東方幻想今日紀 二十五話  そして夢は夢のままに

「おい・・・リア・・。」

聞き覚えのある澄んだ低いトーンの声。
「んっ・・・。」


恐る恐る目を開けると、ナズーリンの顔が目の前にあった。

「わわっ!?ナ・・・ナズ!?彼我って人は!?」

「・・・彼我?誰だいそれは・・?」
ナズーリンが眉をひそめる。

「あ、そんな事よりどうしたの?」

「はあ。全く、どうしたもこうしたも無いよ。
 いきなり倒れられたら・・その・・
 誰だって心配になるじゃないか・・。」

後半の声が小さくて良く聞こえなかった。

「え・・心配・・してくれたの?」
良く聞こえなかったけど、そうだったら凄く嬉しい。

「あ・・いや、心配・・・じゃなくて、
 そのっ・・・死んだ事になって面倒くさいなと!!」

「ネズミさあぁん!!?」

ちょ・・・勝手に殺すな。
うわあああん!!がっかりだよ!!そっちの心配かい!!

そして何故かナズーリンさんが葛藤している顔で頭を抱えた。
凄いやっちまった顔している。本音が出たからかな?


・・・この感じだと俺はどうやら寝ていたようだ。
・・・ということは・・・あれは夢だったのか・・?

月を見る。

月は煌々と輝いていた。
・・・が、普通の大きさで、しかも少し欠けていた。

「・・・もう、君が起きるのが遅いから
 食が始まってしまったぞ・・?」

悪戯っぽく微笑みながらナズが言う。

「あはは。そうだね。ごめんごめん。」
「全く・・。まあ、こうして一緒に見れて良かったがな。」
「うん、間に合いそうだね。」

ナズが俺の横に座り直した。
うぅ・・・近いなあ・・・恥ずかしいよ・・。

密着、では無いがかなり近かった。具体的には、
お互いの肩が軽く触れ合うくらいの距離だ。

やばい・・・恥ずかしいよう・・・・!!


このままでは気が狂いそうだ・・。
そうだ、月を見よう。

・・・気を紛らわす為に月を見た。

そうすると、不思議と、だんだん緊張がほぐれて行った。
月が欠け、もう少しで皆既月食になるところだった。

月って・・・月食だと赤くなるんだな・・・初めて知った。



・・さっきの夢を思い返してみる。

突然月が落ちてくる。
ナズが彼我って人に変わる。


ねえわ。


あれ、リアリティ無いのか今の夢?

でも、夢にしては驚くほど生々しかった。
彼我さんも実在する人なのでは・・?
・・・もしかしたら。

この、腰に提げている刀自身の事・・・?
青い、黒に近い刀。見たことの無い素材。
尋常ではない切れ味。軽い。

どこかのマンガで見たことがある。
刀には意思があって、名前があって。

もしかしたら、彼我さんはこの刀・・・?

確かめようが無いんだけどね。
せめて刀の名前でもわかればなあ・・・。

考え事をしながら月を見ていると、後から高い声がした。
「お、こんなところにいた。って、リア君も一緒か。」

「何だ丙。私を捜していたのかい?」

ナズがそう言うと、丙は嘆息して見せた。わざとらしく。
「だって、あんな様子で出て行かれたらね・・・?」
含みたっぷりの目で言う丙さん。

「・・!まさか、私を・・・?」
ナズーリンの声が一瞬上がった。

「・・・って、ムラサが言ってた。」
「ああそうかい。君が私を心配する訳が無いものな。」
「おや?もしかして期待していたアルか?」
「その口調をやめろ。そして期待などしていない。」

間髪入れず怒涛の口論(?)が起こっている。
二人とも頭の回転速すぎるだろ。

「全く・・・折角の月が霞んで見える様だよ。」
「お?じゃあ、目を診てもらえばいいじゃなーい。」
「ああもう!比喩に決まっているじゃないか!わかるだろう!?」
「うん。」
「あー・・・もういい、続けてくれ。」

ナズーリンは疲れ切った様で、がっくりうなだれた。
丙は心底楽しそうにしていた。
ドSや・・・ドSがおるで・・・。
そしてナズーリンかわいそう。

月食はさておき・・・」
「さて置かないでくれ・・滅多に無いぞ・。」
「じゃあ、ドブに捨てて・・・」
「・・・もういい。・・続けてくれ。」

ナズーリンが心底疲れきった顔で言う。
良く見ると目に生気が無い。これってやばいんじゃない?

「・・・で、リア君に一つ話があってさ・・。」
「・・・何ですか?」

「刀の名前って知りたくない?」
「詳しく聞かせて下さい。」
丙さんは面食らった様子で少したじろいだ。

「え・・、うん、どうしたの?随分と熱心だね・・。」
「うん、実は・・・」


俺はさっきまでの夢を丙さん・・・と横の、
目が死んでいるナズーリンに打ち明けた。



つづけ