東方幻想今日紀 十一話  ナズーのおいしいレストラン

料理スペシャル。


台所に案内された俺は
ナズーリンさんに付いて行き、長い廊下を渡る。
少し、前から気になっていたことを考えてみる。

まず、ここに来てからのことなんだけど・・。
すごく記憶が飛びやすくなっている気がする。

ここに来る直前に車に撥ねられたのが原因だろうか。
でも何で自分の名前以外全部覚えているんだろうな・・。
後の過去の記憶はちゃんとある。しっかり思い出せる。
一体どうしてしまったんだろう・・・・。
そもそも俺は記憶能力には自信があったんだけどな。
「・・・・い。」
これから生活していくときの支障に・・
「おーい?どうしたんだリア?」

「ってうわあぁあ!!?」
「うわあぁっ!!?」

「はあ・・・びっくりした・・。
 お・・・驚かさないでくれるか・・・?」
「あ、すみません・・・。どうしたんですか?」

ナズーリンさんはちょっと困った顔をして、
「どうしたもこうしたも無いよ全く・・・。
 付いて来ないと思ったら小難しい顔をして立ち止まって
 いれば誰だって心配になるじゃないか・・・・。」

「あ・・・驚かせてすみません。ちょっと考え事を・・。」

俺がそう言うと彼女は苦笑いして、
「はは、そっか・・・考えるなとは言わないが・・。
 あまり考えすぎは良くないぞ?それに・・・・。」

彼女は言葉を切って、少し縁側の外を見るとまた続けた。
「・・・それに、私もそういう癖があるんだ。
 考えても仕方ないことは大体後でわかる物だ。」

「そうですね・・。おかげで気分が少し晴れました。
 ありがとうございました。」

ウジウジ悩んでも仕方ない・・・か。
時が解決してくれるかな。

ナズーリンさんは向き直り、また廊下を歩き出した。
自分もそれについていく。
それにしても足はええな。こっち小走りだぜ?

台所に着くとナズーリンさんはエプロン(?)と
三角巾を巻いて手を洗った。
清潔な台所だ。そこはかとなく和風の雰囲気が漂う。
そして自分も同じ格好をして、気になることを聞く。

「・・・何を作るんですか?」

「今日は八宝菜と卵包み炒飯かな。」

無理ですごめんなさい。もう一度言います。無理です。
この三角巾取りたいです。
八宝菜とか一週間前レシピ見て二秒で本を閉じたやつだ。
な つ か し い な ぁ。

「・・・どうした?顔が凍ってるぞ?」
「・・・・心なんか折れてません・・。」

「・・・はあ。手伝うだけでいいからな?
 じゃあ・・・まずはこの丸キャベツを
 軽く水洗いしてから切ってくれないか?」

ちょっと待て。カタカナが混ざった気がする。
キャベツって日本語だったっけ・・・。
というか八宝菜は普通白菜を使うんだけどな・・。

とりあえず言われたようにキャベツを水洗い。
ナズーリンさんは材料を並べていた。

ナズーリンさん、包丁どこですか?」
「これを使ってくれ。」

渡されたのは普通の包丁。ちょっとちっちゃい。
早速まな板にのせてキャベツを抑えて中央を切・・・

「あ、芯は取ってくれよ?」
わかってるともさ。今切ります。
気を取り直して芯の方に包丁を入れ・・。
「あの・・見てて怖いんだが・・・深々と先端を芯の中心に
 入れられると・・・そして何で刺さるんだ・・・。」

え?駄目なの?
ちょっと硬かったけど・・・。がんばれば刺さるよ。

「ちょっと貸してもらえないかな・・・。」
キャベツを取り上げられた。ああ。

「キャベツはこうやって芯を取るんだ。」
そう言うと彼女は慣れた手つきでキャベツの芯を上に
まな板に置き、押さえ、周りの葉に軽く切れ込みを入れ、
外の葉を剥がしていった。あ、そうやるんだ。
そして先端を少し芯から離した所に軽く入れ、
押しながらすばやく回していった。
少しすると芯は取れた。早い・・・。
工場見学に行ったときのことを思い出した。
芸術的なまでの綺麗な切り方と手際。
ここまで来るのに何年かかったのだろうか。

