東方幻想今日紀 五話  優しい青年の家にて

青年の家に一泊することになった。
美味しいとは言えないが、
まともな料理が出たので美味しくいただいておいた。
なんて親切なんだ。ここも良い所なんだね。
何かもう永住したい。

「ここが、今日あなたが泊まる部屋ですよ。」
紹介されたのは6畳程度の綺麗な畳の部屋。
しっかり掃除されている。小さな机があった。

「ここでいいんですか?凄い綺麗ですよ?」
「ええ。今日はここを使ってください。」

あ。忘れてた。
宿交渉するつもり無かったから置いてきたのに。

「あの、一つ言い忘れてたんですが・・・。」
「ええ。どうぞ。」
もしかしたら追い出されるかも。
「刀持ちなんですけど・・・いいですかね・・・?」
隠しておくことも出来るが、盗まれてもあれだし。
近くに置いておきたい。
「ええ。いいですよ。」
「え、いいんですか?」
意外な答えが返ってきた。
「もし斬るつもりがあったら言わないですよね?」
成程。そういうことか・・。この人頭が切れるなあ・・。
その後歓談することしばし。
こんなことを言われた。
「その服、変わってますね・・・。どこから来ました?」
「ええとですね・・・。」
自分が外の世界から突然ここに来たということを話した。
「・・・成程、外来人ですか・・・。珍しいですね・・・。」
「・・・珍しい、とは?」
「普通、外来人は妖怪に食べられるんです。
 人里に着く前に。それはこの世界の妖怪は人の形を
 しているものが殆どなのです。そのせいで村人と
 勘違いして襲われる、という風に村に来れないんですよ。
 全ての外来人に共通して、小さな箱を取り出して
 耳に当て、呆然とする様なのです。何故でしょうか?」
たぶん携帯だな。圏外だろうねそりゃ・・。
「こっちの世界には、通信が出来る箱があるんですよ。
 耳に当てて相手の声を聞くんですよ。
 もちろん、専用の電波が無いと駄目なんですが・・・。」
「そうなんですか・・・合点がいきました。それで・・。」

話が一段落し、お茶をすする。
あ、名前を聞くのを忘れてた。
一晩のお世話だが、覚えておかないときっと不便かもしれない。
「すみません、名乗り忘れてました。『リア』と言います。」
リアなのに非リアだがな。
思い出せないから仮名だけど・・。
「そっか。いい名前だね。僕はシャクナゲ、と言うんだ。」
彼は少し考えて、言葉を続けた。
「実は人間ではなく、この地に古くからいる妖怪なんだ。
 あんまり言いたくは無かったけど・・・。まあ、
 あなたにならいいかな、と思ったんですよ。」
妖怪・・・だったのか。道理で傷口から妖気、
とか言い出したのか。
「それにしても・・・どうやってここまで来たんですか?
 それに・・随分と落ち着いた様子ですよね。普通は
 ここまで環境が変わると事実が飲み込めないものですよ?」
「あー・・・ですよねー・・。」
これまでのいきさつを全部話すことにした。
「成程、厄神の案内を・・。多分、鍵山雛ですね・・。
 妖怪の山で彼女に会えたのは幸運ですよ。
 彼女は人間が好きだから適切な情報を教えますよ。
 普通は腹を空かせた妖怪に見つかるんですがね・・・。」

あんたも同じ事を言うのか。
ここでちょっと素朴な疑問を口にした。
「あなたも妖怪なら何で人間に親切なんですか?」
するとシャクナゲさんは明るい顔でこう言った。
「あはは。妖怪といっても普通のものを食べるんですよ。
 食べるものに人間も入ってるだけです。それに
 人間をとって襲うのは野良妖怪くらいですね。
 それ以外はむしろ人間と共生してるくらいなんですよ。」

へえ・・・じゃあ安心か。
「おっと、もうこんな時間か。
 今日はもう寝たほうがいいですよ。
 明日はいつ出発するんですか?」
おっと、それを忘れてた。
「明日は朝に出ようと思います。」
「そっか。あてはありますか?」
「・・・。」
ねえよ。
「あはは、ごめんごめん。それだったらこの近くに
 命蓮寺という妖怪寺があるんですよ。そこがいいかな。」
妖怪・・寺!?
「あ、いやそんなに怖い顔しないでくださいよ。
 さっきも言ったように野良以外は
 とって食ったりしませんてば。」

「そ、そうですか・・・。よかった。
 どこにあるんですか?・・・そこ・・・。」

「あした僕が案内しますよ。だからゆっくり寝てください。
 それじゃあ、おやすみなさい。今日はありがとうね。」
そういって、シャクナゲさんは部屋を出た。

いい人だ。何かほんと俺は幸せだな。
地獄で仏、といったところだろうか。

とりあえず明日に備えて寝よう。
命蓮寺・・どんなところなんだろう。
気の合う人がいたりして。
こうして、俺はシャクナゲさんに感謝して眠りについた。



つづけ