東方幻想今日紀 二十二話  楽しい楽しい食事(?)

ナズーリンさんとの長い長い将棋を終えて、
夕飯を食べることになった。
その時間三時間半。正気の沙汰じゃなかった。


客間の近くが広間なので、すぐに広間に着いた。

「あ、来た来た。遅いよもう。」
すでに座って食べ始めている丙さんが手招きした。

「はは、すまない。ちょっとな・・・。」

「・・・!言えないってことは何かやましいことが・・」
「将棋だ。・・・絞めるぞ。」
ナズーリンさんがすごく不機嫌そうに返す。
そりゃそうだけど。

「う・・・冗談だよ、冗談。
 さ、さめないうちに早く食べて。」

「はあ・・・全く。」

すごいカレーの匂いが漂ってくる。とてもおいしそうだ。
ナズーリンさんの横に座る。

そしてすでに用意されていたカレーに鼻をひくつかせる。
うん。すごくおいしそう。
香辛料の匂いが利いていて、普段食べるのとまた違った匂いだ。

ふと、ムラサさんに話しかけられた。
「あれ?大丈夫?すごく疲れているように見えるけど・・。」

絶対将棋だ。

「えっと・・・ナズーリンさんと将棋をやってて・・。」

俺がそう言うと、ムラサさんは苦笑いで、
「あはは、成る程ね・・・。」

全てを察せられた。すげえ。

「まあ食べて食べて。今日は私と小傘だから。」

そう言われたので、レンゲをとってカレーを口に運ぶ。
・・・うわ・・・おいしい・・。
繊細で、かつ大胆な味。しかも食べたことのない味だ。

「・・・ねえ、ナズーリンの料理とどっちがおいしい?」

訊くなバーロー。

ほらナズーリンさんがこっちを見てるじゃないか。
何この答えづらい状況。

少しの沈黙の後、ナズーリンさんが口を開いた。
もしかしたらこの状況を回避させてくれるとか・・?
多分、私の方が下手だ、とか言う大人の対応をするだろう。

「・・・私に気遣うことはないんだぞ・・?」

・・・止めを刺された。ひどい。あんまりだ。
しかも細めた目は「私だと言え」って言ってるよ。


無言のままレンゲを進める。
間を保つ為に食ってたカレーを完食した。

・・・よし。俺も男だ。

「・・・どっちもおいしいです。」
逃げましたごめんなさい。

「ごめんね、冗談だよ。ちょっとからかってみただけ。」

「え!?」

ナズーリンさんは本気だったみたいだ。

でもこれでこの場はしのぐ事が出来・・・
「・・・強いて言うなら、どっちだい?」

蒸し返すな。いやもう蒸し返さないでください!
どうしてそんなにこだわるんだこの人・・・。

「・・・随分とこだわるね?」
ムラサさんが俺の訊きたかったことを訊く。

「それは勿論料理を作る立場なんだから、
 その味くらいは意識するべきだろう?」

顔色一つ変えずに言うナズーリンさん。
なるほど。意識が高いなあ。

「・・・普段は料理の味を意識しないくせに?」
「ばっ・・・・そんな事は無い!
 普段から考えているじゃないか!」

何だ。彼女は何のスイッチが入ったんだ。急に取り乱したぞ。

「はいはい。料理を意識する心境の変化があったんだね。」
「なっ・・・。」

ナズーリンさんは赤面して黙り込んでしまった。
そして少しして立ち上がり、
急ぎ足で広間を出て行ってしまった。

・・あ。

すぐ横の一輪さんが口を挟む。
「・・ムラサ。・・・やりすぎだと思う。」
「・・・ちょっとからかいすぎたかな。反省。」
ムラサさんは軽く頭を掻いた。


「あ、ご馳走様でした。」
そういって俺は広間を後にした。

やはりナズーリンさんが気がかりだ。
それに、結局用件を言っていなかった。

ナズーリンさんの部屋の前に来た。
そして、声をかけた。

「すみません、入ってもいいですか?」
緊張の面で返事を待つ。

「ああ、入ってくれ。」
昨日までのナズーリンさんの調子で声が返ってきた。
良かった。あまり気にしていないみたいだ。

ゆっくりと引き戸を引く。

普通にナズーリンさんが座っていた。
そして、いつもの口調で話しかけてきた。

「さっきは取り乱してすまなかったな。
 用件も言っていなかったし・・。」
「あ、全然いいんですよそんなの!気にしないでください!」

「・・・私が・・・気になるんだがな・・・。」
「え?」
ささやくように言った声は良く聞こえなかった。

「あ、いや、なんでもない。それよりも用件なんだが・・。
 ・・実は今日、月食があるんだ。それを一緒に見ないかい?」

月食!?そうだったのか・・・。
勿論断るはずは無い。快諾した。

「もちろんです!」

俺がそういうとナズーリンさんは微笑んで、
「そうか。良かった。屋根の上で見る。ついてきてくれ。」

こうして、ナズーリンさんと月食を見ることにした。


・・・・屋根・・・?


つづけ