を食べた後、命蓮寺の門の前に行った。


丙さんが何故か腕組んで仁王立ちしてた。
ちょっと意味がわからないです。何でドヤ顔なんですか。


「・・・その格好は・・?」
「いや、暇だったから・・。」
暇だからってそんなポーズしないで下さい。

もう一つどうしても言いたいことが。
「あと鶏どうするのあれ・・・。」
「しばらく遊ばせて上げようかなって・・・。」
「場所を選ぼうよ・・・。」

「と、とにかく行こう!」
「あ、もう行くの?」
「ちょっと遠いからこのくらいの時間にしないと
 お昼に間に合わなくなっちゃうからね。」

そう言って丙さんは歩き出した。
恐らく飛べるんだろうけど合わせてくれるんだろう。
細かい気遣いがあるなあ。普段はあれだけど。

急ぎ足で付いていくことにした。


歩くこと一時間。
里を抜けて、林道に差し掛かった。

・・結構木が茂っていて、薄暗い。
もうとっくに日は出ているはずなのに。
おまけに空気が少し湿っている。肌寒い。

「・・・随分と鬱蒼としてきたね・・。」
「うん、まあしょうがないよ。
 でも、もうそんなに距離は無いから。」

丙さんが苦笑いで言う。

こんな林の奥地にあるのか・・。
案外魔法使いみたいな人だったりして。

しばらく歩みを進めると、向こうに
あまり大きくない民家があった。

・・・あれかな。

「あ、見えてきたね。香霖堂だよ。」
丙さんが言う。

「・・・あそこで、この刀の名前がわかるの?」
「うん、中にいる店主がそういう人だからね。」

「骨董が趣味・・・とか?」
俺がそう言うと丙さんは軽く笑った。
「そんなのでその刀の名前なんかわかりっこないでしょ。
 そういう能力を持ってるの。まあ行ってみればわかるって。」

丙さんがその香霖堂とやらの戸を開けた。
俺もそれに続く。

「おじゃましまーす・・・。」「あがるよー。」

ちょ、人の家だろ。言い方。

中に入ると色々な物が並べてあった。
しかし、並べられているものは粗末なものだ。
鉄くずやガラス瓶。良く解らない杖。
本当に玉石混交といった感じだ。というか玉あるのか。

向こうにふと目をやると白髪でアホ毛
少し背が高めの眼鏡のお兄さんが本を読んでいた。

綺麗な白髪だな・・地毛なのかな・・。
それとも苦労してこうなったとか・・・。

そんな下らない事を考えていると
お兄さんが本から視界をはずしてこちらに目をやった。
目が合った。

「いっらっしゃい・・・ん?
 見慣れない顔だなあ。はじめまして。」
「あ、初めまして・・・ここは・・?」

「ここは道具屋だよ。ああ自己紹介をしなくちゃね。
 僕は森近 霖之助というんだ。君は?」

「えっと・・・リアって言います。」

眼鏡のお兄さんは軽く間を置いて、口を開いた。
「・・・で、用件は何かな?」
「えっと・・・この刀・・・なんですけど。」

刀を腰から外して霖之助さんの前に出した。
刀を見るや否や、霖之助さんの表情が変わった。

「何だ・・・これは・・・!?」
「・・!?・・やっぱりわかりますか?」

「・・・いや、わからない。わからないが・・。」
「・・わからない・・・が・・?」

霖之助さんが軽く嘆息して、こう告げた。
隣で丙さんも固唾を飲んで黙っていた。

「・・・名前が、わからない・・用途もわからないんだ・・・。
 こんなことは初めてだ・・どうなっているんだ・・?」


明らかに霖之助さんが動揺していた。

これで刀の名前が解る術は絶たれたのだろうか。
やはり刀は彼我さんなのか・・?

霖之助さんが何かを発見したのだろうか、再び声を張った。
「いや、待ってくれ。刀に何か書いてある。」

「「え?」」
「ほら、ここだ。」

俺と丙さんはほぼ同時に刀を手に取った。


刀の柄の部分に小さな刻印があった。
良く見ないとわからない小さな刻印だ。
何て書いてあるんだろう・・。
「我・・刀・・退・・夢・・也・・え?何これ?」


良くわからない漢字の配列。
何だこれ。何てという意味だろう。


「・・・これは・・。」
「・・・なるほどね・・・。」
丙さんは横で明らかに納得していた。
霖之助さんは腕を組んで感慨深そうにしていた。



置いてけぼり食らった。



「・・・どういうことなの?」
「・・・結構、面白いことが書いてあるよ。」

含みたっぷりな丙さんの顔。腹立つなぁ・・・。
「教えてくれないの?」
「あはは、しょうがないなあ・・・・。」


「いい、説明するよ・・・。」

丙さんが口を開いた。


つづけ