東方幻想今日紀 二十三話  The fulmoon floating in empty

命蓮寺の屋根の上で月食を見ることになった。
上った経緯を簡単に説明しようと思います。

屋根の上に上れない俺はナズーリンさんに笑われながら
頑張って上ろうとしましたが結局駄目だったので

諦 め ま し た 。

そしたらナズーリンさんが笑いながら
自分で上って来いとか言うので梯子はありますかと訊いたら
あるわけ無いだろうと、鼻で笑われました。
どつきたくなったのは言うまでもありません。ネズミめ。

どうしても屋根じゃなきゃ駄目ですかと訊いたら
おや、高いところは苦手なのかい、と
全く要領の得ない回答が帰ってきました。

結局ナズーリンさんが笑いながら手を差し伸べてきたので、
遠慮なく必要以上に手を強く握って上らせてもらった。
ちなみに握力は52キロあります。
いや、状況が状況なので60キロは出てたかも。

ナズーリンさんは見た目にそぐわず意外と力があった。

あと笑いながらと言ったけれども、あれは嘲笑だったね。

んもう、性格悪いなあ。・・ネズミめ。
まあ俺も人のこと言えないかもしれないけどね。

んで今に至ると。


屋根に引き上げてもらった後、
ちょっと疲れた表情でナズーリンさんが話しかけてきた。

「・・・リア。手、強く握りすぎじゃないか?」

自業自得だと思います。

「つい気持ちが昂っちゃいまして・・。」
うん。嘘は言ってない。嘘は。

「・・・え?昂るって・・・!?」
何故かナズーリンさんが意外そうな顔をしていた。
そしてちょっと嬉しそうな顔をしていた。え?何で?
俺何かいいこと言ったっけ・・?

とりあえず別の話題を振る。
「そういえば・・・月食っていつですか?」

「ああ、もうすぐかな。あと半刻も無い。
 そういえば・・・一つ訊きたいんだが・・。」
「・・?何ですか?」

ナズーリンさんはこちらの目をしっかりと見据え、
一呼吸置いて言葉を続けた。

「・・君は向こうで友人とかは居るのかい?」

唐突な質問だ。何でこのタイミングで・・。

「ええ、居ますよ。何でそんな質問をするんですか?」

ナズーリンさんは少し気まずそうに頭を掻くと、

「あ、いや君は友人にも敬語なのかなと思って・・。」

確かにずっと敬語だしなあ・・・。
でも居候してていきなりタメ口はおかしいだろうし。

「いや・・・流石にそんな事は・・普通に話しますけど・。」

俺がそう言うと、ナズーリンさんが少し表情を緩めて、
「・・だったら、私にも普通に話して欲しい。
 呼び方も『ナズ』と呼んでくれ。」

意外な提案が来た。

「え?いいんですか?」

「同じ一つ屋根の下で暮らしている仲じゃないか。」

待ってください。
その言い方には多少の語弊を含んでいると思います。

「・・・実はずっと頃合を見計らってたんだが・・・な。
 君の敬語はどこか距離を置いているみたいで、
 とてももどかしかったし・・・。これでよかった。」

「・・・えっと、よろしく・・ナズ?」

「ふふっ。何で訊いているんだ。」

ナズーリンさんは安堵の表情を浮かべた。
そっか・・。ナズ・・・は、俺の敬語を
もどかしく感じていたのか。うん。割と不慣れだし。

何より、仲間として受け入れてくれたのが本当に嬉しい。

じゃあなっちゃんと呼んでいい?
・・なんて訊けるはず無かった。無理だ。


星を見る。雄大な空。満天の星。
ナズが横で話しかけてきた。

「しかし・・・今日は絶好の晴天だな・・。」

ナズの言う通り、見事な晴天で雲ひとつ無い。
しかも空気が澄んでいるから星が綺麗だ。
あれがシリウスで・・。ベガで・・。アステリオンで・・。
・・・なんだあれ知らない。。

横でナズが星に感動していた。

「はふぅ・・何だかこうして見ていると・・
 凄く・・・幸せな気分になるよ・・・。」

「うん・・・全くだよ・・本当に、綺麗だ。」
「・・もうすぐ食が始まる。ふふっ、楽しみだ・・。」

あの月か。大きくて、まん丸で・・。
昔は本当に兎が居ると思い込んでいたなあ・・・。

・・・・ぼーっと見続ける。
そのまま時間を忘れてしまいそうで・・。

・・・10分は経っただろうか。
月が欠ける気配は無い。


「・・・おかしい・・・欠けない・・。」
ナズは少し焦っている様子だった。

「・・・時間はあってるの?」
「ああ、絶対に間違えてはいない筈だ。」

こうして、タメ口で話すのもやっぱり新鮮だ。
楽しいな。やっぱり。

・・・そのまま30分くらい経っただろうか。

・・・一向に月が欠けない。
それに一番薄気味悪いのが・・・。

・・・月が、徐々に明るくなって来ている・・。
その証拠に、暗い星が見えなくなってきている。

「「おかしい・・・・。」」

二人の声が重なった。


つづけ