東方幻想今日紀 十二話  女の子の部屋とは名ばかりの

ナズーリンさんの部屋に案内された。
女の子の部屋に呼ばれたと思うと少し嬉しい。
・・口調はとても女の子とはかけ離れているけど。

それにしてもさっきから走る嫌な予感は何だろう。

「ここが私の部屋だ。入ってくれ。」
そういって彼女は横引きの戸を空けて入った。

「おじゃましま・・・す。」
良く片付いた和室だ。
灰色の座布団がいくつか重ねてある。
広さは九畳位だろうか。中央に鼠色の角机。
よかった・・ネズミだらけだったらどうしようかと・・。
それ以外には本棚がある。結構読書家みたいで、
かなりの量の本が収納されていた。

そして、座布団にちょこんと座る何か。

・・・・ネズミだ・・・。

「な、ナズーリンさんネズミ!ほ、ほらあそこ!」
「落ち着くんだ・・私もネズミだし、ネズミ妖怪なんだから
 私の部屋にネズミがいるのは当たり前だろう・・・?」

ちょっとしかめっ面してナズーリンさんは言った。

あ、そうだった。というか失礼だったな今の・・。
「す、すみません・・・。」
「・・・まあいい・・ちょっと・・期待したんだがな・・。」

「え?」
彼女はすごく含みのある目をしていた。ような気がする。

「あ、いや、なんでもない。トレウス、彼に挨拶してくれ。」
トレ・・ウス?

そういうとそのネズミは、
「こんばんは!僕の名前はトレウス!
 ナズーリンさんの子分のネズミさ!
 隊長をよろしくお願いします!!
 こう見えても隊長は寂しがりやだからむぐぅ!!」
「トレウス!!余計なことを言うなっ!!
 ・・馬鹿者っ!!全く・・・やめてくれよ・・。」

顔を真っ赤にしてトレウスとやらのネズミの口を
慌てて押さえるナズーリンさん。

・・・というか・・・・・。
ネズミが・・・喋った・・・・!!!!!???

「・・・そんなに驚いた顔をしてどうしたんだい?」
「いや・・・ネズミがしゃべった・・・・もので・・。」

ナズーリンさんは心底心外そうな顔で
「おや?そっちのネズミは喋らないのかい?」

しゃべってたまるか。

「ふふっ。なんて、冗談だ。こっちもネズミは基本的に
 喋ったりしないよ。長生きしたネズミは喋れるけどね。」
へえ・・・そうなんだ・・嫌な冗談だ。
「ちなみに今、トレウス君はどれくらいで?」
トレウス君に訊いてみる。

「あー、今年で120前後かな・・・?
 多分だけどね。たいしたこと無いでしょ?」
「月齢ですよね?」
「いや、年齢だけど?」
「ここって一年は何日なの?」
「365日と・・ちょっと。」
「そっか、うん、わかったよ。」

わあ、トレウスさんって先輩だったんだ。意外だなあ。

・・・やべえ。マジか。長生きってそういうレベルなの?
こっちでは三年前後なんだけどな・・・。

「ちなみに彼はいくつくらいなの?」
「さあ・・私もまだ訊いていないんだが・・・・人間だし、
 見た目から判断するに15か6位じゃないかな・・・。」

なにやらひそひそ話をしている。良く聞こえないけど・・。

「さて、そろそろご飯にしよう。もう六時半だ。
 ついて来てくれ。夕飯の準備をするから。」
「あ、はーい。」

ナズーリンさんの部屋から出て、夕食の準備をした。
大皿に盛り付けた八宝菜と切り分けて人数分ある卵包み炒飯。
これを中央に置いたり取り分け用の皿を運んだ。
座布団を人数分置いた。
その間にナズーリンさんがみんなを呼んできた。

「おお、今日は八宝菜なんだね。」
「うわあ、おいしそうですね・・・。」
「いい匂いがするねえ・・。結構丁寧だし。」
丁寧・・・なのかあれは。

ナズーリン、また腕を上げたんですね。」
上がったのはスピードだと思いたい。あれは人間業じゃない。

なんだかんだで全員座り、聖さんの合図でみんな食べ始めた。
「これ、リア君とナズが作ったんでしょ!?すごいおいしいね!」
「いや、リアは手伝いくらいだ。主に私だがな。」
すいません、手伝えてすらないです俺。

「そういえば、リア君っていくつなの?」
「あ、それは私も訊きたかった。」
「えっと・・・16ですね・・・。」
「え!?ああ、人間だもんね。そりゃ若いか。
 いいなあ。私も若い頃に・・・戻りたくない。」
戻りたくないのかい。

「というか君はもう死んでいるだろう?」
「あ、ひっどーい。それ言っちゃ駄目だよ!」
「あはは、すまないな。」

楽しそうに笑うムラサさんとナズーリンさん。
何だか楽しそうだ。こっちまで楽しくなってくる。

「どうだい、リア。ここもなかなか面白いかい?
 命蓮寺はいつもこんな感じなんだ。」
「はい。すごく楽しいです!」

料理を食べ終わり、みんながそれぞれのところに行った。
すごく楽しかったなあ・・・。
客間にはもう布団が敷いてあった。誰だろう。ありがたいな。

一人で寝ようとしたら、いつから来てたのか、
小傘さんが話しかけてきた。
「えへへ、こんばんはリア君。今日は楽しかったね。」
「あ、はい、楽しかったですね。」

「あ、私に敬語は使わなくていいよ。気軽に話してね。
 あと小傘って呼んで良いからね?」

何だかすごく嬉しい。
ここの一員として改めて認められた様に感じられた。

「えっと、小傘?」
「ん?何?」
「どうしたの?いきなり話しかけてきて。」
「えっとね・・・夜まで退屈だから花札でもやらない?」
「あ、いいですよ。」

二人で花札をすることになった。

競技は花合わせ。

十勝一敗でした。小傘弱いな・・・。

「じゃあ、今日はありがとね。おやすみー。」
「うん、おやすみ、また明日ー。」

俺は小傘さんと別れると布団に潜り込んだ。


暖かい布団で寝ると今まで思いもしなかったことが頭をよぎる。

・・・家族は今どうしてるだろうか。
心配しているだろう。家を飛び出してきて戻らないんだから。 
俺がいなくなったら、向こうはどうなるんだろうか。

・・瞼が熱い。頬を暖かいものが伝う。
俺は泣いているらしい。
できれば、帰る術が欲しい。
ここの人は優しいけど、家を思い出すと辛い。

あんなにうざったかった親も、すごく懐かしい。

考えてもしょうがない。何とかして戻れるようにしたい。
その方法を探す為にここでがんばろう。

そう決めて、俺は明かりを消して寝た。



つづけ