東方幻想今日紀 二十話  暇つぶしに将棋でも

「ふう・・・いい湯だった・・・。」
風呂から上がり、着替えて客間に戻った。

三日ぶりの風呂は結構気持ちよかった。ありがたいなあ。
途中で台所を通ったがムラサさんと小傘が
カレーを作っているらしき話し声が聞こえた。

さて・・・何しよう。
何しようかな、わくわくするね!
客間は特に本もない。七畳ほどの部屋で綺麗だ。
座布団が三枚置かれている。
四枚あればみんなでモンハンできるのに。
・・・なんてくだらない事を考えてみる。

・・・やべえ。することない。
・・他の人の所に行っても・・迷惑かもだし・・。

・・畳の目の数でも数えるか。
って待てい!!何でそうなる!!日が暮れるわ!
いやもう暮れてるわ!

・・・ノリ突っ込みさびしい。

・・・はあ、危うく究極に空しい事をする所だった・・。

何か・・・何かないか・・。

そう思い、部屋を見回す。
・・・ん?積まれている座布団の横に何かある・・。

すぐにそれを手に取って見る。

・・・こっ・・これはっ・・・!!

・・そこにあったのは将棋盤と駒の箱。
・・・将棋板ゲットだぜ!!あと駒!

よっしゃ一人将棋だ!!
寂しいけど畳の目を数えるよりマシだぜ!

・・・一人将棋って良い勝負をするのが難しいんだよね。
何故なら思考が片側に寄っちゃうから。
だから違う戦法で一手ずつ将棋盤を回すと結構楽しい。


・・やることしばし。
誰かがふすまの外から話しかけてきた。

「すまない。今入っても良いかい?」

この声はなっちゃ・・ナズーリンさんか。
というか口調でわかる。

「どうぞ。今いいところなんですよ。」

珍しく拮抗している。
やはりタイプが近い陣形にしてるのが良かったのだろうか。

「・・・失礼す・・・。」

ナズーリンさんがゆっくりとふすまを開けた。
・・・そして唖然とされた。
・・・なぜか可哀想なものを見る目で。

「・・・何しているんだい・・?」
「何って・・・一人将棋ですよ。」
「いや、それはわかる。
 何でそんな・・・退屈な事をしているんだ・・。」

「いや・・・することが無かったんで・・。」

俺がそう言うとナズーリンさんは嘆息してこう言った。

「全く・・呆れた者だ。私が相手になるから指さないか?」
「いいんですか!?」

「・・ああ、まあ用件は指しながら話すとしよう。
 崩して並び替えていいかい?」

ナズーリンさんは盤の向こうに座布団を置いて正座した。
・・う。スカートの形状が・・・。

・・いやいや、雑念を捨てろ。

「あ、はい、今並び替えますね。」

ナズーリンさんが素早く駒を並べる。・・速い・・。
・・と言ってもわずかに自分の方が速かったが。

「と金と歩、どちらがいい?」

お?振り駒ですかい。本格的だな。
・・強そうだなぁ・・。

・・でも、負ける気はしない。
というか多分負けない。
でも料理をあんな精度で作る人に勝てるか・・?
やべえ。自信なくなってきたよ。

「・・歩で。」

ナズーリンさんは軽くうなずいて三枚の駒を取って・・あれ?
・・・三枚?普通五枚じゃ?
・・まあ代用することもあるんだけどさ。
気になるから聞いてみよう。

「・・どうして三枚なんですか?」

俺がそういうとナズーリンさん
「え?・・ああ、良く知っているな・・。
 私は手が小さいから五枚だと上手く投げられないんだ。」

なるほど。というかマジですか。
良く見たら確かに大分小さめではある。

そうこう思っているうちにナズーリンさんが駒を投げた。

歩、と金、歩。

・・うん。俺が先攻だ。

「じゃあ、行きますね。」

緊張感がある中、俺は飛車の上の歩、2六歩を進めた。
基本の初手だ。


つづけ