東方幻想今日紀 八十六話  増え続ける刻印の犠牲

俺とナズーリンはあの後命蓮寺に一旦戻ることにした。

勿論目的は現状確認だ。

それが終わったらある考えを実行する為に
薬の材料をナズーリンと探しに行く予定だ。





命蓮寺に俺が帰ると皆心配してくれたみたいで、
会う度に皆口々に良かった、などの言葉を掛けてくれた。

ぬえは「はっ、よく生きてたな、のたれ死ねばせいせいしたよ」
と言っていた。本当にぬえは素直じゃないなあ。
本当は心配したんでしょうに?ツンデレだな、かわいい奴だよ。




・・・とか言わなければグーで視界が
霞むほど頭を連打されることも無かったんだろうなあ・・・・。



それはともかく丙さんはやはり命蓮寺には戻っていないようで、
皆が丙さんの所在を心配していた。

わからないけど生きている、
という旨を伝えたら皆は安堵してくれた。




・・で、肝心の刻印だが。


「うわ・・・酷いな・・。」
「うう・・・何でこんな事に・・。」


ムラサさんの腕にはくっきりと「六」の刻印。
そして、左肩と脇腹には痛々しい包帯が巻いてあった。


ムラサさんはがっくりとうなだれていた。


これで全員確認した。

刻印はムラサさん、聖さん、ぬえ、寅丸さんにある。


ムラサさんは「六」、ぬえは「六」、
寅丸さんは「六」、聖さんは「七」だった。


でも何で・・・この四人が・・?


確かに四人ともあの時外に出ているが、
あの時戦いに出向いたのはそこに一輪さんを加えた5人。
何で一輪さんは無事なのだろうか?

いや、そういえば一輪さんは怪我していなかったな・・・。

怪我させられると刻印が植え付けられるんだっけか。


・・・しかし、そうだとしたら数字は?


みんなは四から七の間。少なくとも俺みたいに
二十八とかアホな数字ではない。


やはり強い獣妖怪に攻撃されたから
俺はこんな膨大な数字になったんだろうか?

ちょっと聞いてみよう。


「ムラサさん、怪我させられた敵、
 鬼火・・・纏ってたでしょ?」

「え?うん・・あれは一体何だったの?」


そうか・・ムラサさんたちは知らないのか・・。


「多分あの鬼火は強さの階級だと思う。
 数が多ければ多いほど、強くなってたから。
 そのさ・・・攻撃された敵の鬼火の数・・いくつだった?」


俺がそう言うとムラサさんは心底感心したような顔をした。

「へえー・・・!!あれ、そんな意味なんだ・・!!
 あ・・・えっと、三つの奴に・・・二回・・・。」


少し照れ隠しに言うムラサさん。




・・ん?ムラサさんの刻印は・・・六だったよね・・。

三つ鬼火の敵に・・・・二回・・・。


三×二で・・・・六。


・・・まさか・・・。



自分の刻印は二十八。
攻撃されたのは七つ鬼火に四回・・・。


七×四は・・・・。


「ああああっ!!」
「えっ・・・え?」


ムラサさんが耳を抑えて仰天していた。


どうやら驚かせてしまったみたいだ。


「・・・ご、ごめん・・。」
「いいけど・・どうしたの?」


そうか・・・そういうことだったのか・・・!!


「刻印の数の謎がわかった・・!!
 あれは攻撃された回数とその敵の鬼火の数の積なんだ!」
「へえ・・・そうなんだ・・確かに・・まあ。」


・・あれ?反応薄い・・。


「ムラサさん・・もしかして・・どうでもいい?」

俺がそう訊くとムラサさんは真顔でこう答えた。


「だって・・・それわかっても・・・
 どうにもならないんでしょ・・・・?」

「はうっ!」


言われてみればそうだ・・・!!
これがわかったところで・・・何になる・・!


「・・・何をしたらいいかもわからない・・・
 ・・このまま怯えてこれから先過ごしていくのかな・・。」


・・そうだ。


今はそんな事を理屈でこねくり回している時じゃない。

だから行動を起こすんだ。
少しでも可能性のある方向へ走ればいい。

今すること・・・それはナズーリンと一緒に薬の材料を集めて
明日の晩までに永遠亭に届けることだ。


「ムラサさんっ!ありがとっ!!」

「え?リアくんっ!?どこ行くの?」


俺は居ても立っても居られなかった。
すぐに広間を出て、階段を駆け上がった。



そして扉を開け放し、こう言った。



ナズーリン!準備できたよ!!行こう!」





彼女はにこやかに笑って口を動かした。

小さな小さな声だったが、はっきりと聞き取れた。




「コ コ ニ セ イ ザ シ ロ」



俺はしばらくの間、彼女の説教を聞かされた。
またノックを忘れていたのだ。




彼女の説教が終わった後、
俺とナズーリンはいよいよ材料探しに向かった。


最初の目的地は妖怪の山。
そこには薬草の類が多いからとの事だった。




つづけ