「いや・・・これだけでそんなに目を輝かせないで
 欲しいんだが・・・・後は葉をほどほどの大きさ、
 そうだな・・このくらいの大きさに切ってくれ。」

そう言うと彼女はキャベツを俺に渡した。
そして両手の親指と人差し指で長方形を作った。

「了解です!がんばります!」
「いや、気合を入れなくても出来るだろう・・?」

キャベツの葉っぱをまな板に置き、包丁を入れる。
・・・硬い。

ぐっ・・・ザシュ 
ぐっ・・・ザシュッ

「代わってくれ。危なっかしくて見ていられない・・。」
二人の手を行き来する一玉のキャベツ。

「こうやって手を丸めて切るんだ。
 さっきみたいにやると手を切ってしまうよ。」


というかやっぱり切るのが速い。
しかも大きさが揃ってるし・・。

「すみません・・・手伝えそうに無いです・・・。

そういうと彼女は苦笑して、
「そうか・・・わかった。
 じゃあそこで出来るまでを見ていてくれ。」

彼女は卵とフライパンを取り出して
コンロらしきものに火をつけた。
というかガスが通ってるんだなここ・・。
何でこんなに無駄に近代的なんだろうか・・・。
シャクナゲさんの家では手から炎出してましたが。

そう思うが早いか、彼女はおもむろに片手で卵を割り、
フライパンの上に落とした。片手・・・・!?
そして火加減を見つつキャベツの続きを片手で切り出した。
ちょっと待て。片手でやるなし。
頃合を見てフライパンを大きく動かしてひっくり返した。
卵が少しの間宙を舞った。

綺麗にひっくり返った卵は綺麗な焼き色が付いていた。
と、彼女の目はフライパンではなく
あろうことかキャベツに注がれている。
おい。見ないでひっくり返したのかあれを。

にんじんを片手で切る。もう片手で卵をひっくり返す。
切り終えた後卵を皿に移す。
その効率はもう人間業じゃなかった。

豚肉とえびに塩コショウを振り、なじませる間に
鍋に水を入れ切った野菜を菜箸を使って茹でる。
そして茹でている間空いた片手で炒飯を作り始めた。

両手をフルに使って二つの料理を同時に作っていく。
どんどん工程が進んでいって唖然とした。何だこれ。
もう突っ込むのも馬鹿馬鹿しくなるほどの手際。

最後にさっと具材を炒め、
もう片手で菜箸を混ぜる手を止めた。

二つを同時に別の大皿に入れ、手を止めた。

「どうだい?」
「す・・・すごいです・・。」

ちょっと得意顔なのが腹立たしい。
でもすごい効率だ。だが、問題は味だ。
どこの料理家だ俺は。

・・・ノリ突っ込みさびしい。

「味見してみるかい?」
「あ、はい。いいんですか?」

少し味見してみた。普通においしい。
何でこんなのがこんな早く出来るんだよ。

「・・・毎日作ってるんですか?」
「いや、一応ムラサと聖と私の三交代で作っている。
 聖が一番上手いと思う。
 隠し味は魔法だとかいう冗談も言っているしな。」

そ・・そうなんだ・・・。
聖さんぱない・・・。

「さ、もう夕飯の準備が出来たから戻ろう。
 そうだ、折角だから私の部屋に来てみるかい?」

え?そういうことなら喜んでお邪魔するけど・・。
「・・いいんですか?」

「ああ、構わない。じゃあ、付いて来てくれないか?
 あ、三角巾はたたんで元の場所に置いてくれ。」

三角巾をたたんで後に付いていった。
どんな部屋なんだろう。

まさかネズミだらけとか無いよな。
はは。まさかな・・・・。
あれ、寒気がするなあ。なんでだろ。