東方幻想今日紀 十三話  紅帽の少女

「・・・だ。」
「んっ・・・。」
「ほら、朝だ、早く起きるんだ。」
「もう・・・すこし・・・・。」

夢と現の狭間で俺はもやもやとした意識でその声を聞いていた。
布団は気持ちよく、その少し低めの声も
揺り篭のような効果だった。

「全く・・・困ったな・・・。」

「・・・取って食・・・・」
「食われてたまりますかぁああ!!」
「ひぅわぁっ!?」

一瞬で覚醒!防御体制は万全・・・ってあれ?
目線の先には涙目で腰を抜かしていたナズーリンさんが。

「い・・・いきなり起き上がるからっ・・・。」

やばい。またやってしまった。
どうも俺は食われる、という言葉に過敏になってるらしい。
何故かシャクナゲさんに起こされたときを思い出した。

「お・・・おはようございます・・・・お元気ですか・・。」
「ああ、元気だ。君ほどじゃないがな・・。」
仏頂面で淡々と答えるナズーリンさん。怖い。

「う・・・すみません・・。」

「・・・はあ、朝食の時間になったから
 起こしに来たんだが・・・やはり寝ていたね。」
「すいません・・・今何時なんですか?」

かなり朝早いと思う。鳥が鳴いている。
初夏なのに肌寒い。・・・・・ん?初夏・・・?
そういえば昨日は六時位にはもうすでに暗くなっていた。
明らかに初夏ではない。空気も澄んでいて冷たい。
・・・ということは・・・はねられた瞬間と季節が
変わっているという事になる。一体これは・・・・。

「・・今は六時半だ。さあ、みんなが待っている。行こう。」

考えても仕方が無い。行こう。
布団を畳んでナズーリンさんに付いていった。

「お、来た来た。さ、リア君、座って座って。」
広間に行くとみんな座っていた。
俺が最後みたいだった。申し訳ないなぁ・・。

「では、いただきます。」
聖さんが呼びかけてみんなで食べ始める。

今日は玉子焼きと鮭とご飯。
・・・なのだが信じられないほどおいしい。
卵はまだわかるのだが、鮭は腕が左右しにくいはずなのに
すごくおいしかった。舌がとろけんばかりの塩加減、味。
「おいしい・・・・。」
つい言わずにはいられなかった。

「今日は聖だからな。おいしいだろう?」
「はい、とっても!」

朝食を食べ終わると、ムラサさんが話しかけてきた。

「ねえ、その刀、もし良かったら私にも切れ味を
 確かめさせて欲しいんだけど・・・いいかな?」

あれを見て振りたいと思ったのか。
でもあれだけの切れ味ならしょうがないかもしれない。

「あ、いいですよ。」
快諾した。断る謂れは無い。
「じゃあ、庭に行こう!」

庭に行き、廃瓦を数枚積んだ。
ムラサさんに刀を渡す。
「へえ、結構この刀、軽いんだね・・。」
「ええ、軽いんですよ。だから怖いんですけど。」

「じゃあ、抜くよ・・・んっ・・・。」
あれ。抜けないみたいだ。

「んっっ・・っくぅ・・・!!」
顔を赤くして思い切り抜こうとしている。手が震えていた。
「だ、大丈夫ですか?」

「・・・っはあ、駄目、抜けない・・何で?」

「もしかして・・・その刀、貸してください。」
「うん・・・はい。」

もしかしたら自分にしか抜けない・・・のかも。
そう思い、鞘から抜いてみる。

スラリ

小気味いい音がして、容易に抜けた。

「っ!?」
驚愕するムラサさん。

「・・・この刀はきっと俺にしか使えないのかも知れません。」
そう考えるとますますもって謎だ。
この刀はそもそも持っていたものじゃなく、ここに来た時に
腰に差さっていた物だ。材質もわからない。

そういうと、ムラサさんはちょっと残念そうに肩をすくめて
「そっか、まあでも、そういうものかもしれないよね。」

「お?面白そうなことやってるねえ?」

後からちょっと高めの声。
びっくりして後ろを振り返る。

そこには低めの背の形容しがたい容姿の少女がいた。
身長は135あるかないかぐらいだろうか。
赤で縁取られた白の服で、
肘と膝の部分の布がない。頭には円柱に近い形の
帽子をかぶっている。さらにその帽子には
先が二股になっている蛇の舌の様な触角があった。

「丙、おはよう。昨日は何で来なかったの?」
「うん、ちょっとね。」
丙・・・って言うのか。

「ねえ、そこの君、話はぬえから聞いたよ。
 その刀のこともね。早速だけと私と遊んでいかない?」

「え?いいですけど・・・。」
唐突な誘いにびっくりした。何をするつもりだろう。

「うん、やり方は簡単。私を斬ったらあなたの勝ち!
 んで私は攻撃しない。私はこの円から出ないで
 15分間逃げ回る。そしたら私の勝ち。どう?」
彼女はそういうとその辺の枝でおもむろに
半径1m位の円を書きだした。

「面白そうですね!いいですよ!」
「でしょでしょ?」

「・・って馬鹿ですかぁあ!!」
「おお、いいツッコミだねえ。」

・・本当に何をおっしゃっているんだろう・・この子は。
ムラサさんがくすくす笑ってるし。
「・・・えっと、何でですか?」
「んー、君の剣の腕を鍛えてあげようと思って。
 素人なんでしょ?私を斬ったら腕が上がると思うな。」

ツッコミの腕が上がるわ。

「これ・・・実は良く切れるんですよ。」
「いや、それは知ってるし・・そんな馬鹿を見るような目で
 じっと見つめないでくれるかなあ・・・・・?」

・・しょうがない。あんまり気乗りしないけど・・。
それにあの自信は普通じゃない。聞いてるなら尚更だ。

「・・・どうなっても知りませんよっ・・・?」
「うん、じゃあ今から15分ねっ!」
「じゃあ、私が時間を見るよ!」

頭斬ってやれば馬鹿が治るかもしれないな・・・。
そんな事を思いつつ、俺は丙さんを見据えた。

・・・斬りたくない。でも斬りたい。
二つの相反する気持ちが俺を支配していた。
・・帽子をかすめ斬る。そうすれば怪我をさせずに勝てる。

それは難題だとわかっていた。
でも、やるしかない・・・。できれば、触角を・・。


つづけ