東方幻想今日紀 十九話  武器ではなく、野菜を買う。

「さ、怖いもの見せてごめんね。もう大丈夫だよ。」

さっきのおじさんが腰を抜かしている少女に優しく言う。
少女はお礼を言ってそそくさと走っていった。
野次馬も散っていった。
やがて元の普通のにぎやかな村市場に戻った。

このぶっ倒れているモヒカンはどうするんだろう。
通行人が避けてくんですが。邪魔だ。

それにしても只者じゃない。
というか武器に大根を使うか普通。
カボチャとかほん投げればいいだろ。

・・・あ、おかしい?

「すごいね・・あのおじさん・・あんなに強かったんだ・・。」
ふと目をやると小傘は汚れなき目を輝かせて言った。

「・・そういえば買うんだよね?・・野菜。」
「あ、うん買うよ?行こうか。」

小傘と店のおじさんに話しかける。

「こんにちはー・・すごかったですよ!」
小傘が切り出した。
おじさんはぎょっとして言った。
「何だ・・・見ていたのか・・・。」

いや、その発言はおかしくないですかねー・・?
見てるだろ普通。
あの状況でのうのうと買い物が出来るか。

「じゃあ、はい、これに書いてある物を下さい!」
そういって小傘は紙をおじさんに渡した。

おじさんはにこやかにそれを受け取ると、
「まいど!そういえば・・・・横の彼は誰だい?」

「えっ!?・・・え?」
小傘が急に顔を赤らめて動揺した。

っておい。何故そこで動揺する。
普通に居候と言ってくれ誤解されちゃうよ。
・・やめてえええぇええ!!

「ただの居候です!」
とりあえず割り込んだ。というかそう言わないと危険だ。
嘘は言っていない。というか普通のことを言っただけだ。

「そうかい。いや、何か見慣れないからさ。
 まあ、お二人さん仲よくな。」

おじさんが野菜と香辛料を器用に袋に詰めながら
にやけて言った。やっぱ誤解しとるよ。ちくせう。

「はい、1200円ね!まいど!」
「あ、はい・・ありがとうございます・・。」


小傘が袋を受け取りお金を渡したのを確認すると
すぐに小傘の手を強く引いた。

「さあ、呉服屋に行こう!!」

数時間後

俺たちは命蓮寺へ戻った。
和室で座布団を引いて二人で向かい合って座った。

「はあ・・・。やっと帰った・・。」
「ふう・・色々あったね・・・。」

全くだ。特におじさんのにやけ顔が腹立たしかった。
色々ありすぎてすでに日は傾いている。
午後五時くらいだろうか。
ちなみの当初の到着予定は2時でした。はあ。

とりあえず途中でご飯食べてきたから問題ないけど。

「あ、服・・・着てみたらどうかな?
 元の服はかごがあるからそこに入れといてね。」
「あ、うん、本当にありがとう!着てみるね!」

折角買ってもらったんだし、着てみたい。
一旦廊下に出て着替えた。


結構いい感じの和服を買ってもらった。
白と灰色の服で、黒い帯。
和服というのはフリーサイズでいろんな人に合う。
それに通気性がいいから涼しい。むしろ寒い。へくし。

着替えて部屋に入ると小傘が少し嬉しそうに、
「わあ、すごく似合う!かっこいいよ!」

「え・・・っと、か・・かっこいい・・?」
そんな事言われたのは初めてだ。
慣れない言葉に困惑することしばし。

誰かが開け放すようにして和室に入ってきた。
・・船長さんでした。

「お、リア君と小傘じゃん。
 あ、リア君着替えたの?随分様になっているじゃん。」

おわ。ムラサさんにも褒められた。
うれしいなあもう。

「どうしたのムラサ?」
「あ、お風呂沸いたからさ。どっちか入る?
 ・・あ、いや、リア君が先。昨日入ってないでしょ?」
「あ、はい・・・。」

昨日どころか、かれこれ3日入ってません。汚いな俺。
お言葉に甘えるとしよう。

「じゃあ、お湯を借りていいですか?」
「もちろん。そこの廊下の突き当たりがお風呂だからね。」

こうして、俺は命蓮寺の湯を借りることにした。


つづけ